今注目の「睡眠負債」による健康リスク。ただ、寝なければ、という強迫観念にかられてしまうと、かえってやっかいなことになりかねません(写真:プラナ / PIXTA)

こんにちは。生きやすい人間関係を創る「メンタルアップマネージャⓇ」の大野萌子です。

みなさん、夜はしっかり眠れていますか? カウンセリングをしていると、時期を問わず多いのが睡眠の悩み。とくにこの時期は、真夏の寝苦しい熱帯夜が原因で、その後もすっかり睡眠リズムが狂ってしまったり、夏休みなどの連続休暇の影響で生活リズムが乱れたことによって、“眠れない”ことに苦しむ人が増えていまいます。

「睡眠負債」ブームで"眠れない人々”の悩みに拍車


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最近は、もっぱら良質な睡眠への注目が高まっています。書店で『一流の睡眠』、『なぜ一流の人はみな「眠り」にこだわるのか?』『スタンフォード式最高の睡眠』といった“睡眠本”が平積みされているのを見たことがある人もいるでしょう。

キーワードとなっているのが、「睡眠負債」です。日々のわずかな睡眠不足が、まるで借金のようにじわじわ積み重なることによって、命にかかわる病気のリスクを高め、日々の生活の質を下げていると言われています。これが、眠れない人たちの悩みに拍車をかけています。

睡眠の時間や質を保っていくことは、確かに健康に不可欠だと思います。ただ、睡眠負債を作らないように「何としてでも眠らなければ」、という強迫観念を抱くことは、心に大きな負担をかけます。病気のリスクを心配して睡眠負債をためないように努力した結果、精神を病んでしまったら元も子もありません。

では、無理に「寝よう」することはどこが問題なのでしょうか。人は、副交感神経が優位になることで、眠りに入っていきます。一方、「寝よう、寝よう」と思うほど、緊張感が高まり交感神経が優位になり、眠りにつく状態からは遠ざかっていきます。

眠れないとき、せめて身体だけでも休めていようと、暗くした部屋で横になる人もいるでしょう。これも実はよくありません。夜、暗い中でじっとしていると、嫌なことを考え始める傾向があるのです。「悩み」「不安」「ストレスに感じていること」などが次々と浮かんできて、思考は負のスパイラルにはまっていきます。心配なことや、凄く嫌なことがあった日などはなおさらです。

特に夜の時間帯は、気持ちが敏感になりやすいもの。夜中に打ったメールや書いた手紙の内容をあとで見て、こんなに感情的になっていたのかと自分でびっくりすることはありませんか?

こうした状態を続けていると、自分の負の感情をもてあまし、必要以上に不安になり、心臓がどきどきする、呼吸が浅くなる、冷や汗が出るなどの心身の不調を招くことがあります。そしてしまいには「うつ状態」を引き起こしてしまうこともないとはいえません。明け方に自殺者が多いのは、このことと無関係ではありません。

また、お酒に頼るのも逆効果です。アルコールには確かに、「覚醒水準調節作用」といって、興奮している人には鎮静効果を、抑うつ状態の人には興奮効果を与える作用があります。したがって、気持ちが落ち着かずに眠れないときにアルコールを飲めば、ホッとできて寝つきがよくなる可能性はあるのです。時にはこの効果を利用するのもありだと思いますが、常に眠るためにお酒を飲むことは避けたいところです。

眠るために飲み続ければ深酒になり、睡眠の質を下げ、結果的には良い睡眠がとれません。アルコールは、摂取直後には眠気を催させる一方で、時間が経つと深い眠りを妨げ、中途覚醒を引き起こすことになるなど、睡眠の質を低下させるのです。

眠れないなら、起きてしまうのも1つの手

では、眠れぬ夜にはどうするのが適当なのでしょうか。私は、研修の受講者やクライアントに対して「眠れなくて苦しいなら、部屋を明るくして思い切って起きてしまいましょう」とお話しています。

食事を1〜2回抜いたり、時間をずらしたりしただけでは問題がないように、いくら睡眠負債が問題だからといって、数日眠れなかったことで急激な健康被害があるとは思えません。人間は生命維持のために、絶対に眠らざるを得ないわけですから、「必ずどこかで眠るので大丈夫」「眠くなったら寝る」くらいの、ラクな気持ちを持てるといいなと思います。眠れないことに対し、必要以上に罪悪感にとらわれることはありません。実際、そう思うことで「気が楽になって眠れるようになった」という感想をたくさんいただいています。

もちろん、どうしても寝付きにくい、眠れないことが習慣になってしまっているようであれば、医師に相談して自分に合う薬を処方してもらうことも考えましょう。

適切な睡眠時間には、個人差があります。さらには、年齢や活動量によっても変わってくるので、一概に何時間寝るのがいいとは言えません。朝早く起きてしまい、その後眠れないことに悩んでいる人が、実は十分に睡眠が足りている可能性も高いのです。

また、睡眠負債の健康リスクに関する学説も、今後変わってこないとはいえません。なにしろ、8年くらい前には「睡眠負債は取り戻せる」という真逆の論文が脚光をあびていたのですから。

秋の夜長、眠れなければ本を読んだり、動画を見たり、軽食を取ったり……と誰にも邪魔されない静かなひとときを過ごしてみましょう。気持ちのリセットにも大いに有効かと思います。

健康を害したらどうしようという気持ちが、眠ることへのプレッシャーになり、かえって健康を害してしまうことのないようにしたいですね。