東京・高円寺で80年以上愛されている銭湯「小杉湯」。

そこで唯一の常駐スタッフとして働いているのが、塩谷歩波(えんやほなみ)さん(27)です。

若者が集うイメージのない銭湯で、平成生まれの塩谷さんが番台に立つようになったのはなぜでしょうか。

「小杉湯」にて本人に話を伺いました。

過労で休職。銭湯が私を救ってくれた

--若い方が銭湯で働いているというのが意外でした。まず銭湯との出会いを教えてください。

塩谷:出会いは約1年ほど前、建築関係の仕事をしていた時です。

忙しい日々の中、寝ても疲れがとれず、めまいや絶望感に襲われることが増え、ついに体を壊してしまったんです。

医師から「過労による機能性低血糖症」と診断され、昨年の9月から3ヶ月間休職していました。

その時、医師に「代謝を上げた方がいい」と言われ、銭湯に行ってみたところ1回ですごく調子がよくなって。

それから都内の銭湯を巡るようになりました。

--過労の疲れを癒やしてくれたのが銭湯だったんですね。それから「小杉湯」に転職した経緯はなんですか。

塩谷:休職中に「小杉湯」の若旦那に声をかけて頂いたのがキッカケです。

当時、銭湯の魅力を知った私は「銭湯に恩返しをしたい」と思い、銭湯の内観をイラストにしてSNSに投稿していました。

塩谷:この「銭湯図解シリーズ」を若旦那が見てくださり、最初はパンフレットの挿絵を描くなどお手伝いをさせていただきました。

前職を辞めるタイミングで、常駐スタッフとして本格的に「小杉湯」で働き始めました。

--建築界から銭湯へ。全くの異業種への転職は怖くなかったですか。

塩谷:確かに怖かったです。なかなか自分だけでは決断できなくて、「自分で決められないなら友達に決めてもらおう」と思い10人の友達に相談したんです。

誰か1人でも転職に反対したら建築界に残ろう、そう思っていたんですが全員に転職を勧められて(笑)

それから銭湯で働くことになりましたが、今思うとこの選択は間違ってなかったなと思います。

「銭湯に恩返しをしたい」イラストを通して伝えたいこと

番台で「銭湯図鑑」を描く塩谷さん

--「銭湯に恩返しをしたい」ということですが、絵を通して銭湯がどうなることを目指していますか。

塩谷:若い世代の方に銭湯の魅力を伝えたい、と思い描き始めました。

銭湯の中ってイメージしにくいので、それをほっこりしたイラストで図解すれば来て頂きやすいかなと思って。

--自宅での入浴が定着した今、お風呂の代わりとして銭湯を利用することも減ってきたような……。

塩谷:そうなんです。だから私は“疲れを癒やす場所”として銭湯を使ってほしいです。

疲れたらマッサージに行く方が多いですが、マッサージって高いじゃないですか。

銭湯は460円ですから。安いし癒されるし、会社帰りにふらっと立ち寄ってもらえる存在になったらいいですね。

--「銭湯図解」を描く上で、心がけていることはありますか。

塩谷:ただ描くのではなく、銭湯の中のストーリーも絵に起こすことです。

例えば、銭湯の洗い場で背中合わせに話しているおばあちゃん達とか。

対面で話せばいいのに、と思いつつほっこりとするのでそのまま描きました。

絵のタッチも、銭湯らしいふんわり柔らかい雰囲気がでるように、色の塗り方や線の太さもこだわっています。

--これまでに何枚の「銭湯図解」を描きましたか。

塩谷:27枚です。新作は鶯谷にある「萩の湯(はぎのゆ)」です。

塩谷:4階建ての銭湯で、4階が女湯です。とても立派な銭湯なので描くのに時間がかかってしまいました。

都内には500以上もの銭湯があるのでネタが尽きません。ぼちぼち地方も巡ってみたいなと思っています。

女子の銭湯事情。銭湯に何もっていく?

--ところで、週に何回銭湯に行っているのでしょうか。

塩谷:毎日ですね(笑)週5日は「小杉湯」で、あとの2日は違う銭湯を巡っています。

「小杉湯」は福利厚生に銭湯がついているので、従業員は入り放題なんです。勤務中に入ることもあって、お風呂に入ってから番台に立つこともありますね。

銭湯好きの友達と遊ぶ時は、集合したらまず銭湯に行って、それからお酒を飲んで、お散歩して、疲れたらまた別の銭湯に行って解散、って感じです。

1日に複数の銭湯を巡るので、銭湯でお風呂に入った回数だと年間500回くらいはあるんじゃないかな。

--女性が銭湯に行くとなると、こだわりのシャンプーや石けんなど荷物が多くなりがちですよね。それが気軽に通えない原因の1つでもあるかなと。

塩谷:そうしたらアメニティが充実した銭湯がいいですね。例えば、荒川の「梅の湯」は100円でノンシリコンシャンプーが買えますし、表参道の「清水湯」もハイクオリティのシャンプーをパウチで買えます。

1番良いのは、お気に入りのものを小さい容器に詰め替えて「お風呂バッグ」を作ることですね。

--ちなみに塩谷さんの「お風呂バッグ」にはどんなモノが詰まっていますか。

塩谷:実は、お風呂グッズには1番お金をかけようと思っていて。

今は全部LUSH(ラッシュ)で揃えています。

塩谷さんのお風呂グッズ

塩谷:銭湯に通い始めてから、肌の調子がよくなって、最近は全然化粧をしなくなりました。

だから化粧品を買わない代わりに、シャンプーや石けんに投資しています。

こういったお風呂グッズって、自宅で使うよりも銭湯で使う方が効果を感じられる気がします。

だから銭湯に行くときこそ良いモノを使ってほしいですね。

--熱のこもったアドバイス……銭湯への愛を感じます!

塩谷:広い銭湯で足のマッサージやムダ毛の処理など、自宅ではやりにくいケアをじっくりできるのも女性におすすめしたいポイントです。

若者と銭湯のこれから

--今後、若者と銭湯はどのような関係になると思いますか。

塩谷:銭湯を素材にして、自分の持ち味を活かす若者が増えていくと思います。

例えば、銭湯×ビジネス、銭湯×アートなど他のカルチャーと銭湯をかけ合わせたモノがどんどん生まれると思います。

あと個人的には、「銭湯って体に良いんだよ」ってことを伝えたいですね。私自身が銭湯に助けられたので、その経験を活かして、銭湯のあるライフスタイルを広めていけたらいいなと思います。

「小杉湯」の番台に立つ塩谷さん

過労で体調を崩してから1年後、「まさか自分が銭湯で働くとは思わなかった」と語る塩谷さん。

今では、銭湯の運営側として「小杉湯」で癒やしとぬくもりを提供しています。

27歳の若き番台が生まれた背景には、ストレス社会の悪習とそれを包み込む古き良き伝統文化がありました。