2017年7月、杉田祐一が日本人史上3人目のツアー優勝を勝ち取った。8月にはグランドスラム大会に次ぐランクのマスターズで自身初のベスト8に進出した。

広く注目されるようになったのはこの夏からだが、杉田はもともと、テニス観戦ファンなら誰もが知る日本のトップ選手だった。高校3年生で鮮烈なデビューを飾り、将来を嘱望されていたからだ。

 

その後の低迷を経て一気にトップに上り詰め、それから日本人トップ5を守り続けている。新人の登竜門のような位置付けになってはいるが、全日本テニス選手権でも2度シングルスで優勝している。

 

実は筆者の和久井は、まわりから杉田ファンで知られている。もともと和久井はテニス記者で、杉田のプロ転向直後からかなり追っかけをしていたのである。彼が日本の下部大会フューチャーズを回っていたころはほぼ全試合観に行っていた。

 

それはいまの活躍を信じていたから……ということでは全くなく、「ぜったい伸びる」とも2chで揶揄されるように「ピーク杉田」とも思っていなかった。ただなんとなく応援したくなる選手だった。シャイで不器用そうなところが好きだったのだ。

 

テニスも少しそんなところがあって、目が離せなかった。ところがこの1年で、すっかり柔軟になったと感じた。試合中に試す手が多くなり、コートを広く使い、テンポがより速くなったかなと思っていたらこの快挙だ。

 

早速、昔のよしみで取材依頼をした。歴史的快挙直後の帰国とあって取材が殺到したようだ。待ち時間の間に、興味深い話を聞いた。

 

杉田はプロ転向と同時に、三菱電機からスポンサー契約を結んでいる。三菱電機はテニス経験者が多数おり、実業団リーグで優勝を狙っていた。しかしチームにプロ契約選手がいなければその目標達成が厳しいことを感じていたときだった。そしてどうせプロ契約をするならお金を出すだけではなく、選手を一から育てたいと考えていたという。そうしてお互いの利害が一致して契約に至ったのが杉田だった。

 

契約当時から杉田とやり取りをしていた三菱電機ファルコンズ(実業団チーム)プロ契約担当の松岡信幸氏は言う。

 

「当初からボブ・ブレッドと三菱電機はアドバイザリー契約を結んでいました。そのため杉田は好きなときに彼にアドバイスを求めることができたんです。そのなかでボブがこんなことを言っていました。『コーチは選手に言えないこともある。選手の機嫌を損ねたら契約解除になるかもしれないからだ。引き替え、スポンサーじゃなければ言えないことはたくさんある。それをちゃんと伝えないと、選手を成長させることはできない』と」

 

努力ができ、才能もあるにも関わらず伸び悩む杉田を見守る三菱電機サイドには、もどかしさがあっただろう。ところがこの数年で、杉田が見違えるように変わったと松岡氏は言う。

 

「昔は、ボブに言われたアドバイスのありがたみが理解できなかったと言っていました。ですが、ボブが繰り返し杉田に言ってきた“インターナショナルになれ”という意味が、やっとわかってきましたというんです。テニスは個人競技ですから、1人で考えて、勝手に行動していいものと思いがちです。でもそうではなく、ATPという組織の構成員としての自覚を持ち、刺激を与え合ったり意識し合ったりすることが大事だと」

視野が広がると、他人の意見がストンと心に入るようになる。いままではわからなかったことも、トランプのカードが次々とめくられるように見えてくるものだ。それが結果にも結びついたのかもしれない。

 

トップ選手の大半はその自覚があるのだろう、ツアー優勝した杉田に、春に対戦したばかりのロジャー・フェデラーはもちろん、練習も対戦もしたことがなかったラファエル・ナダルからも「おめでとう」と言われたという。ATPを構成する一員としての自覚を持ち、大きく成長したからこその結果とも言えそうだ。

 

インタビューの現場は、幸せそうなムードが充ち満ちていた。三菱電機サイドからすると、育ててきた選手が結果を出したことはもちろん、彼の成長の証が見えたことも、喜ばしいことだったに違いない。入れ替わり立ち替わり訪れる取材者たちに対応していた杉田も、疲労の影を見せずに終始にこやかだった。机に置かれた大きな優勝カップが誇らしげだ。

ついでに言うと、当日同行したカメラマンも「息子がテニスをしているので今日の取材は楽しみで」などと言い、編集者は雑誌版GetNaviに大物取材の企画ができて喜んでいる(8月24日発売の10月号にインタビュー記事を掲載)。和久井はもちろん、久しぶりに杉田への公式取材ができてうれしい。もう、誰も彼もがハッピーな空間だった。

 

杉田の活躍には、間違いなくスポンサーの尽力がある。本気でぶつかり合い、二人三脚を続けた10年があるからこその快挙だ。国内のプロテニス界では、数年で選手のスポンサーをして撤退することも珍しくない。このように長く選手に寄り添い、その成長に付き合うスポンサー企業はそう多くはないだろう。

 

第二の錦織 圭、第二の杉田祐一を生むには、企業がCIの一貫としてではなく、宣伝のツールでもなく、ひとりの人間として選手と向き合いサポートをするスポンサーがもっと必要なのかもしれない。

 

撮影/石上 彰

 

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