話題の新薬は本当に「夢の薬」なのか

写真拡大

「末期がんが消えた!」「先進的」──命の危機に瀕した進行がん患者にとって、そうした謳い文句で宣伝される「がん免疫療法」は“最後の希望”に映る。だが、高額な治療費を払う患者たちに、「有効性が立証されていない」ことが、正確に伝わっているのか。実際に治療を受けた患者の声からは、モラルなき実態も浮かび上がる。ジャーナリスト・岩澤倫彦氏がレポートする。

 * * *
 ステージ4の肺がんで、抗がん剤治療が効かなくなった、50代男性は新薬オプジーボが劇的に効いたという。

「死を覚悟していましたから、本当に嬉しかったです。生き返ったというか。今の目標は東京オリンピックを見ることですね」

 命を繋いでくれたオプジーボだが、代償も大きかった。男性はオプジーボの副作用で糖尿病になり、3度の食事ではインスリン注射が欠かせない。さらに、副作用のリウマチの痛みなどが強くなり、毎日の通勤も苦労している。

「決して“夢の新薬”ではありません。副作用が強くなって、現在は治療を中断しました。それでも私はオプジーボに感謝しています。命は何にも代えがたい」

 これまでにない効果と、高い薬価に注目が集まっているのが、免疫チェックポイント阻害剤・オプジーボ(薬品名:ニボルマブ)。国立がん研究センター前理事長の堀田知光氏が指摘する。

「免疫チェックポイント阻害剤と、従来の古典的な免疫療法は、似て非なるものです。がんに対して免疫を活性化して攻撃をするのが従来の免疫療法で、オプジーボは逆に免疫を抑制しているブレーキを外す。がん治療のブレイクスルーは、免疫チェックポイント阻害剤です」

 実は今、オプジーボなどの免疫チェックポイント阻害剤と、従来の免疫療法を組み合わせた治療が広まっている。

 オプジーボは、肺がん患者の場合、体重1kgあたり3mgと用量を指定する。体重60kgの患者なら180mgを投与する。しかし、一部の自由診療クリニックでは、規定用量より少ないオプジーボを投与しているのだ(1回20mgなど)。琉球大学・臨床薬理学の植田真一郎教授は、警鐘を鳴らす。

「薬剤の用法用量は最も効果的な条件を、治験の結果をもとに決定されます。また薬剤の有効性は、ある程度の最高血中濃度の達成が必要です。科学的根拠のない低用量は、薬として機能しない可能性が強い」

 オプジーボと免疫療法を組み合わせた治療では死亡事故も発生している。製造販売元の小野薬品工業が昨年7月に、医療関係者向けに出した「オプジーボの適正使用について」と題した文書では、オプジーボと他のがん免疫療法を併用で重篤な副作用が発現した症例が6例、死亡例が1例あると報告。〈がん免疫療法との併用について、安全性及び有効性は確立していません〉と警告した。

 さらに、オプジーボの添付文書には次のように警告が記されることとなった。

『本剤は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識経験を持つ医師のもとで本剤の使用が適切と判断される症例についてのみ投与すること』

 つまり救急搬送に対応できる総合病院で、がん治療の専門医が投与することが定められている。だが、この規定に反してオプジーボを個人輸入して使用を続けている自由診療クリニックは存在する。

「日本は、医薬品の個人輸入に甘く、医師の裁量権を広く認めているため、今回のようなケースを規制できません。オプジーボは、恐ろしい副作用も出ており、個人輸入は偽薬のリスクもあるので、早急な対策が必要です」(元厚労省技官の宮田俊男医師)

※週刊ポスト2017年9月8日号