秋山英宏 全米レポート(5)新たなスターの誕生。18歳のシャポバロフが16強入り

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「すべてがあっという間の出来事だった」。全米初出場で16強入りを決めた18歳、デニス・シャポバロフ(カナダ)が記者会見で繰り返した。

シーズンのスタートは250位だったのに、今は69位につけている。全米は予選から出場して4回戦進出。驚くような出来事が自分の身に起きている、そして、すべての物事が信じられない速さで前に進んでいく。彼は起きていることの中味の重さと速さを実感しながら、それでも案外、冷静に受け止めているように見える。

テニスファンの多くが彼の名前を知ったのは、とんでもない"事件"の主役として、だったのではないか。

この2月、カナダ代表としてデビスカップ・ワールドグループ1回戦の対イギリス戦に出場。初日のシングルスでは敗れたが、2勝2敗で迎えた最終試合のシングルスに再び登場、カイル・エドマンド(イギリス)と対戦した。2セットダウンの第3セット、劣勢に苛立ちを募らせたシャポバロフは、怒りにまかせてコート外にボールを打ち出し、それが審判の左目を直撃してしまった。〈スポーツマンにふさわしくない行為〉に該当するとされ、ただちに失格、チームも敗れた。

彼はただちに主審に謝罪し、会見でこうコメントした。
「審判の方々全員に謝罪したい。僕のやったことは到底許されるものではないと思います。大変な恥ずかしさを覚えています。チームと母国をがっかりさせてしまいました。あのような行為は2度としないと約束します。この出来事から学び、そして忘れたい」

もちろん正しい行為ではないが、先輩の選手たちはSNSなどで彼を擁護した。この失態で若者の未来が失われないように配慮したのだろう。

次にテニス界を驚かせたのは、8月のロジャースカップ(カナダ・モントリオール)だった。ワイルドカード(主催者推薦)で出場したシャポバロフは、2回戦でフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)を破ると、3回戦では当時ランキング2位のラファエル・ナダル(スペイン)に3-6,6-4,7-6の逆転勝ちを収めたのだ。準決勝でアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)に敗れたが、当時世界ランク143位のパフォーマンスは衝撃的だった。

左利きのストロークは、パワーより切れとプレースメントで勝負するタイプ。フォアハンド、バックハンドとも、コートの中央付近から逆クロス気味に持っていくショットに強い印象を受けた。高難度のショットだが、それが精度高くサイドラインをとらえる。

ランキングは8月14日付で初めて100位を突破。今大会は予選から出場したが、2回戦で第8シードのジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)を破る番狂わせを演じた。

テレビ解説のマッツ・ビランデルは「ナダルとフェデラーのコンビネーションをこの18歳に見ていると感じる」と評したという。

因縁の相手、エドマンドとの再戦となった3回戦は、上背部を痛めたエドマンドの途中棄権で決着したが、アーサー・アッシュスタジアムの観客にシャポバロフは才能の片鱗を披露した。

18歳の全米4回戦進出は、マイケル・チャン(アメリカ)が17歳で4回戦に進んだ1989年以降での最年少記録となった。

夢はグランドスラム優勝。そして、母国カナダでテニスをアイスホッケーのようなメジャースポーツにすることだという。

今大会は上位に欠場者が多いうえに、ボトムハーフ(ドローの下半分)はシード選手の敗退が目立ち、だれが決勝に進んでもおかしくない状況だ。

時代は、尋常ではない速さで先に進んでいくのかもしれない。ひょっとしたらひょっとする。今まさに、18歳がツアーの寵児になろうとしている。

(秋山英宏)

※写真は「全米オープン」3回戦でエドマンドを下し、1989年以降での16強入り最年少記録となったシャポバロフ
NEW YORK, USA - SEPTEMBER 1: Denis Shapovalov of Canada gestures after scoring a point against Kyle Edmund (not seen) of United Kingdom during their Men's Singles tennis match within the 2017 US Open Tennis Championships at Arthur Ashe Stadium in New York, United States on September 1, 2017. (Photo by Volkan Furuncu/Anadolu Agency/Getty Images)