彫師の増田太輝氏(「SAVE TATTOOING in Japan」HPより)

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 2015年9月に医師免許を持たずタトゥー施術を行ったとして医師法違反の罪に問われ、罰金30万円の略式命令を受けた彫師の増田太輝氏。しかし、増田氏は「タトゥーはアートであり、医師免許を取得して行うものではない」として裁判を申し立て、2017年4月26日に大阪地裁で初公判を迎えた。

 裁判で検察側は、針を皮膚に突き刺して色素を沈着させる行為は、細菌に感染したり血管を傷つけたりする危険がある医療行為だと指摘。弁護団側は彫師に医師免許を要求することは、憲法で保障された表現の自由や職業選択の自由、タトゥーを入れたい人の自己決定権を侵害すると主張し、公判を終えた。果たして、タトゥーを彫るという行為は医療行為に当たるのか。

 今回、渦中の増田氏本人に話を聞いた。

●開業までの経緯

──プロフィールを教えていただけますか?

増田太輝氏(以下、増田) はい。増田太輝・29歳・大阪出身・職業は彫師、現在休業中です。母子家庭の三人男兄弟で末っ子として生まれました。

──ご結婚はされていますか?

増田 独身です。正直、独身でなければ裁判はできませんね。裁判をすると決めてから仕事は休業していますから、独身じゃなかったら家族との生活を考えて裁判を起こすことができなかったかもしれません。

──彫師になりたいと思ったきっかけはなんですか?

増田 小学生くらいから洋楽ミュージシャンのタトゥーに憧れはあったのですが、初めて実際にタトゥーを彫っているところを見たのが高校二年生の時です。音楽イベントでタトゥーブースが設置されていて、そこで彫師さんが実際にタトゥーを彫っているところを見て、彫師になりたいと強く思い始めました。

──彫師として、どこかに弟子入りされたのですか?

増田 弟子入りはせず、すべて独学です。20歳の時にタトゥーショップで腕に彫ってもらっていたのですが、その人が自分の腕に彫っているところを見て、家に帰って自分の体を練習台にしていました。

──自分以外にも彫って練習していましたか?

増田 練習で彫らせてもらった人は少ないです。無理強いするものではないので、周りに「彫ってもらえないか?」と言われて、「練習中でも良ければ」といった感じで彫らせてもらったりしていました。母親にもやってほしいと言われて指に蜘蛛の巣を彫ってあげました。

──お母さんは彫師になることを理解してくれていたんですか?

増田 そうですね。特に反対されたことは一度もありませんでした。母親は沖縄出身なんですが、沖縄にはタトゥーのルーツのような「ハジチ(南島針突)」というものがあったらしいんです。かなり古い時代の風習のようですが、沖縄の女性はみんな両手の甲にハジチをしていたようで、実際におばあちゃんも手にハジチが入っていたと聞きました。あとから聞いた話なので、それを知って彫師になったわけではないのですが、自分にとってのルーツなのかもしれないと思いました。

──ご自身のタトゥースタジオはいつ開業しましたか?

増田 22歳から始めました。大体50万円近くかかりました。お店自体ではなく、施術をするための道具にお金がかかります。タトゥーマシン、高温高圧滅菌機、超音波洗浄機、殺菌線消毒器とか衛生面には特に気を遣うので、そういった道具にお金がかかります。細かいところでいうと、取り付ける針、手袋、マスク、インク、インクを入れる容器などは使い捨てなので、維持するのにもお金がかかります。

●仕事の現況

──1回の料金はどれくらいですか?

増田 基本的には1時間1万円です。

──1日どれくらいのお客様がいらっしゃいましたか?

増田 大体2人ですね。施術自体が3時間ほどかかりますし、長い方で6時間かかったこともあります。間に休憩をしてもらったりすると、1日8時間くらいは作業していると思います。それに、お客さんにすぐ帰ってもらうみたいな感じが、僕はあまり好きじゃないんです。お客さんにはゆっくりくつろいでもらいたいと思っているので、終わったあとも少し世間話などをして、ゆっくり休んでから帰ってもらっています。

──どういったお客様がいらっしゃいますか?

増田 僕のスタジオには20代半ばから40代で会社員の方などがいらっしゃっています。珍しい職業では歯科医なんかもいますね。見えないところだったらOKみたいな感じです。

──暴力団関係者は来ますか?

増田 来られたことはありません。うちは基本的に口コミがメインになっているので、事前にどういった方なのかは把握した上で来店いただいています。今まで運営していて、誰からの紹介でもない飛び込みという人はいません。

●業界の課題

──全国にどれくらいの彫師がいるかご存じですか?

増田 平成15年度で日本全国に3000人の彫師がいると聞いています。

──それは多いと思いますか? 少ないと思いますか?

増田 多いのではないかと思います。一般の方は、陰でこっそり行っているイメージが強いと思いますが、実は3000人もいますからね。ただ彫師が増えてしまったことで悪いこともあります。機材が揃えば誰でも始められる仕事ではあるので、サプライヤー(販売者)が経営するネットショップで購入して、すぐにでも彫師として仕事を始めることができてしまいます。

──ネットショップで購入するのはいけないことですか?

増田 罰則などはないですが、暗黙のルールのようなものがあります。対面式で購入する場合、どういった目的なのかも聞かれますし、オートクレーブ(高温高圧滅菌機)やステリライザー(殺菌線消毒器)などを購入しないと、そもそもタトゥーマシンは売ってくれません。しかし、ネットだとタトゥーマシンだけ購入して始めることができてしまいます。こういった衛生面の意識が低い人には、彫師として名乗ってほしくないです。

──今の法律では少し緩すぎる気もしませんか?

増田 はい、今のままでいいとは思っていません。アメリカのように、彫師になるためには許可制にするのもいいと思っています。僕も自分がこういった立場になってわかったことが多かったです。彫師の方たちが次々と逮捕されていくことに疑問を感じて、法廷闘争を選んだのと同じころに「SAVE TATTOOING in Japan(http://savetattoo.jp/)」というタトゥー文化を守る団体を結成しました。彫師も、好き勝手に彫っていいわけではないですし、きちんとした法整備をする必要はあると思っています。今はそれがないから、警察は医師法違反で捕まえています。しかし、それでは解決になっていないと思うんです。そのためのシンポジウムや資金集めのチャリティーイベントを開催しています。

──和彫、洋彫の違いは具体的にどういったものですか?

増田 和彫と洋彫はどちらも絵柄に意味があるので、基本的には同じですよね。あえて違いを挙げるとするなら、和彫は体のラインや骨格に合わせて絵柄を彫るものが昔からの風習で、今も変わっていないと思います。洋彫は段々と絵柄自体に意味を持たせているので、そういった意味では時代の変化と共に変わっていっているものだと思います。

──どちらかに思い入れが強いなどありますか?

増田 最初は、和彫やトライバルは嫌いだったんです。僕はもともと、ニュースクールというスタイルでやっていこうと決めて始めたのですが、このスタイルは洋彫と和彫のどちらも知っていないとできないものなんです。音楽などと一緒で、過去の歴史やさまざまな作品に触れることで、新しいスタイルを考えていくことができるのではないかと思います。だから、最初は独自のスタイルでいこうと決めていましたが、やっていくうちにどんどん色々なスタイルを学ぶようになったので、今となっては「全部」に思い入れがあります。

──アートメイクについてはどう思いますか?

増田 これは偏見になるのかもしれませんが、技術や知識のない人がやっていると思います。僕がやらないからわからないこともあると思うのですが、アイラインや眉毛にタトゥーを入れてほしいと頼まれても、それは自分の考える“アート”ではないので、正直やりたいと思いません。そういった意味では美容になると思うので、美容整形などでやってもらうのが正解ではないでしょうか。今はまさに線引きがないことで大きな問題になっているので、アイラインや眉毛などにタトゥーを入れるのは禁止にしてもらっていいと思います。しかし、そんな簡単に線引きはできないでしょうから、たとえば首から上にタトゥーを入れる場合は医師免許が必要といった感じでいいのではないでしょうか。

●警察や検察との闘争

──検察側からインクの成分に水銀などが混入していると指摘がありました。

増田 施術に使用するインクには、そういった成分は入っていません。検察側が主張しているインクの話は、かなり昔のことを言っているのだと思います。水銀などの人体に影響がある成分は、少なくとも僕の店で使っていたインクには入っていませんし、今までお客さんが施術後に体調不良を訴えてきたことも一度もないです。

──警察が来られた時にはどう思いましたか?

増田 ガサ入れ時点では、5人の刑事が来ました。いきなり捜査令状を見せられて、その内容は「グルトファイドを購入している」という理由で医師法違反だと言われました。警察に「彫師なら医師免許持っていないといけないだろ?」と言われたのですが、最初は「何を言っているんだろう」という感情でした。彫師で医師免許なんて聞いたことない、何か間違えているんじゃないかと思っていました。

──逮捕となった時、どのような心境でしたか?

増田 そのまま警察署で取り調べを受けて、何度か在宅で数回調書を作成していき、医師法違反として略式命令が下りました。罪を認め罰金30万円を支払ったら、医師免許を取得しなければ仕事を続けられないのか――。それはおかしいと思い、僕は闘うことを決めました。

──法廷闘争すると決めた時、どのような心境でしたか?

増田 正直、不安しかなかったですね。こういったかたちで裁判を起こしたことはないので、どうやって起こせばいいのか、自分は何をしていけばいいのか、何もかもわからないことばかりでした。弁護士の亀石倫子さんや弁護士団の方の協力、同じような境遇の方たちの考え方や支えがあったことで今があると思っています。

──初公判では、どのような心境でしたか?

増田 正直、今までにないほどの緊張でした。不安だからという意味ではなかったのですが、公判前にマスコミの囲み取材を受けて、それがきっかけだったのか急に現実味が増してきて、どんどん緊張が強くなってしまい、法廷に立つギリギリまで全身が震えてしまったことは今でも忘れられない感覚です。

──彫師に医師免許制度を設けたらおかしいでしょうか?

増田 正直、違和感しかないですね。医師免許を持っている彫師ということは、病院に勤務するんでしょうか。タトゥーを入れたい方は、「次の方どうぞ」と呼ばれるまで患者さんたちと一緒に待合室で名前を呼ばれるまで待つのでしょうか。それはいくらなんでもやりすぎかなと思います。

──医師免許を彫師が取得するか、医師が彫師になるのでしょうか。

増田 医師が美術大学に行くのか、彫師が医大に行くのかといった話になりますね。彫師が医大に行って医師免許を取得したら、そのまま医師になってしまうのではないでしょうか。また、医師を目指している人が卒業後に美大に行ってアートの勉強なんて、絶対考えられないですよね。

──これからタトゥーを入れたいと考えている人にメッセージはありますか?

増田 何を入れるのか、なぜ入れるのかなどをよく考えて、きちんとした覚悟を持ってほしいです。若くしてタトゥーを入れた人が、年を重ねてから邪魔になってしまっていることもよくありますし、そもそもタトゥーを入れたことを後悔している人もいます。本当の意味で覚悟がないとダメだと思うんです。

公衆浴場やプールなどにも入れなくなってしまいます。先日のニュースで、ある芸能人が麻薬などに手を出しているという報道と併せて、「体にタトゥーを入れている」という内容も取り上げられていました。タトゥーを入れているということに対して、やはり日本では悪者のような見方が強いんだなと、あらためて実感しました。

そういった部分も少しずつ変えていければいいのですが、どうしても長い時間がかかるものだと思いますので、今の日本では一度入れてしまったらまだまだ生きづらいと思います。

──最後に、タトゥーは増田さんにとってなんでしょうか?

増田 難しい質問ですね。一言でいうなら、「タトゥーは僕のすべて。ライフスタイル」この言葉でしか伝えられません。

──ありがとうございました。
(構成=作道美稚代)

●作道 美稚代
1986年生まれ。現在はIT企業の株式会社ファブリジオの代表取締役社長と兼任し、執筆活動中。