大平製パンで人気の「焼きそば」(250円)と、「たまごドッグ」(300円)(撮影:梅谷秀司)

小麦色をした長細いパンに、たまごサラダやピーナッツバターなどを挟んだコッペパン。給食でお世話になった素朴な風貌のあのパンが、今大ブームとなっている。

2016年頃から、コッペパン専門店が次々と開店。首都圏では、上野に「ブーランジェリー イアナック」が「イアコッペ」を、地元産小麦を使用する「魔女のコッペパン 浦和店」がさいたま市に開き、いずれも行列ができる人気店に。ようかんの老舗「とらや」も「あんスタンド新宿店」を開店したほか、ドトール・日レスホールディングスグループが「パンの田島」として店舗を増やしているなど、老舗も参入している。

パン屋に行けば必ずあるコッペパンが、なぜ今ここまで支持されているのか。都内の人気店を訪れ、その理由を探った。

人気の総菜パンは午前中に売り切れることも

こちらも人気のクリームチーズ&ブリーベリージャム(200円)、きなこクリーム(150円)、ピーナツ(150円)(撮影:梅谷秀司)

地下鉄千代田線・千駄木駅から数分の不忍通り沿いにある「大平製パン」。2014年6月にオープンした同店では、商品の8割をコッペパンが占める。地元の常連客は小学生からお年寄りまでと幅広く、九州など遠方から訪れる人もいる。

引き戸を開けて古民家風の店内に入ると、懐かしい感覚にとらわれる。店頭のガラスケースには、カスタードクリームやあんこ、焼きそばなどが入ったコッペパンが並ぶ。コッペパンの種類は常時25種類ほど。店内には、イートインスペースもあり、中で食べる場合は、給食を思わせるお盆に乗せてくれる。お店のマスコットの刻印が入ったコッペパンは見た目にも楽しく、「インスタ映え」しそうだ。

人気は「クリームチーズ&ブルーベリージャム」や「たまごドッグ」、「焼きそば」など。店主の大平由美氏は、根津で動物パン主体の「ボンジュール・モジョモジョ」も開いており、2店分のパンをほぼ1人で作っていることもあって、総菜入りパンは、午前中に売り切れることも多いという。

実家が福島県いわき市でコッペパンが人気の「ボンジュール大平」を営む大平氏は、同店の2代目である父親からパン作りを教わった。ゆえに大平製パンの味は、ボンジュール大平を踏襲しており、同店のファンが福島からわざわざ足を運んでくれることもあるそうだ。

子どもの頃から、店で成形などを手伝いながら育った大平氏。23歳で将来、父のパン屋と併設する洋食屋を開きたいと考え、上京した。専門学校で料理を学び、レストランなどで働いてきた。パン屋で働いたこともあったが、どこの店でも「1分単位で動き、時間に追われて殺伐としている」ことに違和感を覚え、自分は向いていないと感じていた。

「大平製パン」店主の大平氏は、父親からパン作りを教わった(撮影:梅谷秀司)

ところが、知人と開いたイベントで動物パンを展示したところ、来場者から「このパンを食べたい」と言われ、心が動いた。2008年から移動パン屋を始め、2011年10月にボンジュール・モジョモジョを開く。

その後、前から古民家の素朴な外観が気に入っていた不忍通りの雑貨店店主に、「閉店するから次に借りませんか」と勧められて開いたのが「大平製パン」である。

「ボンジュール・モジョモジョ」から徒歩5分という距離の近さもあり、差別化するため、コッペパン中心の店にしようと決めた。

父のパンが一番おいしかった

パン屋を始めるに当たって、大平氏は初めて父にパンだねの作り方から教わり、今まで働いてきたほかのパン屋と父のやり方が異なることに気づく。

「父の作り方は、目分量と感覚なんです。『水は何グラム?』と聞くと『ボウルで半分ぐらい』。『パンだねの温度は気温によっても違うから、触って覚えて』と」。大平氏は、父のパンを「一番おいしかった」と言い、マイペースで楽しんでパンを作れる、父のやり方が自分には合っていると感じている。

具材のレシピも基本は父の店と同様にし、あんパンを粒あん入りコッペパンに、クリームパンをカスタードクリーム入りコッペパンにするなどのアレンジをしている。クリームチーズは父の店にはないが、クリームチーズが好きだから使う。「具材もいっぱい入っていたほうが私はうれしいので、パンと同量入れています」(大平氏)。商品開発の基準が、「自分が好きであること」と明確だ。具材の自由度が高いことも、コッペパンの魅力なのかもしれない。

下町ならではの人間関係の距離の近さもあり、客の反応を直に感じてきた大平氏は、コッペパンの魅力を、「形なのか、見た目なのか。食べると優しい気持ちになれるのではないでしょうか」と話す。

引き戸を開けると懐かしい風景が広がる(左)。イートインスペースも懐かしい雰囲気だ(右)(撮影:梅谷秀司)

一方、今年4月19日に開店した「コパンドゥ3331」は、異業種からの参入だ。

東京・神田の元中学校の建物を利用したアートセンター「アーツ千代田3331」の1階カフェで、11時〜16時までコッペパンを売る。人気商品は「自家製カスタード」や「ラムレーズン」、「アボカドソースのたっぷり野菜」、「自家製コンビーフポテト」など。常時11種類あり、季節商品もある。

前述の大平製パンがなんとなく懐かしい感情を抱かせるのに対して、コパンドゥは「今風」という言葉がしっくりきそうな風情。コッペパンそのものはオーソドックスな見た目だが、中身はカプレーゼやチキン南蛮など、どことなくしゃれている。

コパンドゥ3331」で人気の「自家製カスタード」(210円)、「ラムレーズン」(220円)、「アボカドソースのたっぷり野菜」(300円)、「自家製コンビーフポテト」(320円)(撮影:編集部)

「今はサラダブームで、『サラダを挟んでいるのはないですか』という声が多いため、『アボカドソースのたっぷり野菜』を、コッペパン専門店などにはないな、と思った『ラムレーズン』を入れると人気商品になった。勉強のし甲斐があるしアイデアは尽きないです」と、パティシエの経験も持つ、ベーカリー担当の根本美智子氏は話す。

神田エリアにはパン屋が少ない

アーツ千代田3331を運営する会社の代表を務める中村氏と、パティシエの経験も持つ、ベーカリー担当の根本氏は話し出すとアイデアがあふれ出すように出てくる(撮影:編集部)

アーツ千代田3331は、アートプロジェクトの企画などを行う合同会社コマンドAと一般社団法人コマンドNが運営する。共に代表は東京藝術大学教授でもある中村政人氏。1階には、以前もテナントのカフェが入っていたが、アートイベントと連動できる場にするため、直営店舗として今春リニューアルしたのである。

早くも8月5日には、夏休み企画「夏の3331こども芸術学校2017」のイベント企画として、「こねて、混ぜて、カラダで味わう手ごねパン教室」を開催。根本氏が講師を務めた。

中村氏がコッペパンを売る店を開いたのは、神田エリアにパン屋がなく、潜在ニーズがあったことと、元中学校という場所の性質から、「誰もが学校給食で食べた記憶がある、懐かしさのあるもの」だから。ベーカリー担当者は公募。パティシエ経験が13年と長く、パン屋で商品企画などを担当したこともある根本氏が採用された。

商品開発にはパン専門のコンサルティング会社がかかわるが、最終決定は根本氏が行う。厨房にはオーブンを置き、パンは外注しないで根本氏がイチから作る。大人向け、2つ目を食べたくなることをポイントに、パンだねには沖縄の雪塩を入れ、口当たりを軽くした。1つの料理とでも呼びたくなるようなおしゃれな具材は、根本氏がパン屋や講習会そのほかでのリサーチを反映している。

「コパンドゥ3331」は、元中学校を改装したアーツ千代田3331を入ってすぐにある。夜はフランス料理を提供している(撮影:編集部)

評判は口コミで広がっている。地元の婦人会などで大量予約が入ることもあり、リピーターも着実に増加。「一度、何かのイベントで来た高校生の男の子が、自家製コンビーフポテトを気に入り、『また来ます!』と言って、館内にいる1日の間に3回も来て同じものを食べていったことがありました」と根本氏。

人気の理由を、中村氏は「クリエイターなど、モノを作っていて感度が高いお客さんが多いので、根本さんの作るパンの丁寧さやこだわりが伝わるのではないでしょうか」と分析する。

「コッペパンは、難易度が高くない食べものだと思います。懐かしさを感じさせるものでもあり優しさもあるといった、入り口の柔らかさがある。そしてカスタマイズしやすいし、アレンジしやすい」と中村氏は熱く語る。

コッペパンの魅力は「優しさ」にあり

話をするうち、「子どもたちに絵を描いてもらって、期間限定でそのパンを出すのも面白いかも」「夜、ここで開くフレンチレストランの具材を挟んでもよいですか」「いいですよ」と、次々とアイデアを出し始めた中村氏と根本氏。柔軟な発想力を持つ2人のコンビネーションの良さも、人気につながっていると見た。

アートが飾られたカフェの店内。床は当時中学校で使われていたそのままだ(撮影:編集部)

取材した2店の経営者から、共通して出たコッペパンの魅力が「優しさ」だ。この言葉は、ブームの謎を解くキーワードかもしれない。

現在のコッペパンブームは、岩手県盛岡市で地元の人たちから愛されるコッペパンの店、「福田パン」で修業した吉田知史氏が、東京・亀有で2013年に「吉田パン」を開き、人気店になったことから始まる。

ふわふわで柔らかく、シンプルな味のコッペパンは、甘いクリームからおかずまで、多種多様な具材を挟むことができる。味の決め手は具材にあり、多様な展開ができる。パン自体より具材にポイントがある点は、日本人が開発したあんパン、カレーパンなどに通じる。

パンブームは2000年代初頭、本格的なフランスパンを売る店が、次々と開業したことから始まったが、人気の裾野が広がった今、改めて原点回帰をしているのかもしれない。そもそも、コッペパン自体、硬い皮のフランスのクーペを、日本人が柔らかい皮に変えたものが原型と言われている。

柔らかさと具材に凝るという、日本人が独自に開発したパンの要素が詰まったコッペパンが、食べてなじみやすく、優しさを感じるのは当然かもしれない。さまざまな外国の味を知り、パンの多様性に触れた人々が、故郷に帰って懐かしく思う。あるいは新しい味より、慣れ親しんだ味を求める人たちもいる。さらに、ここへきて具材の種類が豊富になったことで、SNSウケする要素も出てきている。こうした中、多くの人が、コッペパンを再発見し、ブームを作っているのではないだろうか。