日本代表をロシア・ワールドカップに導いたハリルホジッチ監督。写真:サッカーダイジェスト

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「チームこそスター」

 これは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督が2015年3月13日の就任会見で発した印象的なフレーズだ。ひとりのスターに依存せず、常にチームとして戦う──。そんな指揮官のこだわりは、いわゆる“アンタッチャブルな存在”を作らなかった今回のアジア予選での采配からも窺える。
 
 ブラジル・ワールドカップで日本代表を率いたアルベルト・ザッケローニ監督が主力メンバーを固定して「自分たちのサッカー」に執着したのに対し、ハリルホジッチ監督はどちらかと言えば流動的なスタンス。もちろん、「縦への速さ」、「デュエル(フランス語で決闘の意)の強さ」など根本的な部分でのこだわりはあるが、ポゼッション、あるいはカウンターというような確固たる戦術を持ち合わせているわけではないのだ。
 
 クロスからの攻撃を重視させた試合もあれば、少し引き気味の陣形から速攻を狙うよう指示したゲームもあった。最たる例が、最終予選4節のオーストラリア戦。その前のイラク戦ではある程度ボールを保持するやり方で主導権を握ろうと考えていたハリルホジッチ監督が、メルボルンでのアウェーゲームでは敵にあえてボールを持たせる戦術を選択したのだ。
 
 前線からの能動的な守備でボールホルダーを仕留め、そこから効果的なカウンターを繰り出すというコンセプトの下、日本は前半5分に本田圭佑との素晴らしいコンビネーションから原口元気がまんまと先制点を奪う。最終的に1-1で引き分けたものの、PKを取られる50分過ぎまではほぼ完璧なサッカーを展開していた。その意味で、ハリルホジッチ監督の戦略はハマっていたと言えるだろう。
 
 また、キャプテンの長谷部誠を右膝の負傷で欠いた敵地のUAE戦(17年3月23日)では、ベテランの今野泰幸をインサイドハーフに配する4-1-2-3システムを今予選で初めて採用しながら2-0の完勝、しかも今野が1ゴールと結果を出した。
 
 2次予選を振り返っても、引いた相手をショートパスで崩せない試合が続くと、指揮官は左足のフィードに定評がある柏木陽介を招集してチームを活性化。15年11月12日のシンガポール戦、その5日後のカンボジア戦では、その柏木がロングボールで次々とチャンスを作り、いずれも勝利の立役者のひとりとなっている。
 メンバーも戦術もほぼ固定しないハリルホジッチ監督のやり方をひと言で表現するなら“柔軟”。最終予選の進行期間中にサッカーダイジェストのインタビューに応じてくれた原口元気も、この指揮官について次のように話していた。
 
「スカウティングを細かくする監督なので、『こういう選手でこういう戦い方をするから、こういうプレーが有効だ』と、試合前にアイデアをいくつかくれます。そのうちどれを使うかは選手で判断していいよ、と。
 
まだまだ表現できていない部分も多いですけど、『俺たちはこうだ』とひとつの形に固執するよりも、相手を分析して戦ったほうが強いチームと対戦した時に勝てる可能性が高まる。ワールドカップのようなレベルの高い大会のほうが、ハリルさんの良さは出るのかなと」
 
 戦略家としての良さが出た試合のひとつが、ホームのオーストラリア戦だろう。本田、香川真司、岡崎慎司といったネームバリューに捉われず、相手の意表を突く形でリオ五輪世代の浅野拓磨と井手口陽介らを先発起用した。結果はご存知の通り、日本の完勝だった。
 
 3トップの大迫勇也、浅野、乾貴士が前線からハイプレスをかけ、井手口と山口蛍の両インサイドハーフは鋭い出足でスペースを埋める。

 そしてアンカーの長谷部が絶妙なポジショニングでセカンドボールを拾えば、4バックの酒井宏樹、吉田麻也、昌子源、長友佑都はタイトなマークで敵を潰す。