大須商店街の一角に佇む大須本店

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名古屋の喫茶文化を築き上げてきたとも言うべき、地元では誰もが知っている名店がある。創業70年の歴史を持ち、いち早くチェーン展開を成功させた老舗喫茶「コンパル」だ。市内のみに店を構え、地元密着型のスタイルで長く愛されている。

【写真を見る】最近では初めて来るほとんどの人が注文する名物メニューとなった「エビフライサンド」(930円)

■ 昭和の雰囲気を色濃く残す大須本店

コンパルは、戦後間もない1947(昭和22)年に名古屋市中区で開業。昭和30年代から40年代にかけて名古屋駅や栄の地下街などに次々と支店を出し、現在は市内に9店舗を構える。なかでも一番古い大須本店は、開業の翌年に大須商店街の一角に移転し、今もその場所で多くの人に親しまれている。

「40年くらい前に一度改装していて、以前は店内に池があったんですよ。壁の一部にタイルを使っているのはその名残。テーブルやソファなどの調度品は開店当時のままです」と話すのは、1961(昭和36)年に入社し、現在は総括マネージャーを務める中村俊明さん。「1日に1000人を超える数のお客さんが入っていた時もあったので、改装中も店の前に仮の店舗を建てて営業を続けていましたよ」と当時を振り返る。さらに「昔はこの大須界隈には映画館がたくさんあって、まだ若いころの高橋英樹さんなど映画スターもよく店に来られていました」と懐かしんだ。

■ 著名人にも人気の高いサンドイッチは必食

地元に根ざしたコンパルだが、名古屋人だけのものにしておくにはもったいない名物がある。揚げたてのエビフライを3本も使った「エビフライサンド」(930円)だ。ふわふわの卵焼きや千切りキャベツと一緒にサンドしたボリューム満点の一品。味付けはカツソースやマヨネーズ、タルタルソース、ドレッシングなどすべて手作りのものを使う。「具材とソースのバランスが最高にいいんですよ。揚げ物は香ばしく焼いたパンで挟むことで味が引き立ちますし」と語るのは、大須本店の店長・西谷定久さん。十数年ほど前にテレビ番組で取り上げられたことをきっかけに注目を浴び、それからは有名人の来店も少なくない。「松任谷由実さんも毎年コンサートのたびに食べに来られます」。

本格的なサンドイッチメニューを始めたのは、1960(昭和35)年のこと。当時は「ポークカツサンド」(720円)や「ミックスサンド」(610円)が人気で、常連客はこちらを注文されることが多いようだ。「ポークカツサンド」の肉は柔らかくて年配の人にも食べやすいのが魅力。さらに、サンドイッチ類はすべてテイクアウトできるのも喜ばれている。

■ ユニークな抽出法で入れる濃厚なコーヒー

コンパルを語るうえで忘れてはならないのがコーヒーだ。創業者はとにかくコーヒーに力を入れ研究を重ねたという。「かなり濃いコーヒーが特徴で、好みがバチッと合った方はもうほかのコーヒーでは物足りなくなりますよ。ミルクにも濃いコーヒーに合う濃厚な生クリームを出すのがこだわり」と中村さん。濃さの秘密は独自の抽出法にある。ネルドリップしたコーヒーを手鍋で温め、再びネルフィルターで抽出する“かえし”と呼ばれる手法で入れるのだ。創業当時、コーヒーは砂糖やミルクを入れて楽しむのが主流だったと聞くと、この濃さもうなずける。アイスコーヒーも最初から甘くしたものを出す店が多かったそうだ。

コンパルで「アイスコーヒー」(400円)を注文すると、初めての人は驚くに違いない。氷が入ったグラスとホットのデミタスコーヒーが運ばれてくるのだ。ホットコーヒーに好きなだけ砂糖を入れて甘さを調節してから、自分でグラスに注ぐのがコンパル流。

瞬時に冷却することで味と香りを損なわずにコーヒーを楽しんでもらえる飲み方として、創業者が考案した。通常のホットコーヒーよりもさらに濃く抽出してあるため、氷が溶けてちょうどいい濃さになる。ちなみにグラスに注ぐ際はコツが必要で、一気に入れないとこぼれてしまう。「今日はこぼさずに注げたからいいことあるかも」と、占いのように楽しむ常連客もいるのだとか。

■ 変わらぬ味で、幅広い客層に愛される店

「大須本店は70代から80代くらいの常連さんが特に多く、1日に2、3度来られる方もいますよ!朝はモーニングを召し上がって、午後にまたコーヒーを飲みに来られたり…。先日初めて来られたお客さんからは『こんなにおいしいサンドイッチは食べたことがない』って言ってもらえてすごくうれしかったですね」と、話しながら顔をほころばせる西谷さん。「これからも、昔からのいいものを引き継いで、その味をしっかりと出せるように頑張っていくだけです」という言葉からは、実直な姿勢が伝わってくる。

濃厚なコーヒーにハマり毎日通う地元客をはじめ、名物の「エビフライサンド」を求めて訪れる著名人や観光客にも支持されるコンパル。名古屋でなければ味わうことのできないこの確かな味を求めて、ぜひ県外からも“わざわざ”足を運んでほしい。【東海ウォーカー/須崎條子(エディマート)】