死んだ後に「悪口を言われる人」の共通点

写真拡大

■「アイツは嫌な奴だった」なんて…

家族や親類縁者、仕事関係で近しくしていた人は、亡くなった人のことをどんなふうに話すのだろうか。悲しんでくれるのか、それとも案外ケロッとしていて、その人のことをじきに忘れてしまうものなのか。もし、自分がいなくなった途端に「アイツは嫌な奴だった」なんて陰口を叩かれるようでは、死んでも死にきれない──。

これについて緩和医療医の大津秀一氏、ビハーラ僧の三浦紀夫氏、ホスピス医の小澤竹俊氏に尋ねると、「亡くなった方を悪く言う人はあまりいない」と口を揃えて言うからひとまず安心してよさそうだ。では、残された人たちは具体的にどんなことを言うのか。

大津氏の病院で亡くなった方の遺族は「夫以上の男性はいません」「素晴らしい母でした」「つらい闘病生活でしたが、最期まで投げずに頑張ったと思います」など、故人がどれほど大切な人だったかを改めて噛み締め、病気で苦しんだであろう最期の日々をねぎらうことが多いという。

■亡くなると一転、いい思い出ばかりに

三浦氏の経験でも、残された最期の時間を在宅で一緒に過ごしたり、病院や施設にいても見舞いに来るような関係性がある場合は、たとえ生前、あるいは看病で苦労させられた家族でも、そうそう悪口は言わないものらしい。

肝臓がんで61歳の夫を亡くした杉山良子さん(仮名)は、見舞いに来るたび、「この人には泣かされっぱなし。最後の最後まで、こんなに苦労をさせられて」と憎まれ口を叩いていたという。だが、いざご主人が亡くなると一転、いい思い出ばかりを語るようになった。

「料理上手で私にもよくつくってくれたんですよ。そういうところが好きでね」とのろけ話まで出てくる始末。

「苦労させられたというのは本音としても、夫が亡くなっていく過程をお世話するのはつらいはず。憎まれ口は複雑な気持ちの表れでしょう」(三浦氏)

また、生前好きだったモノを通して故人を偲ぶ人も多い。「コーヒーが好きで、毎朝飲んでいたんですよ」。70代の父親を亡くした40代の女性は、三浦氏にそう語ったそうだ。毎日朝晩2回、仏壇にコーヒーを供え、自身も一緒に淹れたコーヒーを飲む。「こうしていると、父がまだ生きている気がするんです」。その姿は、亡くなったことをゆっくりと受け入れているようだった。

■生前の関係性次第では例外もある

このように大方の場合、故人を悪く言う人はいないのだが、生前の関係性次第では例外もあるのだ。たとえば、家庭をまったく顧みなかった場合、最期のときが近づいても見舞いに来ないばかりか、亡くなってなお悪く言われるケースもある。

ビハーラ僧の三浦紀夫氏が看取った徳永三郎さん(仮名・70代前半で死去)はサラリーマン時代、仕事をバリバリとこなす一方、大変な酒好きで毎晩のように部下を引き連れて飲み歩いては、夜中過ぎに酔っ払って帰宅していた。当然、家族と会話をする時間もない日々だった。2人の息子の世話を含め、家のことはすべて妻の直子さん(仮名)任せ。そんな日々でも直子さんは忍耐強く家を守り、子どもたちも立派に成長。2人の息子は医学部を出て医者になった。

末期がんに侵された徳永さんが三浦氏の運営するグループホームに来てから、何度連絡しても家族は誰一人として見舞いに来なかった。医者の息子たちは「主治医でもない自分たちにできることはないから」と言っていた。

■どう生きてきたかが問われてしまう

徳永さんが亡くなったときでさえ、直子さんは「もう顔も見たくない」と来ることを拒んだという。結局、三浦さんたちがお通夜と葬儀を執り行い、直子さんも出席したそうだが、その間、直子さんの口をついて出るのは「この人にはさんざん苦労をさせられた」という恨み言ばかり。自業自得といえばそうかもしれないが、これでは徳永さんは安心して成仏できそうもない。

まさに、どう生きてきたかが問われてしまうのが最期のときだ。では、死してなお悪く言われることがないようにするには、どうしたらいいのか。

「生前に家族との信頼関係が少しでもあれば、亡くなっても心の絆が切れることはないはず」と小澤氏は言う。たとえ後悔ばかりの人生で、周りに迷惑をかけることが多かった人だったとしても、最期の瞬間、穏やかな別れ方ができる人も多いらしい。それなら救われそうな気がしてくる。

ただし「まったく信頼関係がなかった人のことは、思い出しもしないかもしれませんね」(ホスピス医 小澤竹俊氏)。愛の反対は憎しみではなく無関心、とはよく言われる。忘れ去られてしまうより、憎まれたほうがまだ幸せということか。自分の胸に手を当てて、じっくり考えてみたい。

----------

大津秀一
緩和医療医。大学医学部卒業。2010年より東邦大学医療センター大森病院緩和ケアセンター勤務。著書に『死ぬときに後悔すること25』ほか。
 
三浦紀夫
ビハーラ僧。真宗大谷派僧侶、ビハーラ21事務局長。1965年生まれ。44歳で得度。高齢者施設を運営するビハーラ21常勤僧侶に。終末期の高齢者に寄り添う。
 
小澤竹俊
ホスピス医。慈恵会医科大学医学部医学科卒業。2006年めぐみ在宅クリニック開院。著書に『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』ほか。
 

----------

(小島 和子 撮影=大泉 裕、篠原沙織、澁谷高晴)