元日本代表・GK川口能活【写真:編集部】

写真拡大

W杯出場4度の元日本代表GKが説く…運を引き寄せる“備え”の大切さとは?

 サッカー少年なら誰もが目指すであろうプロ選手。Jリーグはもちろん、海外リーグも遠くはない昨今、プロサッカー選手の夢は限りなく広がっている。しかし、願えば誰でもプロになれるかというと、そうではない。その肩書を得られるのは、ほんのひと握りの選手である。

 では、いったい、プロになれる人となれない人の差はどこにあるのだろうか。

「僕自身はチャンスを生かせるか、生かせないか。その差がプロになれるか、なれないかの違いにあると思っています」

 そう答えてくれたのは、元日本代表GK川口能活だ。現在はJ3のSC相模原に所属する41歳。ワールドカップを4度経験するなど、日の丸の守護神として長く君臨し、不惑を越えてなおゴールマウスを守り続ける大ベテランは、こう話す。

「例えば、試合にスカウトが来た時、その選手を見に来たわけじゃないけど、活躍した選手が『あの選手、おもしろい』と言われてプロになった選手もいる。運もあるでしょう」

 Jリーグの各クラブのスカウトは高校、大学といった各カテゴリーの日本全国の試合に運び、視察を繰り返す。お目当ての選手の対戦相手、はたまた同会場の別の試合など、偶然、目に留まって道が開ける選手もいる。ただ、川口は「それも日々の努力があってこそ」と話した上で、運を引き寄せる“備え”の重要性を説く。

求められる心の強さ…「“理不尽”を乗り越えた人たちだけがトップに君臨できる」

「どんな時でも力を発揮できるようにプレーを続け、そういう場面で自分の力を証明できるか。みんな、日々練習しているし、うまくなろうと努力している。それぞれにチャンスは巡って来る。それを発揮する場所で力を出せるかがプロになれる、なれないにつながってくる。それはプロに入っても、代表になれる、なれないと一緒。いかにチャンスをどう生かすかです」

 長年、プロの第一線で活躍し、代表監督が視察した試合で結果を残し、日の丸のユニホームに袖を通し続けてきた。そんな男だからこそ、言葉には説得力がある。

 しかし、ここぞの場面で力を発揮することは容易ではない。何を重視すべきなのだろうか。

「その場を楽しむことです。何かを『やらなきゃ、やらなきゃ』と思いすぎても、いいプレーはできない。いかにその場を楽しむかということ」

 結果を求められるシリアスな場面で「楽しむ」。その思考は、相反するように思える。ただ、川口はうなずいた上で力説する。

「相反することだけど、その相反するものを成し遂げてきた人たちがトップにいる。スポーツは“理不尽”が多い。そういったものをクリアして乗り越えてきた人たちだけがトップに君臨できる。どんなことにも動じない。そのメンタルの強さを持っているかが、プロになれるかどうかの違いになってくると思います」

「今も楽しい瞬間たくさんある」…41歳の「楽しさ」の根源にあるものとは?

 実際、三浦知良を始め、中田英寿、中村俊輔ら、日本サッカー界を代表する選手たちと同じ時を過ごし、肌に接してきた。どんな苦境も力に変える強靭な心がプロになるため、ひいてはプロで活躍するために必須なものとなるのだろう。

 ただ、川口にとって「楽しさ」の根源にあるのは、極めてシンプルなこと。41歳は「今も楽しい瞬間はたくさんある」という。

「いい動き、いいプレーができている時は楽しい。いいプレーができてない時は楽しくない。そこですね。楽しもうとして、楽しんでいるわけじゃない。いいプレーができる、それが結果に結びつく、そういう時が楽しい。笑ってワイワイガヤガヤとやっているのが楽しいのではなく、サッカーに集中していること。しっかり動けている、自分の思う動きができていることが楽しいです」

 何歳になっても、練習の一瞬でもいいプレーができたことが楽しい。だから、日々努力することができる。「楽しむ」という精神は、大事な場面で結果を残すことにもつながってくる。そんな哲学が見え隠れしていた。

 そんな豊富なキャリアで培った経験を惜しみなく伝えたのが、「ポカリスエット エールキャラバン」だった。

 サッカー、バレーボール、バスケットボール、柔道、テニス、バドミントンを通じて、全国170校の部活生を応援する大塚製薬の企画の一環として7月18日に徳島市立高を訪問。全校生徒に講演を行い、その後は今夏のインターハイに出場した強豪のサッカー部に特別指導も実施した。

「それまでは体育の先生になろうと」…川口が高校時代に掴んだ「チャンス」

 講演で明かしたのは、川口自身、プロを意識したのは意外にも遅く、清水商(現・清水桜が丘)2年生の頃だったという。そのきっかけは、U-19代表でワールドユース予選という「チャンス」を掴んだことだった。

「アジア予選で戦った経験で自信をつけ、さらに上のレベルでサッカーをしたいと思うようになった。それまでは体育の先生になろうと思って、大学に推薦で行くことを考えていた。でも、それをきっかけにして、上でやるなら大学よりプロの方がいいと思った。自分が経験したことを高いレベルで生かしたいと考えたからです」

 こんな秘話を明かすと、生徒たちも食い入るように耳を傾け、聞き入っていた。そして、プロという夢を叶えた川口が説いたのは、視線を常に「目の前」に置くことだ。

「夢や目標はもちろん持ちながら、目の前のことを全力でやってほしい。先のことばかり考えるんじゃなく、目の前に置かれた現実に向き合ってほしい。僕は実際にそうしてきた。目の前の練習から手を抜くことなく、一生懸命やること。それが、必ず自分の糧になるから」

 18歳だった高校時代も、41歳となった今も目の前の練習から全力でプレーし、「楽しさ」を見出している。プロの道を切り開く「差」となった精神は、プロ選手を目指すサッカー少年はもちろん、未来ある高校生たちにとっても重要な意味を持つものになるだろう。