秋山英宏 全米レポート(4)ニューヨークが力を与えてくれた。ダニエル太郎がナダルに善戦

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第8シードのスベトラーナ・クズネツォワを破った奈良くるみは、コート上でのインタビューで「ニューヨークが大好きです」と話し、観客の声援を浴びた。全米オープンは2013年に予選を突破して初出場、3回戦に進出した。この健闘が自他共に認めるブレークスルーになった。奈良にとっては思い出の地だ。試合後の記者会見でも、全米への思いを語った。

「このところ(ツアーで)勝っていなかったが、USオープンでいい結果をという希望を持ちながら、それをモチベーションとして頑張り続けられていたので、それがこういう大舞台で結果に出て、とにかくうれしいです」

勝てなくても、ニューヨークに行けば、というのが支えになっていたというのだから、効果は絶大だ。選手は好結果を残した大会の景色や空気を忘れない。またあの場所に戻りたいと願うものだ。奈良にはニューヨークがそうした場所の一つなのだろう。

"土地のチカラ"の恩恵を味わった日本選手が、もう一人いる。このニューヨークで生まれ、大会第4日のナイトセッションでラファエル・ナダル(スペイン)と対戦したダニエル太郎だ。

幼い頃に日本に移ったため、ニューヨークの思い出は少ないが、ジュニア部門に出場した際にも父親のポールさんの友人が多数応援に駆けつけるなど、出場のたびに「ホーム」を味わってきた。

1回戦のあとで、こんな話をしている。

「なぜかいつも、フレンチオープンとここ(全米)では一番いいプレーができる。フレンチはコンディション的に一番合っているし、アメリカは2つ目の家っていう感じなので。友だちもたくさんいるし、マンハッタンは楽しいし(笑)。エネルギーをもらいながら、なんか、(他の大会と)違った」

この大都会が、有り余るエネルギーのその一部を分け与えてくれるのだろうか。

それにしても、ナダル戦でダニエルが受け取ったエネルギー量は膨大だったのではないか。

この春くらいからグラウンドストロークの質が格段に上がり、主体的にラリーを進める場面が目立つ。「体幹トレーニングを増やし、特にフォアの安定感が出た」という。そのストロークがナダルを苦しめた。相手がナダルだけに、というのもあったのか、時には戦術を逸脱するくらい前のめりに攻めた場面もあった。

ファンはチャレンジャーの奮闘が大好きだから、意を決して王者に挑む姿には自然に声援が集まった。ニューヨーク出身というダニエルのプロフィールをどこかで目にした観客も多かったのか。声援を受けたダニエルは、ゾーンに入ったように攻撃的なショットを打ち続けた。

終盤は疲れ果てていた。だが、体は燃え尽きそうになっても、強くラケットを振った。脚は重くなっていたが、ボールを見れば自然に脚が動いた。

ニューヨークが、アーサー・アッシュ・スタジアムが、力を与えてくれたのか。

4セットの奮闘を終えたダニエルが、会見場に姿を見せた。

「コートに入った時に、すげーと思って。真っ暗で、いきなり電気ついて、コートが超デカイんで、うわっ、こんなところで(普段のプレーが)できるのかなと思った」

ナンバーワン選手とのナイトセッションの興奮を、ダニエルは普段着の言葉で振り返った。感じた思いは、かしこまった言葉ではとても表現しきれなかったのだろう。

「最高の経験でした」。ダニエルの笑顔がよかった。

(秋山英宏)

※写真は「全米オープン」2回戦でナダルを相手に奮闘したダニエル太郎
NEW YORK, USA - AUGUST 31: Taro Daniel of Japan competes against Rafael Nadal (not seen) of Spain during their Men's Singles tennis match within the 2017 US Open Tennis Championships at Arthur Ashe Stadium in New York, United States on August 31, 2017. (Photo by Volkan Furuncu/Anadolu Agency/Getty Images)