なんでも親が選ぶのではなく、子どもに選ぶチャンスを用意しましょう(写真:HIME&HINA / PIXTA)

※前回記事:集中力を育む「モンテッソーリ教育」の本質

私は、先生方の研修や一般の方々への講演会を通じて、かれこれ20年にわたり、モンテッソーリ教育を皆さんにお伝えしています。1998年には東京・吉祥寺に就学前児童を対象としたモンテッソーリ教育施設「吉祥寺こどもの家」を開園。子どもたちとのふれあいの中から、モンテッソーリ教育が子どもの持つ才能を伸ばしてくれるということを、身をもって感じています。

モンテッソーリ教育は、マリア・モンテッソーリ(1870〜1952)という、女性医学者・科学者によって、イタリアで始められた教育法です。今日では、欧米で3割の子どもが何らかの形でこの教育を受けているといわれています。

モンテッソーリ教育を受けた人の中には、特別な才能を開花させる人が少なくありません。藤井聡太四段がそうですし、Googleの共同創立者セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、Amazon.comの創立者ジェフ・ベゾス、Wikipedia創設者ジミー・ウェールズもモンテッソーリ教育を受けています。

家庭で実践するために

モンテッソーリ教育を突き詰めると、「大人の子どもに対する接し方」に集約されます。そのため、特別な園に通わなくても、自宅でこの教育を実践することができます。実際に考え方を学び、親子の間で実践している方も多くいらっしゃいます。

まずは、家庭でモンテッソーリ教育を実践するために欠かせない考え方を2つご説明した後、すぐに実践できる具体的なかかわり方をご紹介していきます。

子どもをよく「観察」しよう

自宅でモンテッソーリ教育をするためにまず大切なのは、子どもをよく「観察」することです。マリア・モンテッソーリは、「科学者のような目で子どもを観察しなさい」と教えてくれます。なぜなら、一見親にとっては不可解な行動の中に、子どもが大きく成長するヒントが隠れているからです。

子どもが今、何にこだわりを見せているのか。何が気に入っているのか。それをよく観察すると、子どもを伸ばすための方法が見えてきます。

「敏感期」を知ろう

「敏感期」。聞きなれない言葉だと思います。

しかし、この言葉を知っていると、子育てがぐんと楽になり、子どもの才能を伸ばすことができるのです。

敏感期とは、子どもが

自分を伸ばすために
ある一定の時期に
何かに対して
非常に強く反応する

時期のこと。わかりやすい言い方をすれば「何かにこだわりを見せる」時期のことです。 とはいえ、少しわかりにくいので、子どもの例で見てみましょう。

「所有」にこだわる時期にいるだけ

児童館で遊ぶ2歳のカンタ君は、自分が使っているおもちゃを譲ることができません。母親がいくら「お友達に貸してあげよう」と言っても、顔を真っ赤にして抵抗します。公園では、大好きなブランコを独り占め。後ろには長い列ができてしまいました。こんなことが続き、母親は私のところに相談に来ました。

「うちの子は欲張りで、思いやりがないのです。どうしたらいいのでしょうか?」

私はお母さんに「心配ありませんよ。カンタ君は順調に成長しています。敏感期の中でも『所有』にこだわる時期にいるだけです」とお伝えしました。

この頃のカンタ君は、

自分を伸ばすために:「所有」という概念を得るために
ある一定の時期に :この時期に
何かに対して :好きなおもちゃやブランコに対して
非常に強く反応する :強い愛着をもつ

この敏感期にある子どもにとって、おもちゃは貸せなくて当たり前。それは子どもの中で「所有」という概念が育ってきているところだからです。独り占めという経験を経て初めて、子どもは「共有」ができるようになります。ですから親は「欲張り」などといったレッテルを貼ってはいけないのです。

前回記事(集中力を育む「モンテッソーリ教育」の本質)でも少しご紹介していますが、敏感期に現れる特徴としては、「所有へのこだわり」のほかにも、主に次のようなものがあります。

同じことを同じ順序で繰り返したい「順序へのこだわり」→ 段取り力へ発展
同じことを同じようにしたい「習慣へのこだわり」→ 集中力を育てる
同じ場所に同じ人がいないと気持ちがわるい「場所へのこだわり」→ 倫理観へ発展
高いところに乗って歩きたい「運動へのこだわり」→ バランス感覚をつける
3本指を使いたい「指先の運動へのこだわり」→ 器用な手先をつくる

などがあります。矢印のあとに示したのは、これらの子どもの中にある「こだわり」を満足させることで育つ能力です。

藤井四段の集中力のすごさが話題になっていますが、モンテッソーリ園で同じ工作をし続けた、という話を読んで、私は一人「なるほど」と納得しました。同じ作品を同じように作り続けた経験が、のちの集中力への素地へとつながったのです。好きなことをとことんできる環境が、家庭や園で用意されていたに違いありません。

敏感期自体は人間だけでなく動物や昆虫にも見られます。たとえばウグイスはある時期を逃すと「ホー、ホケキョ」とうまく鳴けなくなることが知られています。小さい頃に鳴き方を覚えなければ、大人になってからウグイスの最大の美点である鳴き方を身に付けることができないのです。

子どもの「こだわり」を見せる時期に、それを十分満足させることで、集中力や器用さといった、後からは教えたくても教えることができない長所を身に付けることができるようになるのです。そのためには、敏感期について知り、子どもをよく観察することが大切なのです。

家で今すぐできること

子どもの能力を伸ばすために、具体的にできることをお伝えしましょう。子どもの生きる力を育むための、親の接し方です。

〜択の機会を設ける

なんでも親が選ぶのではなく、子どもに選ぶチャンスを用意しましょう。

小さい頃は2択から、大きくなるにつれて、選択肢を増やします。これは「イヤイヤ」の時期にも効果があり、あれもイヤこれもイヤと泣いている子どもに「どっちがいい?」と選択肢を示すと、片方を選んでくれることがよくあります。子どもは「ひとに決められる」のがイヤなだけなのです。ゼロ歳の子も「ママの右のおっぱいがいい」などと「選択」をしています。子どもはとても早くから、自分で決めたいという思いを持っているのです。

小さい頃から自分で選択をしていると、自然と判断力がついてきます。自分で決められる大人というのは、子どもの頃、小さな選択を積み重ねてきた人なのです。

やる気と自信の芽を摘んでしまわないで

教えない

私たちモンテッソーリの教師に求められるのは、「教えない」ということです。子どもが間違っていても、正解を押しつけてはいけません。パズルをしているタダシ君。4個目のピースが間違っているため、最後の10個目がうまくはまりません。ここで「これが間違ってるよ」と教えてしまうと、子どもが試行錯誤する機会を奪うことになってしまいます。ですから、「教えて」のサインを子どもが出すまでは、大人はじっと待たなければなりません。

しかし、これが皆さんとても苦手です。でも、よく考えてみてください。一生懸命やっている横で「違うよ」「間違ってるよ」「こうするんだよ」と言われ続けたら……? せっかくのやる気もなくなってしまうはずです。

大人が先回りして教えることは、何もいいことはないのです。やる気と自信は、子どもの試行錯誤の経験の中から生まれてくるものです。

J法を説明するときには、スローモーションで

子どもから見ると、大人の動きは「超高速」! たとえばファスナーの開閉の仕方を伝えるときに、ファスナーを上げる動作をしながら、「この細い溝に、こちらの先を入れてから、この先を持って上に上げるの」と言っても、子どもはまったくその説明についていくことができません。

まず、普通の大人の動作は子どもにとって早すぎて、目で追えないのです。また「目でデモンストレーションを見る」ことと、「耳で説明を聞く」ことを、同時にすることができません。ですから、子どもに何かを説明するときには、

スローモーションで行う
デモンストレーションをしているときには、話さない
説明しているときには、デモンストレーションはしない

ということを意識してください。

何度も説明しているのに、お子さんが全然覚えられないとしたら、それはお子さんが悪いのではなく、説明の仕方がお子さんに合っていないだけです。親御さんは説明の仕方を少し練習してみましょう。

敏感期を知って、お子さんを観察するようになると、どんなことにこだわっているのかが見えるようになってきます。そのこだわりを伸ばすことができるように、親は上手に選択肢を与え、試行錯誤させることで、お子さんは自らの力で成長することができるようになります。子どもは自分が伸ばしたい能力を知っているからです。

親ができることは、その能力を潰さないこと、そしてそれを伸ばすための環境を整えることなのです。

(構成:黒坂真由子)