「台湾まぜそば」が人気を博している理由とは(写真:筆者提供)

「油そば」「まぜそば」「和えそば」。ラーメンファンの間で、ゆでた中華麺を肉や野菜、卵などのさまざまな具とあえて(混ぜて)そのまま食べる、汁なしラーメンが人気を博している。

汁なしラーメンの中で目立っている「台湾まぜそば」

古くから「冷やし中華」もその一種といえるが、汁なしラーメンの中でも、このところ目立っているのが、「台湾まぜそば」だ。茹でた極太麺の上に台湾ミンチ(唐辛子とニンニクを効かせたしょう油味のひき肉)を乗せ、ニンニクやニラ、卵黄とともに混ぜて食べる。麺を食べ終わった後に「追い飯」と呼ばれる白ご飯を投入し、残ったミンチやタレを絡めて食べるのも特徴であり、とにかくパンチとボリュームがある。

「食べログ」で台湾まぜそばを検索してみると、全国に320店舗以上のお店が見つかる。一方、台湾まぜそばは筆者の知る限り、おそらく数年前まではほとんどの人に知られていなかったはずなのに、である。

名古屋にある台湾まぜそば発祥の「麺屋はなび 新宿店」(写真:筆者撮影)

発祥は名古屋の「麺屋はなび高畑本店」。店主の新山直人氏がアルバイトの女性のヒントから2008年に偶然にも編み出し、2009年から商品化している。

新山氏は「台湾ラーメン」で有名な名古屋のラーメン店である「味仙」系列の出身。台湾ラーメンとは、台湾ミンチを乗せたニンニクの効いた辛いラーメンである。

新山氏は、自分が独立して出したお店の新メニューとして、台湾ラーメンを試作していた。鶏の淡麗系のスープに台湾ミンチを合わせる。そんな味を試してみたが、大失敗だった。断念し、試作に使った台湾ミンチを捨てようとしていたところ、アルバイトの女性が「捨てるのはもったいないから、ゆでた麺にかけて食べてもいいですか?」と提案したのが、台湾まぜそば誕生のきっかけとなる。

新山氏は、アルバイトの女性に言われたとおり、茹でた太麺に台湾ミンチを合わせて食べてみた。これが結構旨かった。そこから一気にブラッシュアップし、「台湾まぜそば」として商品化。最初はジャージャー麺のような見た目の限定メニューとして提供していたが、ファンがつき、レギュラー化する。現在の形になるまでそこから3年かかった。

全粒粉入りの自家製麺(写真:筆者撮影)

「麺屋はなび」の台湾まぜそばは、全粒粉入りの自家製麺を使う。加水率が高めで、麺肌はうどんを意識している。普通のまぜそばよりも茹で時間は長めにとり(6分程度)、麺を上げる時にテボの中で麺を棒でグリグリと押し付ける。こうすることで麺に傷が付き、糊が出てタレに絡みやすくなる。またこの糊成分が醤油の角を取り、まろやかな味わいになる。

2013年の「名古屋めし総選挙」で準グランプリを受賞

2013年の「名古屋めし総選挙」では準グランプリを受賞し、「名古屋めし」として一気に広まった。その後も取材が殺到、東京にも進出し、名前は全国区になった。「台湾まぜそば」というネーミングは、「台湾ラーメン」の元祖「味仙」にきちんと仁義は通しているそうだ。

その後、「台湾まぜそば」は「麺屋はなび」1店にとどまらない広がりを見せる。大都市圏を中心として全国で他のラーメン店が続々と提供を始めたのだ。大手ラーメンチェーンでも「スガキヤ」や「はなまるうどん」がメニュー化したり、企業がカップ麺や冷凍食品を販売したりと、「麺屋はなび」のあずかり知らぬところで「台湾まぜそば」がどんどん現れた。

ただ、新山店主は意に介さない。「『台湾まぜそば』は商標登録していますが、これはあくまで何かあった時の防御のためで、攻撃に使うものではないと考えています。いろいろなお店が提供を始めましたが、感謝しかありません。『やるなら広く世の中に』と考えていましたし、乱立すると逆に本物が際立つというのもあります」。

「名古屋めし」として広まっていったのも興味深い。正直ここまでパンチの効いたまぜそばであれば、「名古屋めし」として売り出さなくともある程度まで売れたかもしれないが、それを「ご当地グルメ」として売り出していった。商材としても情報としても全国に非常に広げやすかったというメリットがある。

「麺屋はなび」と同じ中部地方にある飛騨高山ラーメンの名店「豆天狗」の店主・冨田佳浩氏はこう語る。「『台湾まぜそば』は、「名古屋めし」の定番に現代のエッセンスが入った商品で、通常のラーメンとは違う広がり方で人気になっていきました」

「通常のラーメンと違う広がり方」とは

冨田氏も指摘する「通常のラーメンと違う広がり方」とは何か。

台湾ミンチを乗せ、ニンニクやニラ、卵黄とともに混ぜて食べる(写真:筆者撮影)

まず、ラーメン店の視点から見ると、参入のしやすさがある。台湾まぜそばを含む、汁なしラーメンは一般的なラーメンよりも味がブレにくく、コストが抑えられるという点がある。それはスープがないからだ。ラーメン店にとってスープは命。まぜそばのタレもこだわれば果てしないが、やはりスープがない分、一般的な参入障壁は低いと考えられる。

商品性そのものもラーメンファンをうならせる。とにかくボリュームが多く、辛く、ニンニクが効いていてパンチがある。作る工程、混ぜる工程、最後の追い飯までがアトラクションのように続いていく。「中毒性」があるのだ。

「追い飯」と呼ばれる白ご飯を投入し、残ったミンチやタレを絡めて食べるのも特徴であり、パンチとボリュームがある(写真:筆者撮影)

食品会社に勤めるラーメン好きの30代男性Aさんは、「独特の辛味やニラの香り、そしてジャンクさ。台湾まぜそばには『それが食べたい』という特別感があります。逆を言えば『ラーメン食べたいなぁ。そうだ今日は台湾まぜそばにしよう』とはなりません」と話す。

台湾まぜそばは、いわゆるラーメンのほかの商品とは食い合わない。ラーメンの仲間としてくくられることが多いものの、すでにラーメンとは一線を画した食べ物として成り立ちつつある。

Aさんはそれが、「『ラーメン二郎』と同じだ」と評する。筆者も同感だ。東京・三田を本店として周辺に展開するお店。ラーメンでありながら一つのジャンルとして、ラーメン通がいろんな角度で語るのがラーメン二郎である。台湾まぜそばが確立しつつあるのも、一般的なラーメンとは競合しない、独自の地位。「博多豚骨ラーメン」「札幌味噌ラーメン」などと同列の新しい「ジャンル」に発展しているといっていいだろう。