モンゴルのウランバートルの郊外で、希少な牧畜犬モンゴリアン・バンホールを散歩させるデルジェリーン・ツェレンカンドさん(2017年6月25日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】デルジェリーン・ツェレンカンド(Delgeriin Tserenkhand)さんは数年前、モンゴルでライオンのようなたてがみとドレッドヘアのような巻き毛の1頭の野良犬を拾った。この大型犬は、モンゴルの首都ウランバートル(Ulan Bator)をうろついている薄汚い他の雑種犬と変わりはないように見えた。

 その時のデルジェリーンさんはまだ10代で、路上から救い出してペットにした犬が世界最古の品種に属する犬だったとは知る由もなかった。

 現在、34歳になったデルジェリーンさんは、かつて遊牧民の伝統に深く浸透していた希少な牧畜犬モンゴリアン・バンホールを復活させる運動に携わっている。 モンゴリアン・バンホールは、モンゴルが旧ソ連の衛星国だった数十年の間に絶滅寸前に追い込まれた。

 ほぼ全身が黒い毛に覆われた家畜の「番犬」、 モンゴリアン・バンホールが現在何頭残っているのか、信頼できる数字はない。遊牧民らによれば、何世代も前のモンゴルにはすべての犬がバンホールだった時代があったという。

 だが1960年代になって、モンゴリアン・バンホールは疫病を広めると考えられたために大規模な殺処分の対象となった。その結果、バンホールが持っていた番犬としての能力や、モンゴルの神秘的な伝統慣習に不可欠な存在という価値観は次第に忘れられてしまった。

「この犬を救うことは、モンゴルの文化を救うことなんです」と、デルジェリーンさんはウランバートル郊外にある自身の放牧場でAFPに語った。

 デルジェリーンさんは、バンホールの子犬を譲る際、海外の買い手には1匹2000ドル(約22万円)を請求しているが、モンゴルの遊牧民にはそれよりも低価格で譲っている。

■人間と同じ「精神」を持つ犬

 モンゴルのどの家でも1頭以上のバンホールを飼っていた時代、遊牧民たちは関節痛になると、バンホールの毛をひと房そって油の入った容器に浸してから痛む部分に押し当てて手当し、干ばつの際にはバンホールに羊毛の織物をかぶせて雨乞いをした。

 デルジェリーンさんによると、モンゴル人たちはバンホールは他の動物とは違って人間と同じ「精神」を共有していて、他の動物とは違うと信じている。バンホールが死ぬと神々に近づけるように山の頂上に埋葬される。

 バンホールの役割は、精神的なものに限られない。遊牧民の生活にバンホールを復活させるための米国・モンゴルの共同事業「モンゴリアン・バンホール・ドッグ・プロジェクト(Mongolian Bankhar Dog Project)」は、バンホールの存在によってオオカミなどの捕食動物による家畜の損害が大幅に減少することを突き止めた。

 遊牧民の家族が移動した先で新たにテントを張り家畜を放牧すると、バンホールはその縄張りにマーキングをして周辺の捕食動物に自らの存在を知らしめる。

 同プロジェクトの設立者で生物学者のブルース・エルフストロム(Bruce Elfstrom)氏はAFPの取材に「バンホールはかなり速く走り、モンゴルのオオカミより体重もある。縄張りに別の犬やユキヒョウが入ってくれば極めて凶暴になる」と述べた。

 エルフストロム氏によれば、1年にヤギとヒツジ80頭を失ったある遊牧民は翌年にバンホールを飼い始めると損害が40頭に減った。35頭の家畜を失っていた別の遊牧民も、バンホールを飼ってからは家畜の損害がゼロになったという。

 デルジェリーンさんはバンホールが高い知能を持つことを知ってほしくて、よく地方からバンホールを連れてウランバートルにやってきた友人の話をする。その友人がウランバートルに到着してまもなくバンホールは逃げてしまった。だが1か月後、その犬はウランバートルから1000キロ以上も離れた地方の友人の家に戻ってきたのだという。
【翻訳編集】AFPBB News