睡眠不足がたまっている状態の「睡眠負債」。積み重なると、ガンや認知症、うつ病になる可能性も。チェックの仕方と解消法を知っておきましょう。

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睡眠負債とは……睡眠の借金? 睡眠不足との違いは?


睡眠と覚醒のリズムは、「体内時計」と「睡眠物質」の2つによってコントロールされています。夜になったら眠くなり、朝になったら目が覚める、というのが体内時計の働きです。一方、長い時間起きていたら睡眠物質が脳にたくさんたまって眠くなり、眠っている間に睡眠物質が分解されて量が減ると目が覚めます。

この睡眠・覚醒のメカニズムから考えると、いくらたくさん眠っても「寝だめ」はできません。私たちは起きている間にたまった睡眠不足を、眠ることで返しているだけなのです。寝だめは「睡眠の貯金」、睡眠不足は「睡眠の借金」とも言えます。そのため睡眠医学では、睡眠不足のことを「睡眠負債」と呼んでいます。

一般的には、毎日の睡眠が足りない量を「睡眠不足」、睡眠不足がたまっている状態を「睡眠負債」と考えるとイメージしやすいでしょう。

睡眠負債が招く心身の健康リスク

睡眠負債が大きくなると、眠気が強くなります。中には自分で睡眠不足を自覚していない人もいて、そんなときは、寝つきが悪いなどの不眠症状として現れることもあります。多くの人で平日と休日の起床時刻の差が大きくなり、週末や休暇には普段より遅い時刻まで眠っています。

睡眠負債のため脳の働きが低下して、強い疲労感や倦怠(けんたい)感、無気力、意欲低下、不安、抑うつ気分、落ち着きのなさ、注意力散漫、協調性の欠如、攻撃性の高まりなどが見られます。また、食欲不振や胃腸障害、筋肉痛が現れたり、風邪をひきやすくなったりします。

思春期前の子どもの場合は、自分から眠気を訴えないことがあります。そのような場合でも、不機嫌や注意力散漫、食欲不振など、眠気が原因と思われる行動異常が見られます。

会社では、仕事のスピードが遅くなったり、雑になったりします。また、ミスや失敗が増えます。さらに、交通事故を起こすリスクも高まります。学校では、授業中の居眠りが増え、学業成績が下がり、ケガや病気が増えます。友人や教師との関係が悪くなることもあります。

睡眠負債が積み重なると、ガンや認知症、うつ病になる可能性も指摘されています。短い睡眠時間=寝不足(睡眠負債)とは必ずしも言えませんが、睡眠時間が短いとガン細胞が増えやすくなったり、脳細胞に「ゴミ」がたまりやすくなったりするという研究があります。

休日の睡眠時間でわかる睡眠負債のチェック法

手軽に睡眠負債の量をチェックするには、休日と平日の睡眠時間を比べます。具体的にはまず、寝室をできるだけ暗く静かな環境にして、休日に目覚ましをかけずに眠れるだけ眠ります。目が覚めてもまた目を閉じて、何度でも二度寝しましょう。いくら目をつぶってももう眠れない、となるまで眠ります。

限界まで眠った時の睡眠時間と、いつもの平日の睡眠時間の差が2時間以下ならば、睡眠負債はほとんどありません。しかし、その差が3時間なら睡眠負債は1日につき1時間、差が4時間なら2時間/日、差が5時間なら3時間/日の睡眠負債があることになります。

睡眠負債の解消法……手軽で有効な「昼寝」

睡眠負債を解消する基本は、夜の睡眠時間を長くすることです。睡眠負債を減らして脳をすっきりさせ、日中のパフォーマンスを高めたいのなら、6〜8時間の睡眠時間を確保しましょう。平日に睡眠時間を増やせないなら、休前日や休日の夜は今より1時間早く寝床に入り、休日の朝は平日より2時間遅く起きると、体内時計の調子を崩さずに週単位で睡眠時間を増やせます。

とはいえ、なかなか夜の睡眠時間は、確保しにくいものです。そんな時は、昼寝を徹底的に活用しましょう。昼寝の基本は、平日に20分眠る「パワー・ナップ」と、休日に1時間半眠る「ホリデー・ナップ」です。

パワー・ナップは、正午から午後3時までのあいだにとる20分の昼寝です。本当は、午後の眠気がピークとなる14〜16時に昼寝すると良いのですが、ビジネス・パーソンには無理なことが多いでしょう。ですから、昼休みの前半で昼食をとり、後半に机に突っ伏したり椅子にもたれかかったりして、20分の昼寝をするのが現実的です。

パワー・ナップの前にカフェインをとると、目覚めるころにカフェインの覚醒効果があらわれて、スッキリ目が覚め、クリアな頭で午後の仕事を始められます。

ホリデー・ナップは、休日にとる90分の昼寝です。90分というのは、睡眠のリズムでちょうど目覚めやすい時間です。ただし、遅い時間帯に仮眠すると、夜の睡眠に悪影響が出るので、午後3〜4時までには起きてください。

短時間の仮眠と違いホリデー・ナップでは、ソファやベッドなどに横になって眠ってもかまいません。もちろん、眠りすぎないようにするため、必ず目覚ましアラームをセットしておきましょう。

光と食事を見直して睡眠負債を減らす方法

睡眠に影響を与える最も大きな生活習慣は、「明るさ」と「食事」です。この2つをうまくコントロールすれば、睡眠の質を高めて睡眠負債を減らせます。

人間は昼行性の動物なので、よほどの夜型人間でない限り、日中に活動して夜に眠ります。しかし、24時間社会となった現代では、夜にも明るい光を浴びてしまいます。夜に浴びる明るい光は、睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」の分泌を抑えて、睡眠の質を悪くします。ですから、夜にはあまり強い光を浴びないようにしましょう。

光の中でも「ブルーライト」と呼ばれる青い光は、メラトニンの分泌をより強く減らします。ブルーライトは、電子メディアの画面からたくさん出ています。眠る1時間前、遅くとも30分前には、テレビやDVD、パソコン、タブレット、ゲーム機、スマートフォンの電源を切りましょう。

お腹がふくれると眠くなります。しかし、夕食の後すぐに眠ると、眠りが深くならず睡眠の質が悪くなります。夕食から眠るまでは、2〜3時間あける必要があります。眠る時刻から逆算して、夕食をとる時刻を決めましょう。どうしても遅い時間に食べないといけないときは、夕方におにぎりなどを軽く食べておき、夜遅くに少なめの食事をする「分食」を試してみてください。

睡眠負債がたまると、かなり危ないことにもなります。健康でパワフルな毎日を送るためにも、睡眠負債の量を早めにチェックし、昼寝をとるなどして睡眠負債の解消に努めてください。
(文:坪田 聡)