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「健康寿命からライフプランを考える(前編)〜健康寿命とは何か〜」と題した前回の記事では、日本の健康寿命には3つあり、それぞれの健康寿命がどのような指標を基に計算されているかを紹介しました。今回は、3種類の健康寿命の使い方と、ライフプランへの活用方法を提案します。

○寝たきりが10年続くというわけではない

まず、最も知られている「日常生活に制限のない期間の平均」の健康寿命です。平成25年のこの指標による健康寿命は、男性71.19年、女性74.21年となっています。この健康寿命と平均寿命の差である健康ではない期間、男性9.01年、女性12.40年という結果を見て、「寝たきり」の期間が10年も続くのかと思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それは正しい解釈とは言えません。

○働ける目安としての健康寿命

ここで押さえておくべき点は、この健康寿命の計算の基となっているのが、厚生労働省が行う国民生活基礎調査における質問で「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という問いに対する回答だということです。ここで言う「日常生活」への影響には、起床、着替え、食事、入浴といった生活動作にとどまらず、外出や仕事・家事の作業量や時間が制限されることや、スポーツへの影響も含まれます ので、必ずしも寝たきりを意味するわけではないことはおわかりになると思います。

それでは、この「日常生活に制限のない期間の平均」の健康寿命は何に使えるのでしょう? 私は、フルタイムで働くことが可能な年齢の目安として使用することを提案します。現在、高年齢者雇用安定法が改正されて、希望すれば65歳までは働くことができますが、身体的・能力的にはこの健康寿命ぐらいまでは働くことができるのではないでしょうか。したがって、ライフプランで、自分が何歳まで働くかを考える際の参考材料として使えると考えます。

○健康の捉え方を知る目安としての健康寿命

次に「自分が健康であると自覚している期間の平均」の健康寿命です。この健康寿命は、先に挙げた「日常生活に制限のない期間の平均」の健康寿命とほぼ同じ値になっています。それは、日常生活に何らかの支障が出てきた段階で、自分は健康でなくなったと自覚する人が多いということを示していると考えます。逆に言えば、「健康」≒「日常生活に制限がない期間」と捉えている人が多いということでしょう。この健康寿命からは日本人が健康をどう捉えているかがわかります(※1)。

※1 平成28年国民生活基礎調査【健康票】補問5-1

○介護が必要になる目安としての健康寿命

最後に、「日常生活動作が自立している期間の平均」の健康寿命は、男性78.72年、女性83.37年(平成25年)となっています。ここでは、要介護2以上か否かが指標となっていますので、この健康寿命は介護が必要となる年齢の目安として使えます。

ちなみに、要介護2もまだ「寝たきり」ではありません。要介護2の状態は、歩行や起き上がりなどの「日常生活動作」についての部分的な介護が必要となる状態です(※2)。ですので、私たちが抱く「寝たきり」のイメージは、介護なしには日常生活を営むことが困難である要介護4以上の状態が該当するのではないかと思います。

この健康寿命は、前述の2つの健康寿命とは約8〜9年の差があります。これは、前述の2つの健康寿命が自己評価のみで決定できるのに対して、この健康寿命は介護認定という他者からの評価によって決定されることが要因と考えられます。この約8〜9年というタイムラグは、自分の日常生活に制限が出始めてから、他者が見ても介護が必要であると認められるまでの期間でもあります。したがって、この期間中に自立、要支援1、要支援2、要介護1というプロセスを経て要介護2へと至ったと考えられます。

平成28年国民生活基礎調査の概況によると、要支援となった主な原因は、「間接疾患」が17.2%で最も多く、次いで「高齢による衰弱」が16.2%となっています。また、要介護2となった主な原因は、「認知症」が22.8%で最も多く、「脳血管疾患(脳卒中)が17.9%で続きます(表1)。よって、これらの原因の予防に努めることを提案します。

※2 厚生労働省 介護保険制度における要介護認定の仕組み

○健康寿命を使う際の注意点

ここまで、3種類の健康寿命の使い方を提案してきましたが、これらの健康寿命は平均値であることに注意を払わなければいけません。ですので、誰もがその年齢になると介護が必要になるというわけではありません。個人差が大きいですから、絶対視することなく、目安として使うことをお勧めします。

また、健康でない期間の短縮に取り組むことは必要なことですが、同時にヒトが生物学的に「老いていく」存在であると認めることも大切なことだと考えます。老化は、程度の差はあれ、誰にでも起きる避け難い生命現象です。病気の予防に努めていたとしても、日常生活に影響が出ることや、要介護状態になることもあると思います。仮にそうなったとしても生きやすい社会を作ることが、将来の私たちにとって、人生の満足度を高めることにつながるはずです。健康でない期間の短縮に努めるとともに、そのような社会を目指すことを、あなたのライフプランに加えてみてはいかがでしょうか。

○執筆者プロフィール : 山田敬幸

一級ファイナンシャルプランニング技能士。会社員時代に、源泉徴収票の読み方がわからなかったことがきっかけでFPの勉強を始める。その後、金融商品や保険の販売を行わない独立系FPとして起業。人生の満足度を高めるためには、お金だけではなく、健康や人とのつながりも大切であるという理念のもと、現役世代の将来に向けた資産形成や生活設計に対する不安の解消に取り組んでいる。