徹底的なコンセプト作りが斬新な商品を生む

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大自然に囲まれた徳島県那賀郡。そこにルーツを持つ2人の天才がいる。日本を代表するウルトラテクノロジスト集団チームラボの猪子寿之氏と、表参道ヒルズにフラッグショップを構えるメンズファッションブランドジュンハシモトの橋本淳氏だ。

地方から東京に進出し、世界を目指す2人。人並外れた頭脳と行動力で、未来を創造していると言っても過言ではない。そんな2人が、幼少期の原体験から、多忙を極める経営者の仕事術、時代に名を刻む壮大な夢まで、本音を語り合った。4回の連載を通して、その奇抜な思考回路を読み解いていく。(第1回はこちら

──同郷のお二人は何がきっかけで出会われたのでしょうか?

橋本:最初にメッセージを送ったのは僕です。テレビで僕のデザインした服を着ている猪子さんを見たんですよ。ちょうどそのとき、「僕の服を着てる人シリーズ」っていうのがマイブームで。

猪子:なんですか、そのマイブーム(笑)。

橋本:服を貸し出した人は最初から把握してるんですが、自分で買って着てくれている人って、わからないんです。そういう人を見つけるシリーズです(笑)。で、そんなときに猪子さんを見つけて「あ、うちの服や!」って思って、調べたらチームラボが出てきたんです。それでさらに経歴を調べたら徳島出身って出てきて、連絡したんですよ。

猪子:それが、2016年の3月。

橋本:猪子さんは、何で僕のことを知ったんだっけ?

猪子:橋本さんのデザインしたアーミージャケット「M65」を買って持っていたんです。シルエットがすごいキレイでかっこよくて。そのあと、今度はTシャツにはまってたくさん同じ商品を買ったんです。あ、同じじゃないか。ラウンドネックとVネックっていう違いはあるけど。そのTシャツばっかり着てたんです。後から聞いたら、全部、橋本さんが関係してできたブランドだったという(笑)。

橋本:ありがとうございます。

猪子:そして会って話してみたら、同じ徳島県出身っていうことがわかったんです。しかも橋本さん、地元のオシャレなセレクトショップのバイヤーだったんですよ。僕は当時高校生だったのですが、その世代にすごく有名な店でした。

橋本:徳島のとんがったヤツが集まる店だったんです。実はお互い徳島にいる頃から、すぐ近くにいたんですね。

──ジュンハシモトの商品のコンセプトはどのように生み出されているのでしょうか?

橋本:僕は自分自身を「買う気持ちをデザインするデザイナー」と定義しているんです。服飾系の学校や芸大を出ているわけじゃないから、デザイン画は描けない。でも、どんな商品だったら「これ欲しい!買う!」と思うかはわかる。感覚的なものなので数値化も言語化もできないんですけど、自分が消費者だったら着たくなるような商品を作っています。



猪子:確かに。橋本さんの服って、なんかいいんですよ。写真で見ると普通なんだけど、着ると全然違うの。あの良さは、着たときに初めてわかった。

橋本:感覚で作っているので、着てみないとわからないかもしれないですね。猪子さんは、どうやってコンセプトメイキングをしているんですか?

猪子:どんな企画も、チームラボのメンバーと一緒に考えたり、打ち合わせをしたりしながら進めています。作品や展示のコンセプト文は僕が書いてメンバーにレビューしてもらったりもします。非言語の領域で考えた抽象的なものを、時間をかけて言語化していくんです。

2017年7月から10月にかけて、佐賀県・武雄市で開催中の『資生堂 presents チームラボかみさまがすまう森のアート展』のコンセプトの紹介文とか。あんな長文、誰も読まないと思うけど…。

橋本:いや、読みますよ!(笑)

猪子:読まないよ、あんな小難しい文章(笑)。でもこの展覧会、本当にいいものなんですよ。舞台は、佐賀県の御船山楽園っていう50万平米ある江戸時代後期の庭。本物の池や巨石、樹齢三千年の大きなクスノキがあるんですけど、そういう何百万年という時を経て形作られた自然とデジタルを融合させて、アートにするんです。コンセプトは、デジタイズドネイチャー。

橋本:僕ね、そういう猪子さんの発想、すごく興味があるんです。俗に言うアートって、絵とか壺とか、形のあるものばかりでしょ。対してチームラボの形は、デジタルだから形が残らない。でもコンセプトがしっかりしているから、芸術作品として形を成している。そこに面白さを感じるんですよね。

猪子:ありがとうございます。今回はまさに、形があるようでない曖昧な境界線上で感じられる、不思議な心地よさを実感してもらいたいんです。僕自身、庭園と森との境界が曖昧な場所に迷い込んだとき、自然と人の営みの、境界のない連続性の上に自分の存在があるんだなって感じたんです。自分という存在は、何十億年という圧倒的な時間の長さの、永遠に繰り返されてきた生命の生と死の連続性の上にあるって……。

この展覧会では、そういう、日常ではなかなか知覚できないことを感じ取ってもらいたいと思っています。

──お二人とも斬新な商品を発表されていますが、どのようにターゲットを選定されているのでしょうか?

橋本:ジュンハシモトのターゲットは僕です。僕の感覚についてこられる人だけ、ついてきてくれればいいと思ってます。マーケットとかターゲットとかよく言いますけど、完全無視ですね。ひとつ例を挙げて説明すると、たとえば今、目の前にカーテンも家具も壁紙も黒で統一された部屋があるとします。どんな人が住んでいると思いますか?

猪子: 20代前半の男性とか、ロック好きな人?

橋本:一般的には、そういうイメージだと思います。でも、そういう部屋が好きな18歳のギャルもいるだろうし、60歳のおっさんもいるはず。だから僕はターゲットを絞り込むんじゃなくて、「こういう物をつくりたい」っていう自分の感覚をどこまでも突き詰めるんですよ。

猪子:だから橋本さんの服は一貫性があるんですね。

橋本:消費者の一つひとつの行動って、実はあまり大きな意味がないんですよ。「なんかないかな〜」と思いながらショッピングをしている。

猪子:確かに。この素材で、こういう縫い目で、こんなシルエットのパンツを探しているんですっていう人は、まずいない。

橋本:だからコンセプトのある服を作って、プッシュするんです。店員が迷っていたら失礼にあたるし、何も伝わらない。「これ着たら確実にモテますよ」「最高ですよ」って伝えて、ニーズを生み出す。それでパンツを買ってくれた人がいたとしたら、次の来店までに、そのパンツに合うシャツを作って置いておく。そうやって流れを作るんです。それがジュンハシモトのビジネス論。

猪子:じゃあ僕も、チームラボの話をさせてもらおうかな(笑)! チームラボは、イベントによってターゲットを変えています。例えば、現在開催中の参加没入型ミュージックフェスティバル『バイトル Presents チームラボジャングルと学ぶ!未来の遊園地』。このイベント、昼は親子向け、夜は大人向けなんです。

橋本:大人向けって、どんな感じなんですか?

猪子:そこにいる人々が中心の新しい形の音楽フェスです。光のアートに体ごと没入し、人の手が光線に触れて音楽を奏でる参加没入型のミュージックフェスティバルです。人は光の線を物質として認識し、それを繰り返すと光の線がどんどん物質化して、光によって空間を再構築することができるんです。つまり、お客さん自身がアートをつくり出すんです。でも光には形がないから、身体ごとアート作品に没入していくことができる。

橋本:光でできた彫刻に、自分の身体を重ねる感じ?

猪子:そう。音楽フェスのように、自分たちが身体を動かして音と光をつくり出し、極めて自由な状態でアートに没入できる。アートを身体で感じる体験をしてもらいたいんです。

橋本:猪子さんが売れている理由がわかるな。誰にも真似できない、確固たるコンセプトがある。

猪子:世界中の人々が持っている概念を覆したいんです。日本だけで通用するものではなく、この時代にのみ適応するものではなく、人類全体の概念を更新したい。それがチームラボの目標です。[第3回に続く]

猪子寿之/チームラボ代表◎1977年生まれ。2001年東京大学計数工学科卒業時にチームラボ設立。チームラボは、プログラマ、エンジニア、CGアニメーター、絵師、数学者、建築家、ウェブデザイナー、グラフィックデザイナー、編集者など、デジタル社会の様々な分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。アート、サイエンス、テクノロジー、クリエイティビティの境界を越えて、集団的創造をコンセプトに活動している。https://www.teamlab.art/jp/

橋本淳/ジュンハシモト デザイナー◎1992年、地元徳島のセレクトショップでインポートや古着を仕入、販売。1996年、レクレルール日本一号店にてバイヤーを務める。2000年、単身イタリアに渡り、伊ブランド「カルペ ディエム」を運営する会社初の外国人スタッフとし、営業・企画に携わりながら、服作りを学ぶ。2003年、同ブランド代理店を設立するため帰国。翌年、ショールーム「wjk」を設立。2008年、自身のブランド「ジュンハシモト」をスタート。