この蘊蓄100章は思わず人に話したくなるはずです(写真:kuro3 / PIXTA)

モノ情報誌のパイオニア『モノ・マガジン』(ワールドフォトプレス社)と東洋経済オンラインのコラボ企画。ちょいと一杯に役立つアレコレソレ。「蘊蓄の箪笥」をお届けしよう。
蘊蓄の箪笥とはひとつのモノとコトのストーリーを100個の引き出しに斬った知識の宝庫。モノ・マガジンで長年続く人気連載だ。今回のテーマは「自動販売機」。暑い季節、自販機で買う冷たいドリンクに癒やされる人も多いだろう。あっという間に身に付く、これぞ究極の知的な暇つぶし。引き出しを覗いたキミはすっかり教養人だ。

この連載の一覧はこちら

1. 自販機には、飲料・食品・たばこ・券類・日用品雑貨などの自動販売機のほか、両替や自動精算機、コインロッカーなど自動サービス機も含まれる

2. 自動販売機の歴史は2000年以上前のエジプトまで遡り、紀元前215年頃アレクサンドリアの神殿に置かれた「聖水自動販売機」がルーツとされる

3. 現存する世界最古の自動販売機は1615年頃に英国の旅館や居酒屋で利用されていた嗅ぎたばこ販売機「正直箱」

4. 1822年の英国には本の自販機が存在した。自由思想家の本屋が公安機関に抵抗して本を売るため設置したもの

5. 1857年には英国でセミアン・デナムが切手と収入印紙の自動販売機を考案。特許をとった最初の自販機となった

6. 19世紀後半、産業革命後の英国において飲料、食品、チケット、たばこなどの自販機が開発され実用化が進む

7. 19世紀末のドイツでは自販機のみが置かれた無人のレストラン「Automat」が流行した

8. 1882年には米国でガムの自販機、ガムボールマシーンが大ヒット

9. 日本最古の自動販売機は上野公園に置かれた「自動体重測定機」といわれるが、開発者や設置期間は不明

10. 1888年には俵屋高七が木製のたばこ自販機を考案。第3回内国勧業博覧会に出品されたが実物は現存しない

現存する日本最古の自販機は?

11. 現存する日本最古の自販機は1904年製の「自動郵便切手葉書売下機」。逓信博物館に所蔵されている

12. 日本で最初の飲料自販機は、酒の自動販売機だった

13. 最初に広く普及した自販機は1924年に中山小一郎が製作、全国の菓子店の店頭に置かれた袋入り菓子自動販売機

14. 1931年に登場したグリコのキャラメル自販機は、おカネを入れると映像と音楽が流れ、子どもたちに大人気に

15. 1960年代には噴水型ジュース自販機「オアシス」が登場。全国に 1万台以上設置された

16. 1962年、日本初の清涼飲料自販機として瓶入りコカ・コーラの自販機が全国に880台が設置された

17. 1962年国内初のホット自販機で販売されたのはカップ式コーヒー(ブラック、砂糖入、砂糖・ミルク入)とココア

18. 国内自販機普及台数が100万台を突破したのは1970年

19. 1976年、1台の自販機でホットとコールドを同時に作動できる画期的な機種が登場

20. これを機に自販機の普及台数は大幅に伸び、飲料自販機だけで1980年に216万台に急増

世界随一の自販機大国、日本(撮影:今井康一)

21. 自販機普及台数世界一は米国で約645万台(2013年)

22. 日本の普及台数は世界2位で約500万台

23. 国土面積を勘案した普及率、設置密度、総売上において日本が世界随一の自販機大国といえる

24. 日本の自販機全体の売上は5兆円に達する。うち飲料自販機は約2兆円

25. 自販機普及台数は2000年にピークとなる561万台、総売上金額は7兆1123億円を記録した

26. 飲料自販機の消費電力は1991年からの20年間で70%以上削減。省エネ法の目標値を1年早く達成している

27. 消費電力の大幅削減はゾーンクーリング、学習省エネ、ヒートポンプ、照明の自動減光、真空断熱材などの技術の開発、導入によるもの

28. ゾーンクーリングは庫内全部ではなく、もうすぐ売れていく商品だけを冷やすことで消費電力量を減らす機能

29. ヒートポンプは、庫内の冷却装置から出る熱を再利用しホット商品を温める方式のこと

省エネ機能を自動的に働かせるマイコン内蔵

30. 学習省エネは、内蔵マイコンがこれまでの売行きデータなどを分析し、ゾーンクーリングなどの省エネ機能を自動的に適切に働かせるという仕組み

31. また明るさのセンサーやタイマーを内蔵、屋外の自販機は昼間消灯など照明の点灯時間をコントロールする

32. コカ・コーラ社は2013年、朝から深夜まで最大16時間、冷却のために電力を使わず夜間だけ冷却して24時間冷たい飲み物を提供可能な「ピークシフト自販機」を導入

33. 飲料自販機の年間消費電力量は1999年に約75億kWh。2015年には20億kWhまで減少

34. かつて1台当りの飲料自販機の消費電力は1世帯分に相当するといわれたが、現在は冷蔵庫2台分程度

35. 自販機の運営形態は大きく分けてフルオペレーション(フルオペ)とセミオペレーション(セミオペ)の2つ

36. フルオペは事業主が設置場所を提供し、商品補充、売上金の集金、メンテナンスなど自販機業者側が担当するもの

37. セミオペは設置場所の提供だけでなく、仕入、集金、メンテナンスなどを事業主側が負担する代わりに売上もすべて事業主側の収入となるもの

38. 一般的にフルオペで自販機を設置するのに事業主が負担するのは設置場所と電気代のみ

39. 自販機を設置した場合のマージンは売上の15%〜20%程

40. 飲料自販機 1台あたりの年間平均売上金額は1999年にピークの130万円、2015年は83万3000円

41. 自販機1台にかかる電気代は 1カ月7000〜8000円

42. 一般的な自販機の貯蔵庫に缶飲料約500本が入る

43. 自販機のコールド用缶飲料は通常5℃前後、ホット用缶飲料は55℃前後で販売されている

44. カップ式自販機の設置には食品衛生法に基づく喫茶店営業の許可が必要。屋内の設置が規定されている

45. 調理式食品自販機の設置には飲食店営業の許可が必要

46. 自販機のコイン投入口は、飲料自販機やたばこ自販機は横のものが多く、乗車券自販機は縦が主流

47. 縦に硬貨を入れる方式は回転による遠心力で識別装置に早く到達するが、内部にある程度スペースが必要となるため人が並ぶような駅の乗車券販売機などに採用される

メトロの券売機(撮影:尾形文繁)

48. 横に硬貨を入れる方式は滑り落ちる時間はかかるがコイン収納スペースをあまり取らず、商品の収納スペースを大きく取れるため、飲料自販機などに多く採用される

49. 自販機で 1円、5円硬貨が使えないのは、かさばるためという単純な理由による

お札とコイン、その真偽の判別は?

50. 自販機では紙幣識別装置が挿入されたお札の磁気的・光学特性を検知し、あらかじめプログラムされている本物のお札のデータと照合して真偽を判別する

51. コインについては、硬貨選別装置が材質、重み、厚み、直径を検知して真偽を判別している

52. 自販機で紙幣が読み込まれず戻ってくるのは、シワではなく、表面についた脂や汚れが原因の場合が多い

53. 一般に自販機で1回に使える同一硬貨は20枚まで

54. また、多くの自販機で1回に投入できる100円硬貨は4枚まで、500円硬貨は3枚までと制限されている

55. 自販機で購入した缶・ペットボトルの飲料は、右手で取り出すと必ず飲み口が上になるよう補充されている

56. 飲料自販機で「売切」ランプは残り1本になると点灯する。補充後すぐに購入者がいても適温で提供するため

57. 自販機の返却レバーを下げ商品ボタンを長押しすると、温度もしくは売上本数、残数などが表示される場合がある

58. 自販機で購入する際、人の目線は左下から右上に移動するというマーケティングにより、主力商品を目に入りやすい左下に配置するケースが多い

59. 当たり付き飲料自販機は、1970年代後半にダイドードリンコが始めたサービス

60. 当たりの確率は自販機ごとに設定できるが、景品表示法により最高でも2%

自動販売機に詰め込まれたこまやかな配慮(撮影:尾形文繁)

61. ダイドードリンコでは売り上げの約85%を自販機が担う

62. 自販機を利用する人の男女比は9 : 1

63. 自販機利用率が高いのは30代〜50代男性

64. 日本では23人当たり1台の自販機が設置されている

65. 日本人が自販機で使う金額は年間平均4万円以上

66. 自動販売機調整技能士は自販機を組み立て、正しく動作するよう調整する技能を認定する国家資格

67. 自販機のトップメーカーは三重県の富士電機

68. 売上日本一の自販機はJR横須賀線横浜駅9番10番ホーム内にある清涼飲料の自販機。月に2万3000本、年間約3600万円を売り上げる

69. 秋葉原名物「おでん缶」の自販機は2005年に1ヵ月で1000万円の売り上げを記録

70. 日本最南端の自販機は波照間島の星空観測タワー内

日本で最も高い場所にある自販機は?

71. 最も標高の高い場所にあるのは富士山頂の飲料自販機。標高とともに価格も高くなり、300mlボトルで400円

72. 1996年の酒類自販機の設置数は約19万台。現在購入者の年齢確認機能のない従来型機は3437台まで減少

73. 飲食店のテーブルに置かれる“ルーレット式おみくじ”も自販機の一種。正式名称は卓上小型自動販売機

74. ダイドードリンコは傘を無償で貸出す「レンタルアンブレラ」対応自動販売機サービスを実施

75. レンタルアンブレラのサービスは2015年に関西でスタートし、現在約130台の自動販売機で展開。返却率は70%

76. 広島の醤油メーカーの『だし道楽』は、ペットボトル入りだし(トビウオ丸ごと一匹入り)の自販機を東京や大阪はじめ全国各地のコイン駐車場三井のリパークに増設中

77. 「納豆工房せんだい屋」では、山梨県各地と東京都内に納豆自販機を設置、約20種の納豆を販売

78. ほかにもバナナ、カットリンゴ、缶入りパン、卵、生花、下着などさまざまな自販機がある

79. 近年は大手量販店に設置されている「はんこ」の自動販売機が人気。どんな名字でも価格は500円〜

80. 東京〜徳島〜門司を結ぶ東九フェリーにはレストランがないため自販機コーナーが充実。全国で唯一の握り寿司の自販機「ほまれ寿司」もあったが現在は撤去

81. 日本初の純金自動販売機も登場。販売価格は金相場変動により毎日変わる

82. 多摩動物園にはチンパンチジー用の自販機がある

83. 新東名高速に2016年オープンした長篠設楽原PAに設置された自販機は戦国武将のセリフを喋る。下りのPAは織田信長、徳川家康、上りのPAは武田信玄

84. 米国、カナダではマリファナの自販機がある。ただし医療目的により購入許可申請済みのIDが必要

85. 米国の自動車メーカーCARVANAはナッシュビルに自動車の自販機を設置。事前にオンラインでの購入が必要

86. フランスのレ島では生牡蠣の自販機が人気。好みの種類、大きさの牡蠣が入った冷蔵のカートンを開ける仕組み

87. ユニクロは米国で自動販売機「Uniqlo To Go」を展開開始。「ヒートテックシャツ」「ウルトラダウンジャケット」を扱い、1号機はオークランド空港に設置された

88. アサヒ飲料では2017年夏、庫内温度を従来より4℃低い約1℃の「強冷」で飲料を提供できる自販機を設置

89. 冷えが気になる女性向けに「常温」の自販機も登場

90. キリンビバレッジは自販機のオンライン化により設置した専用の通信機器で在庫状況などをタイムリーに把握

スマホアプリなどとの連動

91. キリンは自販機に無料アプリ「LINE」をかざすと、ドリンクポイントが貯まるサービスを東京・大阪でスタート

92. 日本コカ・コーラでは2016年4月に「Coke On」サービス開始。専用アプリをダウンロード後購入本数に応じてスマホの端末にポイントが貯まり好きな飲料が無料でもらえる。アプリは 1年で300万ダウンロードを突破

JR東日本が展開する飲料自販機「acure」(撮影:吉野純治)

93. JR東日本が展開する飲料自販機「acure」は人感センサー、属性認証により購入者に合う商品を薦める機能が特長

94. 「acure」最新モデルのイノベーション自販機はスマホアプリにより事前購入、まとめ買いが可能

95. NYでは客を認識し会話ができる人工知能搭載の自販機「Vicki」や「Lisa」が登場し話題となっている

96. 群馬県前橋市には日本初の自販機博物館「わくわく自販機ミュージアム」が2012年にオープン

97. 災害発生時に商品を無償で提供する機能を備える「災害支援型自販機」は2003年に登場。その第 1号機は埼玉県上尾市市役所に設置された

98. 太陽光パネルにより災害時などに自家発電機能を発揮する自販機もある

99. 自販機にはその場所の住所が表示された自販機統一ステッカーが貼り付けられている

100. 災害時には自治体の防災担当部署がパソコンなどから電波を使って情報を発信し、電光掲示板付の自販機に文字情報を表示する仕組みも備える

(文:森谷 美香/モノ・マガジン2017年9月16日号より転載)

参考文献・HP/ 『自動販売機の文化史』(集英社)、『日本懐かし自販機大全』(辰巳出版)『日本地理びっくり図鑑』(ポプラ社)、 ホームページ 〈日本自動販売システム機械工業会〉〈日本コカ・コーラ〉ほか関連サイト