”Tプロデューサー”こと土屋敏男さんが、「師匠」と敬愛する萩本欽一さんのドキュメンタリー映画を創った理由とは…?(筆者撮影)

今の30代以上の世代なら「進め!電波少年」という、1990年代に日本テレビで放送されたバラエティ番組を知る人は多いだろう。番組を見ていなかった人でも、猿岩石にユーラシア大陸をヒッチハイクで横断させた番組といえば、わかるのではないか。
同番組を見ていたならば、番組内に登場していた”Tプロデューサー”こと土屋敏男さんを記憶している人も多いだろう。電波少年シリーズや「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」をヒットさせ、バラエティ番組の一時代を築いた人物だ。
土屋さんは1956年生まれ。昨年、還暦を迎えたが、今、新たに挑戦していることがある。それが、土屋さんが「師匠」と仰ぐ、“欽ちゃん”こと萩本欽一さんにフォーカスしたドキュメンタリー映画『We Love Television?』の制作だ。
あのTプロデューサーがつくる映画とはどのようなものなのか、また、なぜ、テレビの一時代を築いた男が、今、「映画」に挑戦するのか、土屋さん本人に取材した。

きっかけは、あるテレビ番組

今回の映画を撮るきっかけになったのは、2011年7月に放送された、ある番組だという。2011年といえば東日本大震災の年だが、テレビ界も地上アナログ放送が終了し、デジタル放送に完全移行する大きな節目の年だった。

このテレビ界の節目に、日テレでも2時間枠の特番を放送することになり、そこで土屋さんが企画したのが、テレビのプロたちにとって、永遠のテーマである「視聴率」の謎を解き明かすというものだった。高視聴率の番組というのは、どうすれば作れるのかというのは、土屋さんをもってしても、いまだにブラックボックスだという。

そこで白羽の矢を立てたのが、土屋さんが「師匠」と敬愛する萩本欽一さんだ。欽ちゃんといえば、1980年代に、「欽ドン!」をはじめ、3本のレギュラー番組を企画・出演し、すべてが視聴率30%以上を記録。3本の番組の視聴率の合計が100%を越えたことから“視聴率100%男”の異名を持つ、テレビ界のレジェンドだ。萩本さんに番組作りを依頼し、その制作過程を克明に記録すれば、テレビ界における積年の謎が解明されるかもしれないという期待を込めた。

2011年の冬、萩本さんを自宅前で待ち受け、「欽ちゃん、もう一度、視聴率30%番組を作りましょうよ」と持ちかけると、萩本さんは「そんな、うれしいことを言ってくれるの」と、快く引き受けてくれた。

番組の内容は、欽ちゃんの真骨頂というべき舞台コントだ。出演にあたり、萩本さんから提示された条件は、主演を「(女優の)田中美佐子にする」というものだった。萩本さんは、明治座での公演などを通じて、田中さんの“コメディエンヌ”としての才能を高く評価しており、田中さんを主演に起用すれば、視聴率30%が取れるというのだ。

その後、今注目のクリエーティブ集団・猪子寿之さん率いる「チームラボ」が、CGによる舞台セットを制作するなど、7月のオンエアに向けて、準備は着々と進んでいったが、一方で、さまざまな“事件”が起きる。まず、3月10日には、萩本さんの相方、坂上二郎さんが脳梗塞で亡くなる。その翌日、3月11日には、あの東日本大震災が起きた。

そして、極めつきが、番組収録本番の前々日に、主演の田中美佐子さんが萩本さんの元を訪れ、番組を降板したいと伝えたのだ。結局、番組は田中さん抜きでやることになった。

映画のテーマは?

映画の副題は、「誰も知らない、萩本欽一」 。画像をクリックすると、『We Love Television?』公式ページにジャンプします(画像:©2017日本テレビ放送網)

今回の映画『We Love Television?』は、その2011年の番組を受けてのドキュメンタリー映画だ。映画の中で「視聴率30%の番組のつくりかた」が解明されるのかも気になるところだが、さらに興味深いのは、映画の副題にもなっている「誰も知らない、萩本欽一」、つまり、萩本欽一の人間像が克明な映像で映し出されているというのだ。土屋さんいわく、「萩本欽一を追ったドキュメンタリーは今までにもあったが、今回の映画は、これまでにない、ありえない深さ」だという。

実は、2011年の番組出演のオファー時に、土屋さんは萩本さんに「番組のメイキング映像に使うので、何か思いついたり、こうしようと思ったらカメラをまわしてください」と伝え、自撮り用のビデオカメラを手渡した。

すると、番組準備中の半年間、萩本さんは、ほかの仕事をせず、集中していたこともあり、必要以上にカメラを回してくれたので、結果として10時間を超える膨大な量の自撮り映像が残った。そこには、坂上さんの葬儀の様子や、震災発生の日の夜に何を思っていたのか、田中美佐子さんが降板を伝えに来たときにどのように対応したかなど、素顔の萩本欽一に迫る、貴重な映像が含まれていた。

土屋さんは、この、最初から映画を撮るために撮影したわけではなく、結果として“撮れてしまった”貴重な映像を映画として編集することを思いつき、本来の仕事の合間にコツコツと編集を進めた。それが、今回の映画なのだ。

テレビに対する愛

萩本さんはテレビのことしか考えていない!?(画像:©2017日本テレビ放送網)

『We Love Television?』という映画の題名は、土屋さんが膨大な映像を編集する過程でつけたものだが、そこに込めた思いを話してもらった。

「ボクには2人の師匠がいます。1人は、20代後半で、初めて携わったバラエティ番組『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の総合演出をやっていたテリー伊藤さん。テリーさんとの仕事は、気に入らないことがあれば灰皿が飛んでくるし、それはもう大変でした。会議では、放送作家の先生が書いてきたものを、“面白い””つまらない”と瞬時に判別していく。先生方が書いたものをなんでそんなに”軽く”扱えるのかと、あるとき聞いてみました。すると、作家っていうのは、会議の1時間前に喫茶店で思いついたことをパッと書くんだ。俺は、この番組のことを1日10時間、1週間、毎日考えている。才能うんぬんの問題じゃない。そもそも、俺とあいつらじゃ、考えている量がまったく違う。つまらないと言って捨ててるのは、俺が、とっくに思いついてたアイデアなんだ、と言うんです」

この「考える量」というのは、土屋さんにとって、その後、仕事をするうえでの1つのバイブルになったという。そして、もう1人の師匠が萩本さんだ。

「萩本さんは、“笑い”というものを科学的に説明できる人。笑いには、フリ、オチ、フォローという要素があり、オチの後、周りにいる連中が、フォローとして何秒間笑わないと、観客席に笑いが起きないというようなことを説明してくれました」

一見、2人の師匠はまったくタイプが異なるように思えるが、土屋さんは2人には、ある種の“狂気”とも思える、全身全霊を捧げた“テレビに対する狂わんばかりの愛”があり、それこそが、人に見てもらうものをつくる“表現者”のあるべき姿ではないかと話す。

「今回の映画制作を通じて、萩本さんについてあらためて思ったのは、この人、本当にテレビのことしか考えてないのねということ。もう、本当に四六時中、テレビのことしか考えてないんです。

実は、この映画をいちばん見てほしいと思うのは、テレビの仕事に携わっている人たち。ボクも含めてなのですが、われわれは、この人ほど本当にテレビを愛してるのだろうかという尺度で、あらためて問い直してみないと、今後、テレビはダメになるんじゃないかという意味で、タイトルの最後に“?”をつけました。だから、若いテレビマンには、特に見てほしい映画です」

「若いテレビマンには、特に見てほしい映画だ」と語る土屋さん(筆者撮影)

エンディングロールの後を見逃すな

さて、『We Love Television?』は、今年11月に日活系劇場で配給になる。なぜ、2011年から6年も経つ、今年、公開なのかと、やや意地悪な質問をしてみた。

「6年間、“寝かせてしまった”というのが正直なところですが、結果として、これは正解でした。先日、映画のシメのつもりで、現在、萩本さんが出演しているNHK BSの番組の撮影現場に伺ったのですが、そこで撮れたのが、“現役コメディアン”であること以上に、いまもって全身全霊で仕事に取り組む萩本さんの姿でした。ボクは、58年間に及ぶテレビのアナログ放送の“象徴”として、萩本さんを描こうとしていましたが、そのもくろみはいいほうに外れました。そういったことも含めると、本当に作るべきときに作った映画なんだなと思いますね」という。

今回の映画制作に「還暦の節目」の仕事の意味はないのかという問いに、まったくないと否定する土屋さんも現役そのものだ。もし、今回の映画を見た映画関係者からオファーがあれば、2作目、3作目にも取り組む意欲があるそうだ。映画は、テレビと違い、途中でチャンネルを変えられる心配がないから、好きなようにつくれるのが気持ちいいという。

最後に、土屋さんから気になる一言があった。

「エンディングロールの後に、すごいシーンがあるので、席を立たずに最後まで見てください。そこが、この映画全体のテーマでもある、非常に重要なシーンなので」