東芝は主要銀行などから8月末までに半導体メモリ事業の売却先を決定するよう求められていたが、できなかった。綱川智社長は事態をどう打開するのか(撮影:尾形文繁)

「売却交渉状況の報告をし、検討はしたものの、開示すべき決定事項はありませんでした」 

「やはり」というべきなのだろう。売却先の決定はまたも見送られた。

東芝が8月31日に開催した定例取締役会。焦点となっていた半導体メモリ事業子会社、東芝メモリの売却について、直前まで「本日の取締役会で売却先を決定」「独占交渉権付与を決定」といった報道が飛び交っていたが、結局、何も決定されることなく終了した。

米国原子力事業の巨額損失により、東芝は2017年3月期に9656億円の最終赤字、5529億円の債務超過に陥った。債務超過を2018年3月末までに解消できなければ、東京証券取引所の規定により上場廃止となる。それを回避するために東芝メモリの売却を目指してきた。

日米韓連合と早期決着のつもりが

東芝は6月21日、政府系ファンドの産業革新機構、米大手投資ファンドのベインキャピタル、日本政策投資銀行からなるいわゆる「日米韓連合」を優先交渉先に決めた。「日米韓」なのは、半導体大手の韓国SKハイニックスがベインに資金提供する形で参加するスキームだったからだ。決定直後、綱川智社長は6月28日の定時株主総会までの契約締結に自信を示していたが、終着点が見えないまま9月に入ってしまった。

交渉の障壁となっているのはメモリ事業の合弁を組む米ウエスタンデジタル(WD)の存在だ。WDが自社の同意なしに東芝が持ち分を売却することに「契約違反」と反対。国際仲裁裁判所に差し止めを申し立てている。革新機構などはWDとの係争解決を契約条件としていることなどもあり、日米韓連合への売却交渉は進まなくなった。

東芝メモリの四日市工場。売却交渉は進んでいないが、新棟建設(写真奥)は急ピッチで進む(記者撮影)

結局、”優先交渉”は消滅。日米韓連合に加え、WDと大手投資ファンドの米KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)と革新機構などの連合、EMS(電子機器受託製造)で世界最大の台湾鴻海精密工業を加えた3陣営と交渉を続けてきた。

直前まで優勢だったのはWD陣営だ。

売却完了のためには、各国の独禁法審査をクリアする必要がある。特に中国当局の審査には最低6カ月はかかるとされる。2018年3月末までに子会社売却益を計上し、債務超過を解消するには一刻も早く売買契約を結び、独禁法審査に進みたい。

前に進むには、WDを取り込むしかない――。日米韓連合を推していた経済産業省もWDを容認、債務超過解消に道筋をつけたい主要銀行も8月中の売却先絞り込みを東芝に求めた。

東芝とWDの溝は埋まらず、3陣営と交渉継続

大筋合意と報じられていたものの、将来にわたるWDの出資比率についてなど、東芝とWDの溝は実際には埋まっていなかった。さらに、8月末が迫った土壇場でアップルが資金提供する新提案をベインが行ったこともあり、決めきれないまま3陣営との交渉継続となった。

東芝は「可及的速やかに契約締結を目指す」としているし、そこにウソはないのだろう。ただ、3陣営のどこに決めたとしても2018年3月末までに独禁法審査をクリアできる望みは薄い。前述した独禁法審査に必要な6カ月はあくまで目安でしかないからだ。

中国の独禁法に詳しい神戸大学の川島富士雄教授は、「(半導体で同業の)WDやハイニックスが出資する場合、少数株式の保有であっても中国では審査が長引くリスクがある」と指摘する。

将来時点の出資比率増加や出資への切り替えは、その時点で審査するのが制度上の立て付けではあるが、「転換社債の取得でも、今回の買収時点ですでに株式を取得したものと扱われるおそれがある。融資契約でも将来の株式保有の計画などを約束していたら、介入や審査長期化のリスクとなる」(同)。

医療機器事業売却では公取から厳重注意

東芝が2016年にキヤノンに売却した東芝メディカルシステムズの医療機器(撮影:尾形文繁)

2016年にキヤノンへ東芝メディカルシステムズを売却した際、キヤノンの医療機器事業規模はごくわずかだったにもかかわらず、中国での審査終了に9カ月超かかった。

このときはキヤノンが受け皿会社を使うトリッキーなスキームで、独禁法当局の審査を待たずに東芝は売却代金を受け取った。たが、制度趣旨を逸脱したとして日本の公正取引委員会から両社は厳重な注意を受けた。

「中国でも、結果的に競争制限には当たらないが、未届出実施だったとして行政制裁金を課されている」(川島教授)。

さらに、今年7月には欧州委員会がキヤノンに「承認前に東芝メディカルを買収した疑いがある」として警告を出した。キヤノンには最大で連結売上高の10%という巨額制裁金を課されるリスクがある。

各国の独禁法当局から見れば、東芝には“前科”がある。その審査がスムーズに進むと考える方がおめでたい。

主要銀行などから8月末までというプレッシャーをかけられても、WDに譲歩しなかったのは、東芝がもはや2018年3月末までの独禁法審査クリアは間に合わないと考えているからではないか。実際、8月10日の会見で綱川社長は「独禁法は厳しいものがある」と発言している。

もちろん、いずれかの陣営と9月中に契約締結に至る可能性はある。そうなったとしてもWDやハイニックスが入る陣営では、期限内の独禁法クリアは難しい。では、東芝はどうなるのか。

常識的に考えれば、5000億円超の債務超過は、メモリ売却なしには解消が困難なため、上場廃止は免れない。しかし、東芝に関しては、結論(今回は上場維持)ありきで、他社ならばまず認められない手法もまかり通る現実を見せられてきた。

メモリ売却が間に合わない場合に、上場廃止を回避するにはどういう策があるのか、という視点でアプローチすべきなのだろう。債務超過のままでの上場維持といった特例はさすがに東証も認めにくい。債務超過は解消する必要がある。そのためには当たり前だが、利益を積み上げるか、資本を増強するしかない。

資産売却と資本増強の組み合わせも選択肢

2018年3月期の会社予想の最終利益は2300億円(メモリ事業を売却しない前提)である。人材流出や信用不安で足元の受注は厳しいが、NAND市況や為替などの前提、これまでの減損や賃金カットを考えれば、今期の業績はここから上振れる可能性が高い。

急速な円高の進行や新たな訴訟などによる特別損失の発生がなければ、2018年3月末の債務超過額は3000億円を切ってくる。その程度の金額ならば、残る上場子会社株などの資産売却とDES(デット・エクイティ・スワップ=債務の株式化)や優先株発行、第三者割当増資など資本増強策を組み合わせれば処理できるのではないか。

現状、具体的な資本増強策が検討されている様子はないが、それしか手がなければ選択肢に挙がらないわけはない。

メモリ売却を間に合わせるスキームに切り替わる可能性もゼロではない。事業会社を入れず金融資本のみに売却するならば、独禁法審査が間に合うかもしれない。

東芝の半導体メモリ事業の売却を巡って、事態は混迷を深める一方だ(写真はイメージ、車載用半導体でメモリではない)(撮影:尾形文繁)

東芝メモリを2兆円で売却できれば、株主資本を7000億円積み上げられるというのが現在の試算だが、これは売却益に課税される前提。米国ウエスチングハウス関連の損失が税務上の欠損金として認められれば、株式を半分程度売れば間に合う――。

「結局、東芝の経営陣は何とかなると考えているのだろう」。メモリ売却をめぐって振り回されている関係者は、疲れ切った口調でこう吐き捨てた。