8月29日の北朝鮮によるミサイル発射の影響で、北海道や東日本の鉄道各線では一時運転見合わせなどの対応が取られた(写真はイメージ)(写真:hamazou / PIXTA)

「ミサイル発射の影響で安全確認を行ったため、電車が遅れております……」。8月29日の出勤時、このようなアナウンスを通勤電車の車内で聞いた人も多かったのではないだろうか。

早朝の日本を騒がせた北朝鮮による弾道ミサイルの発射は、国内への被害はなかったものの、各地で鉄道の運行に影響を与えた。

今回、Jアラート(全国瞬時警報システム)で対象地域となったのは、北海道、青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、新潟県、長野県の12道県。これらの地域を走る各線をはじめ、対象に含まれなかった地域の一部路線でも列車の運転が一時ストップした。一方、対象地域内でも通常運行を続けた路線もあった。

都心各線は通常通りの運転

対象地域となった東北地方や北関東などを運行エリアとするJR東日本は、ミサイル発射の情報を受けて本社の運行指令から各支社などの運行指令に列車の停止を指示。Jアラートによる情報が発信された6時02分以降、東北・上越・秋田・山形・北陸の各新幹線のほか、在来線66線区のうち48線区で一時運転を見合わせた。

同社では基本的なスタンスとして、Jアラートやエムネット(緊急情報ネットワークシステム)でミサイル発射の情報を得た場合は「対象地域内の列車と対象地域へ向かう列車について、走行中なら停車させ、停車中なら抑止する」と定めているという。

このため、今回の対象地域外だった東京都心部でも、茨城や栃木、群馬方面に向かう宇都宮線や高崎線、常磐線などが影響を受けた一方、山手線など都心部のみを走る路線は通常通りの運行を続けた。4月29日に北朝鮮がミサイルを発射した際は全線で一時運転を見合わせた東京メトロも、今回は通常通りの運行を続けた。

東京メトロによると、4月の時点ではJアラートのほか、ミサイル発射の報道があった場合でも運転を見合わせることにしていたが、その後「Jアラートが鳴った場合」に基準を見直した。「今回はJアラートの対象地域ではなかったため、運転見合わせはしなかった」という。

国土交通省鉄道局危機管理室によると、今回のミサイル発射でJアラートの対象地域を運行するJR、大手私鉄については「列車の抑止を行ったことを把握している」という。

一方、対象地域外でも安全確認のため一時運転を止めた鉄道会社もある。

神奈川県内を走る相模鉄道(相鉄)は、6時02分から全線で一時運転をストップした。同社はミサイルが関東地方に飛来した場合は運行を見合わせることにしているといい、今回は「北関東(茨城、栃木、群馬)がJアラートの対象地域に入っていたため、そのルールにのっとって停めた」。相鉄線は一部で米海軍厚木基地の敷地横を通っているが「それは運転見合わせには関係ない」という。

都内の多摩地区を南北に走る多摩都市モノレールも、6時08分から約9分の間、全線で運転を見合わせた。同社の場合は「基本的にJアラートやエムネットでミサイル発射の情報が入れば、運転は直ちに見合わせることにしている」。都内は今回、Jアラートの対象地域ではなかったが「担当者が万全を期してストップさせた」という。

「長野に隣接」名鉄もストップ

対象地域外で一時列車を停めたのは、関東地方の鉄道だけではない。今回のミサイル通過エリアからはだいぶ離れた、愛知県や岐阜県に路線網を持つ名古屋鉄道(名鉄)も、全線で約10分間運転を見合わせた。

Jアラートの対象地域が北海道や東北地方など東日本エリアだったため、インターネット上では「なんで北海道にミサイルが飛んで名鉄が停まるのか?」「台風でも停まらない名鉄がなぜ」といった声も見られたが、同社によるとその理由は「運行エリアに隣接する長野県がJアラートの対象地域に入っていたため」だ。

ミサイルが発射された場合、名鉄では「運行エリアがJアラートの対象地域に入っている場合に運転を見合わせる」のが基準だが、今回は万全を期して全線を停止させたという。同社によると、6時02分にエムネットの情報を受けて運転指令から停止を指示し、6時06分までに運行中の全列車をストップ。ミサイル通過の情報が出た6時17分に運転を再開した。

逆に、対象地域内でも列車を停めなかった鉄道会社もある。JR東海は、中央西線と飯田線が対象地域となった長野県内を通っているが、今回のミサイル発射では運転見合わせはしなかった。

同社は「エムネットやJアラートで『ミサイル発射情報・避難の呼びかけ』があり、当社エリア内に飛来するおそれがあると判断した場合、列車を停止させる」という方針だが、今回に関しては「情報を複合的に勘案し、当社エリア内に飛来するおそれはないと判断したため」だ。

国交省鉄道局危機管理室によると、ミサイル発射時の鉄道各社の対応については「特にいわゆる文書的なものはない」といい、国による指針などが定められているわけではない。だが、4月末のミサイル発射時に東京メトロが報道に基づいて運転を見合わせた件などを受け、「情報源がまちまちだと混乱を招きかねない」として、国によるJアラートやエムネットの情報に基づいて対応するよう働きかけは行っているという。

支障の可能性は低くても…

ミサイルが日本列島を飛び越えるような事態は起こらないのが一番だが、北朝鮮をめぐる情勢を考えれば、今後も同様のケースが起こる可能性は考えられる。

通過地点から離れていたエリアでは「なにもここまで列車を停めなくても」といった声もあるものの、乗客の命を預かる鉄道会社としては、Jアラートが鳴れば万が一を考えて対応せざるを得ないのが実情だろう。今回の対象地域外だったある鉄道会社の社員は「列車の運行停止は影響が大きい。実際にミサイルが通過したエリアを考えると(関東などは)支障がある確率は極めて低いが、万全を期すという考え方もあり難しいところ」と話す。

今回のミサイル発射では、特に地方で「地下に避難しろといわれても逃げる場所がない」といった問題も指摘された。過剰に恐れることなく、高空を飛び越える脅威にどう対応するか。日常生活を支える鉄道にも大きく影響する課題だ。