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 トランプ大統領は昨年の大統領選挙戦中から対中国との経済戦争を力説していた。しかし、彼の視点は対中国との貿易赤字を如何に修正するかという単眼思考に尽きるのである。中国との取引で米国の経済そして雇用が恩恵を受けていることや、この経済戦争の波長を強めれば、中国が保有している米国債の売却も早まり、ドル離れも加速化されるといった複眼思考が彼には出来ないのである。

 例えば2015年の米国の対中国における貿易赤字は3860億ドル(42兆4600億円)であるが、中国との取引で米国では数百万人の雇用が維持されている。(参照:「El Economista」)

『World Economic Forum』の広報紙は、以下のようなシナリオを想定している。両国で経済戦争が激化すれば、中国が飛行機の購入をボーイング社からエアーバスに移すであろう。それによって米国は17万9000人の雇用を失うことになる。同様に、米国のサービス企業は8万5000人の職場の喪失に繋がる。また、中国が米国からの大豆の輸入を中止すれば、ミズーリーとミシシッピーでは10%近い雇用の喪失を導くようになるとしている。(参照:「World Economic Forum」)

◆反発を買う米国、近寄る中国

 大豆と言えば、それを原料とするバイオディーゼルについて、こんな例もある。

 米国が、国内のバイオディーゼルの生産業者を保護するために、アルゼンチンのバイオディーゼルの生産業者が政府から補助金を受けているとして米国は相殺関税としてバイオ燃料に平均57%の関税を適用すると主張し始めた。そして、米国はその入念な調査の為の期間が必要だとしてアルゼンチンからのバイオディーゼルの輸入を一時停止することにしたのである。ちなみに、従来のバイオ燃料への関税は4.5%。その差が単純にいって10倍以上の税率を主張し始めたのだ。

 当然、アルゼンチンの大豆生産業者は理屈に合わないとして同国への輸出を却下する姿勢になっている。しかも、この通知がペンス米副大統領がアルゼンチンを訪問して両国の貿易の拡大を望んでいることを発表した矢先の出来事であったことから、尚更アルゼンチン政府もそれを不服だとして法的に訴える構えも見せている。

 一方で、同じタイミングで中国最大の穀物備蓄企業SINOGRAIN(中国儲備糧管理総公司)がアルゼンチンからのバイオディーゼルの輸入を近く再開することを決めたというニュースも入ってきた。2015年の同国への輸出は14億ドル(1540億円)という大きなディールの復活である。

 こうした出来事は、折角オバマ前大統領がアルゼンチンとの関係改善に努めた努力が減少して、アルゼンチンは再び中国を見直す要因になって来ると見られている。

◆対NAFTA交渉の失策

 現在、再交渉が始まった北米自由貿易協定(NAFTA)についても、トランプは対中国との経済戦争と同様に、メキシコに対し米国の雇用の喪失と貿易赤字の修正を主張している。

 NAFTAにおける対メキシコとの貿易赤字は上述した中国との赤字のほぼ6分の1である。トランプは米国の特に自動車産業における雇用の喪失を上げているが、低賃金のメキシコで米国自動車そしてその部品が生産されているお陰で米国製自動車の輸出競争力がついたという事実をトランプは無視している。それどころか、NAFTAの影響でメキシコの農作物は競争力を失い100万人近くが失業者となり、彼らの多くが米国に移民として流入したという事実があることにもトランプは気づいていないようである。

 特に、メキシコの主食であるトウモロコシは米国から遺伝子組み換えの安価なトウモロコシがメキシコの農家を壊滅させたという事実があることをトランプは無視している。(参照:「Resumen Latinoamericano 」)