今年8月より、日本初となる小型飛行機の会員制チャーターを活用した総合旅行サービスが始まった。提供するのは「スカイトレック」。昨年6月に設立されたばかりのベンチャーだ。このサービス、果たして成功するのだろうか? 37歳にして同社の代表取締役社長を務める永堀敬太氏を訪ねた。


スカイトレック代表の永堀敬太氏 ©末永裕樹/文藝春秋

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 日本の移動と観光に、新たな選択肢が加わった。「カジュアルラグジュアリー」をコンセプトにするスカイトレックが提供するのは、小型飛行機とヘリコプターのチャーターをメインに使用した会員制の旅行会社。日本全国100箇所の空港やヘリポートを結んで、オーダーメイドの空の旅を実現した。

 利用方法は、とてもシンプル。iPhoneの専用アプリで出発地と目的地、日程を入力して、表示された旅のプランをタップするだけ。操作性は、電車の乗換案内やカーナビとほとんど変わらない。もちろん、メール、電話での予約も可能だ。

 スカイトレックはほかにも大手エアラインの航空券や宿泊先の手配、自宅から空港、空港から宿泊先までのハイヤーサービス、レンタカーやレストランの予約、現地でのアクティビティの提案まで、旅と移動にまつわるあらゆるサポートを展開している。

 同社はビジネスとプライベート、どちらの利用も想定しており、例えば六本木のアークヒルズから成田空港までヘリコプターを使って20分程度で移動して大手エアラインに乗り換えたり、これまで足を延ばすのが億劫だった離島をホッピングすることもできるようになった。


Photo by Tetsuya Ito / Courtesy of SKY TREK

入会金は個人で1000万円、法人で1500万円

 これだけのサービス、利用したいという人も多いだろうが、その価格は日本では珍しく超高額だ。入会金は法人で1500万円、個人で1000万円。別途必要な年会費やチャーター料金を加えると、一般人にはまったく手が届かない料金設定になっている。

 ターゲットを富裕層メインに絞ったこのサービスは、どのようにして生まれたのだろうか。スカイトレック代表取締役社長の永堀敬太氏は、こう振り返る。

「弊社の母体は広島で100年以上、造船海運業を手掛けてきたグループで、いち早く生産の現場を海外に移したことで世界でもトップ10に入る地位を築きました。一方でオーナーには地元への想いもあり、地域に根差した形で新しいビジネスと雇用を生み出そうと考えたんだと思います。6年前に町おこしの会社、せとうちホールディングスを作り、尾道でサイクリスト向けホテルを開いたり、デニム事業など地域の特徴を活かしたビジネスを始めていました。そうしてまちを活性化するアイデアのひとつとして、瀬戸内海で水上飛行機を飛ばしたら面白いんじゃないかという話が出たのがこの事業のきっかけです」


エルメスが内装を手がけた特別仕様のヘリコプター「H135 HERMÉS Edition」の内装 Photo by Tetsuya Ito / Courtesy of SKY TREK

 もともとは、大卒後に入社したイー・アクセス(当時)を経て都銀で働いていた永堀氏。2年ほど前、せとうちホールディングスを通して様々な町おこし事業を構想していたオーナーと出会い、「うちに来ないか」と誘われて、スカイトレックの事業に携るようになった。

 その当時、既にせとうちホールディングスはアメリカの小型飛行機メーカーを買収しており、オーナーからチャーターサービスのアイデアを聞いて驚いたと苦笑する。

ビジネスとして成立するのか?

「ビジネスとして成立させるのは難易度が高いんですよ。それは、機体の維持や燃料費など固定費がたくさんかかるから。大手エアラインやLCCはゴールデンルートを決めて、びっしり席を埋めて飛ばして、それでようやく黒字になる。小型機は座席数も飛ばす頻度も少ないので、採算ラインに乗せるのは簡単じゃありません。それで、まずは富裕層向けの会員制にしてビジネスとして成立させることを目指していますが、日本には小型機をチャーターするという文化がないので、そこからチャレンジしなくてはいけない」


©末永裕樹/文藝春秋

 欧米では富裕層の乗り物として小型機やヘリコプターは一定のニーズがありそうだが、永堀氏が指摘するように、日本ではそもそも小型機が空を飛んでいる印象がない。その理由は、これ見よがしな贅沢を避ける日本人の気質に加えて、参入障壁の高さがあった。

「弊社の事業を始めてみてからわかったことですが、まず航空法のレギュレーション上、保安検査など大手エアラインとほぼ同じ手続きが必要になるので、日本国内でチャーター便を飛ばすこと自体、難易度が高いんです。さらに、日本全国で100箇所弱の空港があるのですが、空港ごとに利用の申請方法、期限などがバラバラで、大手エアラインが使う空港以外は、ひとつひとつの空港に確認して調整しなくてはいけません。これまで誰もこういった情報をまとめてこなかったこともあり、海外の競合他社も日本に参入できなかったんです」

神戸ー出雲なら約1時間

 誰もやってこなかったのはニーズがないからと捉えるか、誰もやってこなかったからこそ市場が広がっていると考えるか。永堀氏は後者だった。それは、自身が小型飛行機を使った旅と移動に魅了されたという証でもある。

 まず、移動時間が劇的に短縮される。新幹線なら4時間かけて移動する神戸ー出雲間が、小型飛行機を使えばわずか1時間弱。時間に追われているビジネスパーソンにとって、無視できない時間差だろう。もうひとつは、空から見る風景。通常の旅客機よりも低空飛行するため、移動中、窓から海に囲まれた日本列島を眺めることができる。もともと「景色に興味がないタイプ」だった永堀氏も、エメラルドグリーンの海に浮かぶ島々を見て、思わず「これはすごい」と感嘆の声を上げたという。


瀬戸内海の美しい景観も楽しめる Photo by Tetsuya Ito / Courtesy of SKY TREK

 どちらも一度体験すれば、その魅力に取りつかれるはず。そう確信した永堀氏は、この手つかずのブルーオーシャンで市場を押さえるために、すべての空港の情報を集めてデータ化し、紐づけてアプリにした。このアプリはいずれ、大手エアラインの運航情報ともリンクさせて、小型機と合わせて最適なルートを提案するようになるという(iPhoneアプリのダウンロードはこちらから https://itunes.apple.com/jp/app/sky-trek/id1181225503?l=jp&mt=8)。

 スカイトレックは昨秋から限定200口の会員募集を始め、今年の8月にサービスがスタートした。会員数は非公表だが、永堀氏は「当初の想定より、いい反応を得ている」と手応えを口にする。同社にとって、この事業は重要なファーストステップであり、試金石だ。


主力機「KODIAK100」の内装は「カジュアル・ラグジュアリー」がコンセプト Photo by Tetsuya Ito / Courtesy of SKY TREK

「いずれは、もう少し価格が低い準会員の募集やインバウンドの取り込みも考えていますが、海外進出も大きな目標です。例えば、東南アジア、中国も日本と同じく参入が難しいがゆえに、小型機での移動という市場が開拓されていません。弊社の日本でのサービスを起点にして、将来的には小型飛行機を使った移動のネットワークを世界に張り巡らせたい。いずれはUber(ウーバー)のような形で新しい空のインフラになることを目指しています」

「瀬戸内海で水上飛行機を飛ばしたら面白い」という思い付きから始まった、この挑戦。未知なる航路のその先に広がるのは、どんな景色だろうか。

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※(株)スカイトレックは旅行会社であり、チャーターサービスの運航は(株)スカイトレックが契約する航空運送事業者が行います。

スカイトレック https://skytrek.co.jp/


ヘリコプターは関東エリア+福島、長野、静岡、山梨の4県の範囲で利用可能 Photo by Tetsuya Ito / Courtesy of SKY TREK

(川内 イオ)