菅田将暉、声優初挑戦で見せた新たな一面 『打ち上げ花火〜』広瀬すずとの対照的な演技を読む

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 オムニバステレビドラマ『if もしも』(フジテレビ系)の一篇から20年以上の時を経て、この度アニメーション映画化された『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』。実写作品のアニメ化、そして名実ともにトップクラスの若手俳優、広瀬すずと菅田将暉の2人が主演するとあって、早くから話題になっていた。『バケモノの子』に続き2度目の声優挑戦の広瀬と、本作が声優初挑戦となる菅田。2人ともそれぞれ違ったアプローチの仕方で、実写とはまた違う、アニメならではの不思議な世界観にリアリティをもたらしている。とりわけ菅田の声の表現は、思春期真っ只中の少年の心の機微を、情感豊かに伝えている。

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 夏休み中の登校日。なずな(広瀬すず)は母親の再婚により転校することが決まった。「打ち上げ花火は横から見たら丸いのか? 平べったいのか?」と盛り上がるクラスメイトたちをよそに、彼女は典道(菅田将暉)を誘い、町から逃げ出そうとするのだ。かつてのオリジナル版では、なずな(奥菜恵)や典道(山崎裕太)をはじめとした少年少女のキャラクターを、年相応の生身の俳優(主に子役)それぞれが、その全身を使って体現していた。演者個人の持つ、顔つき、身体つき、声、醸し出される雰囲気が、実写作品だからこそ上手くキャラクターに反映されていのだ。しかし本作のアニメ版では当然、声だけでしか表現できない。

 中学一年生にしてはやけに大人びた、アニメならではのルックスのなずな。演じる19歳の広瀬の声には、いまだにあどけなさが残る。発するセリフ自体は大胆ながらも、強弱を抑えた控えめな口調が、思春期特有の、真っ直ぐさと危うさを生み出し、絶妙なバランスでハマっている。広瀬自身の声が持つ要素を、最大限に活かした役へのアプローチと言えるだろう。対する菅田はどうか。彼は声だけで演技することに、全力投球しているように思える。

 若手俳優の中で菅田ほど、自身のイメージを次から次へと覆していく俳優もいないのではないだろうか。彼のプライベートを除けば、“菅田将暉”という俳優に対して、固定のイメージというものが上手く浮かばないのだ。普段の映像作品と違って、表情や身振り手振りといった「身体での表現」を封じられた本作。現在24歳の菅田がどのようにして、中学一年生の典道というキャラクターに挑むのか、注目されていた。

 あどけなさや、真っ直ぐさを、声の強弱を巧みに操り表現する菅田。あえて「そのまま」の声を活かす広瀬とは対照的だ。典道の抱える感情は、手に取るようによく分かる。彼の行動や言動、なずなに対する反応にはいちいち頷いてしまうほどだ。それはあからさまに彼が、なずなの前で顔を赤くしたり、一生懸命走ったりするからだけではない。菅田の発する声は、典道の“恋心を知った苦しさ”や“好きな人と一緒にいるドキドキ”まで観客に感じさせていた。“真夏の暑さ”や“夜の海の気持ちよさ”まで体感したのは筆者だけだろうか。目に見える映像の説得力だけでなく、それらに菅田の声が現実味を与えたのは間違いない。

 本作での菅田は声だけの表現で、中学一年生の一生懸命な恋心を演じきった。新たな菅田のイメージを確立したのではないだろうか。しかしまた次の作品で、それはあっさりと覆されていくのだろう。

(折田侑駿)