F-35戦闘機が墜落のないまま10万飛行時間を突破しました。F-15はじめほかの戦闘機と比較すると、これがどれほど驚異的な記録であるのかが見えてきます。

F-35、10万飛行時間達成でいまだ落ちず

 2017年7月28日、ロッキード・マーチンは新鋭ステルス戦闘機F-35「ライトニングII」の総飛行時間が10万飛行時間を突破したことを明らかにしました。


短距離離陸・垂直着陸型のF-35Bと、アメリカ海兵隊の強襲揚陸艦「アメリカ」(画像:ロッキード・マーチン)。

 F-35の総出荷数はすでに200機を超えており、おもにアメリカ海兵隊が運用する短距離離陸・垂直着陸型のF-35Bが2015年に実用化、2016年にはアメリカ空軍または航空自衛隊などが運用する通常離着陸型のF-35Aが実用化を迎えており、残るF-35Cも2018年に実用化を予定しています。

 F-35はその開発こそ手間取ったものの、これまで10万飛行時間にわたり墜落ゼロという実績は、実用化されたばかりの戦闘機としては異例中の異例ともいえる大記録です。また、垂直離着陸機はエンジン停止がそのまま墜落に直結しやすく、これまで実用化されてきたハリアーやYak-38は大量の墜落機を生じていることからも、F-35Bが無事故であることは驚くべき事実であるといえます。

 実際戦闘機はどの程度墜落するものなのでしょうか。以降はアメリカ空軍に限った統計ですが、その実態を見ていきましょう。

開発初期は普通に落ちる? F-15、F-16の場合

 まず航空自衛隊の主力戦闘機でもあるF-15は、1972(昭和47)年の初飛行後しばらく墜落は発生しませんでしたが、1975(昭和50)年に実用化を目前に1機が墜落しており、このときF-15の総飛行時間は7502時間でしかありませんでした。

 その後1977(昭和52)年に初めてパイロットが死亡する事故が発生。翌1978(昭和53)年に10万飛行時間を達成しますが、このときまでに累計10機のF-15が失われました。戦闘機は緊急脱出用の射出座席を持つため墜落が必ずしも死に繋がるとは限りませんが、それでも3名が死亡しています。

 F-15の事故はその後減少し、2016年の時点で10万飛行時間あたりの墜落数は1.93機、過去10年に限れば1.396機へ減少しています。しかしながら総飛行時間は648万5730時間にもおよぶため、125機が失われています。


空中給油を受けるF-15E(画像:アメリカ空軍)。

 F-15が意外に墜落していることに驚く人も少なくないかもしれませんが、さらに恐ろしいのはいまもなお1000機以上がアメリカ空軍に残るF-16であり、数がけた違いに多いだけあって、1988(昭和63)年にはわずか1年で20機が墜落、2016年までに累計1069万9461飛行時間で333機が墜落しています。実用化から年間無事故であった年は2014年の1回しかありませんでした。F-16の10万飛行時間当たりの墜落数は3.11機ですが、過去10年に限ればF-15と比べても遜色ない1.55機へ減少します。

 なお敵対行動によって撃墜されたF-15は3機、F-16は6機のみであり、いずれも空中戦で撃墜されたものはありません。

今後はさらに安全に

 以上、F-15やF-16の例が示しているように、通常、現用戦闘機(ほかの航空機も同様に)の事故は開発中ないし実用化初期において集中的に発生し、事故の原因となった欠陥の改修や運用経験を積み重ねたマニュアルの更新などによって低下していくことが普通です(最後に機体が老朽化してくると少しずつ増加傾向となる)。そして大規模な戦争が発生していない21世紀以降は、戦闘機の撃墜はまれであり、事故のほとんどすべては飛行訓練中に発生しています。


ロッキード・マーチンが開発したステルス戦闘機F-22「ラプター」(画像:アメリカ空軍)。

 これはF-22でも同じで、F-22は最初の約10万時間で3機が墜落。2016年の時点で累計25万5201時間となりますが、墜落数は1機加算し4機となっただけにとどまっています。

 F-35が空を飛んでいる限り、いずれ墜落することは免れないでしょう。しかしながら2017年8月現在、実用化されたばかりにあって「10万飛行時間あたりの墜落数0機」というとびぬけた数値は、F-35の安全性を証明しているといえます。

【写真】短距離離陸、垂直着陸訓練中のF-35B


強襲揚陸艦「アメリカ」にて訓練中のF-35B(画像:アメリカ海兵隊)。