昔は毎年のように順調に上がっていたのに、今ではなかなかアップしなくなってしまった年金受給額。さらに今後、その支給開始年齢も上がる見込みとなっています。世代によっては不公平感ばかりが募りますが…、無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、なぜこのような事態となっているかわかりやすく解説しています。

なぜ年金額はなかなか上がらなくなってしまったのか

なぜ、年金額はなかなか上がらないのか。

結論から言えば、経済が成長しないし少子高齢化が止まらないから。平成3年にバブルが崩壊してからは経済が停滞期に入り、もう20数年間GDP(売上から仕入れ値を引いた付加価値の総額の事)が500兆円前後で留まってる中で、少子高齢化が進むという事は年金受給者が増えて、その年金受給者を支える現役世代は少なくなる。つまり、年金(支出)は増えるけどその給付を支える保険料収入が減っていく。こんな中で年金を引き上げるわけにはいかないから。

まあ、なかなか金額が上がらない年金ですが、経済が成長していた時は年金もどんどん上がっていた時がありました。昭和30年になって高度経済成長期という時代に入り、昭和50年になるまではひたすら現役世代の賃金も物価も上がっていきました。毎年賃金が10%くらい増えていった。昭和30年時点の勤労者のおおよその賃金が月額1万8,000円くらいだったのが、昭和40年には月額3万6,000円くらいに。昭和45年には月額7万円、昭和50年には月額16万円、昭和60年には月額30万程まで上がった。

ちなみに男女では平成に入ってからは、男性は大体月額40万円台で推移して女性は月額20万円台で推移。やはり男女で給与の差は昔から大きいので、遺族年金なんかはやはり女性に有利な制度になっている。ただ、非正規労働者が30年ほど前の3倍(昭和60年には650万人くらいが2,000万人以上になった)になってるから、遺族年金の男女差は解消していく必要はあると思う。

あまり現役の頃と老後の年金額の差を開かせすぎると生活保障にならないから、年金額も大急ぎで引き上げていく必要があった。昭和30年代までは厚生年金も国民年金も月額3,500円くらいでしたが、賃金がひたすら上がっていくから、昭和40年改正で年金月額を10,000円に引き上げた。で、昭和44年には月額2万円、昭和48年には月額5万円に引き上げるとともに夫婦で合わせた年金で、現役の頃の男子の平均給与の60%台は支給する考え方と、インフレに対応するために物価スライドが導入された。つまり物価変動分を年金額に反映する。

ちょうど同じ年にオイルショックが起きたから、昭和48年と昭和49年だけで物価が40%程狂乱的に上がっちゃって、年金もそれだけ上げた。昭和40年代というのは、もうとにかく年金を上げていったんですね。だからこういう賃金がどんどん上がっていってる時期は、年金も上げていけたんです。

ところで、もともと公的年金というのはあらかじめ決まった保険料を積み立てておいて、将来その積み立てたお金と運用収入も受け取るという積立方式から始まったものですが、戦後のハイパーインフレで積立金の価値が急激に減り、また年金給付が急速に上がっていったから積立方式が機能しなくなり、その時の現役世代の保険料をそのままその時の年金受給者に送るという賦課方式に変わっていった。積立方式は公平ではありますが、インフレと、いつまで生きるかわからないという長寿リスクに対応できない。

で、このオイルショックを機に昭和50年に財政赤字(国の税収より支出が上回る)になって、出生率もついに2.0を切った(平成17年の1.26を底に今は1.44)。とはいえ、その後も賃金も物価もとりあえず上がっていった(昭和50年からバブル崩壊までを経済の安定成長期という)から、昭和51年改正で年金を月額9万円に、昭和55年に月額13万円というふうに上げていった。

しかし、昭和45年に高齢化率が7%になって本格的に高齢化が始まり、昭和55年には9%、平成2年には12%、平成12年には17%、平成22年には23%…今は27%ちょい。2060年以降は40%前後で推移していく見通し。よって、高齢化は本格的になってきたし、少子化も進み始めたから、昭和40年代は経済が成長しまくってたからひたすら年金も上げられたけど、経済が停滞し始めたからその上げすぎた年金を今度は抑制する方向に向いたんです。

ちなみに、平均寿命は昭和30年あたりは男63歳で女67歳ほどでしたが、昭和60年で男は74歳で女は80歳を超えた。これは2050年には男は83歳で、女は90歳を超える見通し。

年金支給開始年齢が引き上げられるなんて許せない!! って声は多いですが、そもそも平均寿命が60歳くらいの時に作られた年金を当時のままの年金支給開始年齢という自体が無理です(平成13年から平成42年までに順次60歳から65歳に引き上げてる最中)。

年金支給開始年齢引き上げについては昭和55年から実施しようとしたが、日経連や労働組合から猛烈に反対されて実施できなかった。昭和60年改正や平成元年改正でも年金支給開始年齢引き上げが見送られてしまって、実際に着手された平成13年まで実に20年間棚上げされてしまった。高齢化は進むのに支給開始年齢が引き上がらないというのは、支給は従来通りになるという事だから、その増幅する負担は後世代のツケに回される事になってしまった。

さて、なんで抑制する必要があるかというと、年金受給者の支え手は現役世代ですよね。そのまま年金給付を抑制しない形のまま、年金受給者は増え続け、少子化も止まらないので、現役世代から取る保険料負担があまりに過大なものになっちゃうんですよ。

だから、昭和48年の時に最低でも夫婦で合わせた年金で現役の頃の男子の平均給与の60%台は支給するという考え方で、その上で取る保険料を決めるというやり方から平成16年改正でもう厚生年金保険料は平成29年9月で上限18.3%、国民年金保険料も平成29年度で1万6,900円×保険料改定率(←保険料改定率っていうのは物価や賃金の変動を反映させる)で上限固定して、その財源の中で年金を支給しようって方向に変えたんです。

※参考

平成29年度国民年金保険料は1万6,490円ですが、この額は国民年金保険料上限1万6,900円に前年度(平成28年度)改定率0.976と、前年度(平成28年度)物価変動率1.008と前年度(平成28年度)実質賃金変動率0.992をかけたもの。物価変動率×実質賃金変動率を名目賃金変動率ともいう。保険料改定率=前年度改定率×名目賃金変動率という内訳。

16,900円×(0.976×1.008×0.992→保険料改定率0.976)=16,494円≒16,490円(10円未満四捨五入)

ちなみに、平成29年度発表(毎年1月末に厚生労働省が発表する)の物価変動率は0.999で実質賃金変動率は0.992になったので、平成30年度国民年金保険料は

16,900円×前年度保険料改定率0.976×物価変動率0.999×実質賃金変動率0.992=16,900円×保険料改定率0.967=16,342円≒16,340円

に下がる。

平成31年度からは1万6,900円が、1万7,000円になる(国民年金保険料にも産前産後免除を導入するため)。

上限を設定しなければ、厚生年金保険料はピークの平成37年には34%、国民年金保険料は2万9,500円になる見通しだった。よって、経済が成長しないし、少子高齢化は進むし、仮に年金を上げようとしたら現役世代からたくさん保険料をぶん取らなければならなくなるから、負担可能な上限を決めてその中で年金をやりくりする事になった。

今はまだ、その保険料の中では年金給付が過剰だから、保険料収入と年金負担が均衡するまで毎年自動で年金給付を抑制するマクロ経済スライドが導入されている。年金は基本的には物価や賃金の伸びに合わせて引き上げられますが、同じ率に上げない事により、徐々に保険料と年金給付が均衡する所まで持っていくもの。

ちなみに前年の年金給付は約57兆円でしたが、保険料収入約40兆円、税金(国庫負担)11兆円、今約150兆円ある年金積立金から補助的に5兆円前後で年間の年金給付を賄っている。税金を使っているのは基礎年金の半分を負担する事が決められているから。税金が投入される事により保険料負担が軽減されるため。保険料をそのままその年の年金受給者に送るやり方を賦課方式と言いますが、実際は税金や積立金も給付に充ててるから修正賦課方式という。

平均余命が今後も延びるし、現役世代は減るという年金制度を圧迫させる要因を数値化(マクロ経済スライド)して、物価や賃金の延びからマクロ経済スライド率を引いていく。例えば物価は2%上がって、賃金が3%上がれば、通常は物価上昇分を年金額に反映させるが、仮にマクロ経済スライドが0.7%だったならば、物価2%からマクロ経済スライド0.7%引いて年金額の伸びは1.3%に抑える。これを繰り返しながら、年金給付と保険料収入が均衡して安定する所まで持っていこうとしている。

しかし、平成16年に導入されて、マクロ経済スライドによる抑制は2023年で終了してそこで均衡するはずの予定が、更に10〜15年くらい延びてしまう事になってしまった。なぜかというと、平成27年までに10年間一度もマクロ経済スライドが発動されなかったから。原因として、経済の停滞で物価も賃金も上がるどころかマイナスとかが続いたから発動できなかったというのもありますが、もう一つ問題がありました。

それは、平成11年から平成13年までに物価が1.7%マイナス(→平成11年0.3%、平成12年0.7%、平成13年0.7%)になったにも関わらず、その分翌年度の年金を引き下げなければならなかったのに引き下げずに据え置いた為に平成27年になるまでに年金を本来の水準より高く払い過ぎていたんです。本来は年金は物価に連動するから、物価が上がった時ばかりでなく、下がった時は下げなきゃいけなかったのに下げずに年金額を据え置いたんですね。

この年金の払い過ぎを解消しない限りマクロ経済スライドは発動できない事になっていた。年金の払い過ぎは平成23年までに累計7兆円で、平成24年度までに当時の1.7%から2.5%まで拡大し、毎年1兆円規模で膨れ上がる状態になってしまった。

だから、平成25年10月に1%、平成26年4月に0.7%(1%下げるつもりだったけど0.3%物価が上がったから0.7%下げ)、平成27年4月に0.5%年金の過払い分を引き下げて過払い解消と同時に平成27年度にやっと初めてマクロ経済スライドが発動したんですね^^;。年金受給者の方はこの平成25年からちょっとずつ年金額が下がっていったから記憶に新しいのではないでしょうか。過去の払い過ぎを解消する為だったんです。

マクロ経済スライドで早く、給付(年金)と負担(保険料)を均衡させつつ、年金受給者の支え手である現役世代の賃金の伸びに合わせる事が大切なんですね。平成30年度からは、その年のマクロ経済スライドが発動できなかった分は翌年度以降に繰り越されて強化される。例えば、物価1%上がって、賃金は0.7%上がったら賃金の0.7%を年金額に反映させますが、マクロ経済スライドがこの年に0.9%だったら0.7%-0.9%=マイナス0.2%残りますよね。マクロ経済スライドは年金そのものを下げないから、その余ったマイナス0.2%は翌年度以降に繰り越されるという事。仮に翌年度のマクロ経済スライドが0.6%なら更に0.2%足した0.8%を用いる。また、完全に賃金変動に合わせるのは平成33年4月から。

というわけで経済が成長してる時は年金を上げる攻めの方向で良かったんですが、経済が停滞期に入ってからは給付を抑制して保険料負担が過剰にならないように、保険料収入の中で給付をするという守りに入ってるわけですね〜。だから、一番の要因は時代の変化(経済の停滞と少子高齢化)が年金を上げさせない要因となってるわけです。

● 破綻している年金制度はやめちまえ!で本当に撤廃したらどうなる?(まぐまぐニュース参考記事)

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出典元:まぐまぐニュース!