今冬には『屋根の上のヴァイオリン弾き』日本上演50周年記念公演にも出演するなど、ミュージカル女優としても快進撃中の神田沙也加さん

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20世紀初頭、帝政ロシアの時代に身を寄せ合って生きるテヴィエ一家の絆を描いた、ブロードウェイ・ミュージカルの名作『屋根の上のヴァイオリン弾き』。日本でも1967年に初演以来、不動の人気を誇ってきた本作が、市村正親さん主演で今冬、50周年記念公演を行います。

ユダヤの“しきたり”に従って生きようとする父テヴィエを、それぞれの恋模様で振り回す三人の娘たちのうち、次女ホーデルを演じるのが神田沙也加さん。今春、大当たりをとった『キューティ・ブロンド』のヒロイン役とは全く異なるキャラクターに、どうアプローチしているでしょうか。ミュージカル女優としての“原点”エピソードから、これまで演じた諸役の思い出、今後の夢まで、余すところなく語っていただきました。

――先ほど『屋根の上のヴァイオリン弾き』製作発表でお話されていましたが、今回、出演の決め手の一つとなったのが原作だそうですね。原作のどんな点が魅力だったのでしょうか?


「文体ですね。書き出しから、主人公のテヴィエが神様に向けて語り掛けるような独特な文体で、慣れるまでは時間がかかるかもしれないですよ、と演出家の寺崎(山へんに立の崎)(秀臣)さんに言われていたのですが、私は難しいと思ったりということは全然なかったです。モノローグのように進んでいくことによって、一生懸命だけどどこかうまくいかなかったり、(娘の縁談で困ったことが起きたのを)妻にどう話そうかと頭を抱えていたりというテヴィエの人間的な魅力がいっぱい出ていて、市村(正親)さんにぴったりだなと思いましたし、想像が膨らんで楽しかったです」

――演じるお役・次女ホーデルについては、どんな印象を持たれましたか?

「自分の意見をとてもはっきり主張する子で、自分に知識があったり、考えを主張できることに対する誇りも持っている女の子だと感じました。これまでの上演ではホーデルはかわいらしいイメージが強かったようなのですが、今回は(三女)チャヴァ役の唯月ふうかちゃんがかわいらしい方なので、ホーデルは従来よりも芯の強い感じで行った方がバランスがとれるのかなと思いながら読んでいましたね」

――本作は、アナテフカという寒村で細々と暮らすユダヤ人たちの物語です。彼らは劇中、ロシア人たちから理不尽に迫害されており、社会派のハロルド・プリンスがプロデュースを務めたのが頷ける作品でもありますが、今もなお“差別”が世界で横行するなかで、神田さんはいわゆる“マイノリティ(少数派)”の方々に対して、どんな思いをお持ちですか?

「おっしゃる通り、『屋根の上のヴァイオリン弾き』はとても社会派な作品で、ユダヤ人という背景があるからこそ響いてくる台詞であったり、意味を持ってくる伏線もたくさんあります。私の周りでマイノリティというと、例えばLGBTの方たちは、少数派として傷つくことも少なくない分、いい意味で繊細で、心が優しい方が多いと感じます。友達になりたいとも思うし、否定的な気持ちは全く無いです。人種や文化が異なる人たちに対しても、私は興味を持つタイプです」

――多民族国家ではない日本で生活していると、生まれた時から差別を受けているユダヤ人の感覚というのはなかなか掴みづらいかもしれませんが、彼らを演じる手がかりにされているのは?


「今まで観てきた、『アンネの日記』や『椿姫』を原作とした『マルグリット』といった作品をヒントにしています。昨日までは普通に仲良くできていた相手を、ユダヤ人だとわかった途端、急に迫害し始めるというのはどういうことなのだろう、人間の中にどういうメカニズムで“もう嫌だ、受け付けない”という心理が生まれるのだろう、と考えてしまいますね。過去の紛争であったり、宗教の問題が背景にあるのかもしれないけれど、それよりもその人とそれまで過ごしてきた時間に目を向けることはできないのかな、と思ったりもしています」

――ユダヤ人たちは自分たちの身を守るため厳格な“しきたり”の中で生き、テヴィエも5人の娘たちにその価値観を守って良縁に恵まれることを願いますが、長女ツァイテル(実咲凜音さん)、次女ホーデル、三女チャヴァはことごとく、思いがけない相手を選ぶ。いわば本作は、新旧の価値観が衝突する物語でもありますね。

「おとなしい“本の虫”と思われていたチャヴァが(駆け落ちという)ある意味、一番大胆な行動に出たりもして、親の心子知らずというか、そういう部分は時代に関わりなく、あることなのかもしれないですね。どんなに厳格なしきたりがあっても、最終的に本人が選ぶ生き方というのはその人のものであって、それは力で捻じ曲げられるものではない……というのが、この作品の“裏テーマ”なのかもしれません」

――現時点で、ホーデルをどう演じようと思っていらっしゃいますか?


「私は一人っ子で、テヴィエ一家のような“大家族”の経験は無いのですが、ホーデルは次女ということで、“バランサー”的な存在なのではないかなと思っています。長女がいいことも悪いことも先に経験していてくれるので、その後をゆくホーデルとしては、ある程度処世術を身に着けているし、長女と三女の中間でしっかりと立つ、柱みたいなポジションにいるべきなのかなと思いますね。演技の面でも、ただただ自分を主張するのではなくて、長女役の実咲さん、三女役の唯月さんのお芝居を観ながら組み立てていければと思っています」

――これまでキャリアを積んで来て、ある程度周りを見回せるようになってきたからこその“バランス感覚”が生かされそうですね。

「そうだったらいいなと思います」

――ホーデルは父が娘たちの家庭教師にと連れてきた学生パーチック(広瀬友祐さん)と恋に落ち、彼が革命運動で逮捕されると、彼を追って流刑地のシベリアへと旅立ちます。この強さ、行動力は先進的なパーチックに影響されてのことでしょうか、あるいは彼女本来の性格でしょうか。

「もともと、そういう素質はあったと思います。正しいと思った道に突き進む、頑固な部分はもともとあって、そこに導火線に火をつけた存在がパーチックなのだろうなと。旅立ちのシーンではテヴィエに『愛する我が家をはなれて』というナンバーを歌うのですが、歌声はもちろん、訴えかける目であったり、それまでの居方を通して、彼女がどういう覚悟で決断を下したか、その重みをお伝えしないといけないなと思うので、難しい役かもしれないと思い始めていますね」

――今回、特に楽しみにされていることは?


「市村さん、(母ゴールデ役の)鳳(蘭)さんとご一緒することですね。いつかはご一緒したいなと思っていたお二人と、両親役ということで密接なお芝居ができる役をいただけてすごく嬉しいです。市村さんは私が以前演じた『SHE LOVES ME』の初演で涼風真世さんと共演されていて、すごく参考にさせていただいたのですが、ちょっときまらないヒーロー像が大好きでした。今回もきっとかわいらしさのあるテヴィエを演じられるのではないかな、と楽しみです。鳳さんはお綺麗であるだけでなく、歌ったり踊ったりされる時の豪快さもあって、この二つが両立するって凄いことだと、とても憧れています。お二人との共演ではきっと勉強することばかりだろうと思いますね。(今回の製作発表前に)裏でお二人のフリートークを聴いていても笑いが絶えなくて、あの柔軟さがそのままお芝居にも滲み出て、その時初めて起きたことのようにビビッドに演じられるんだろうなと予感しています。お二人を360度見て勉強しようと思っています」

――ご自身の中でテーマにされていることはありますか?

「自分のナンバーを、責任をもって歌い上げたいです。それは見せつけるというような意味ではなくて、役柄に振り当てられたナンバーの責任をきちんと全うする、という意味です。これまで、主演作でたくさんナンバーがあって、歌いながら次はこの曲、次はこの曲と気持ちが移り変わってゆく経験はあるのですが、“一発入魂”的なことはあまり経験がなかったりするので、今回勉強できるのが楽しみですね」


――ここからは神田さんの“これまで”を伺えればと思います。そもそもミュージカルに関心を抱いたのは?

「10代半ばに、大地真央さんのビジュアルにひとめぼれしたのがきっかけです。実際に演じていらっしゃる姿を観たいなと思って『風と共に去りぬ』を観に行ったのですが、そこで“オーラって目視できるんだ”と驚きました。後光じゃないけど、真央さんの周りを光の環みたいなものが囲んでいるように見えて、こんなふうになれたら……と憧れたけど、そんなことを考えるなんておこがましい、舞台というのは選び抜かれた人しか経てないサンクチュアリ的な場所なんだと思って、舞台への思いは大っぴらにすることがないまま、ずっと真央さんの追っかけをしていました。

17歳の時に宮本亜門さん演出の『Into The Woods』(2004)のオーディションがあって、亜門さんの存在は存じ上げていましたし、真央さんと同じジャンルに行けたらという思いで受けることにしました。当時はまだミュージカルの訓練は声楽も含めて全くしていなくて、とにかく負けん気だけで挑んだのですが、合格。初ミュージカルは楽しくてしょうがなかったですね。ソンドハイムの作品ということで、今だったらすごく難解に感じると思うけれど、当時はそれが普通だと思っていて、無知ならではの怖いもの知らずで体当たりしていました。それまで、歌手として譜面とにらめっこして歌っていると、この音はちょっと苦手だな、この音階は難しいなと思う事もありましたが、この時、亜門さんに演出いただいて、表情筋を動かしながらそのシチュエーションで動いていると、魔法のように声が伸びるということを経験して、それまでは歌は歌、お芝居はお芝居だと別個にとらえていたので、新鮮でした。真央さんってこんなにすごいことをやっていたんだと余計に憧れも強くなったし、難しさも痛感して、それから本格的に声楽のレッスンも始めましたね。

自分で“ミュージカルが自分に合っている”と感じたというより、身近な人たちから“(ミュージカルをやっていると)生き生きしてるね”と言われ、ミュージカルというのは自分らしさが発揮できる場なのかな、と感じるようにもなりました」

――以来、様々な作品に出演して来られました。09年、11年の『レ・ミゼラブル』ではコゼットを演じましたね。


「『レ・ミゼラブル』はファンの多い作品で、舞台に立っていても、客席の思いの強さがひしひしと伝わってきました。皆さんの中に各役に対するこだわりやお好みがあるような感じがして、お客様全員が評論家に見えるほど(笑)、緊張しましたね。私自身、ジョン・ケア―ド版の『レ・ミゼラブル』はとても好きで、コゼットのキャラクターも衣裳も、ファンの方々と同じように思い入れがありました。今もジョン・ケア―ド版をもう一度観てみたいなと思うほどです」

――09年から3年間ウェンディ役で出演し、今年また復帰されたのが『ピーターパン』。ピーターと空を飛ぶことが出来なくなってしまった幕切れのウェンディの立ち姿には“大人になってしまった悲しみ”が溢れていて、何とも印象的でした。

「夏になると必ず遭う相棒みたいな感覚で演じていたお役です。3年間同じ役について考えさせてもらうことはそれまでなかったのですごく贅沢な体験でしたが、まさかその役に6年たってカムバックするとは思いませんでした。自分も本当に大人になってしまったので、大丈夫かなという思いもあったのですが、逆に以前苦戦した、最後の大人になった姿が実年齢に近くなった分、そこが終着点だと思って(少女時代のウェンディは)逆算してやったら楽しいんじゃないかと思って演じてみたら、今回の方が楽に出来ました。少女時代については理想のウェンディ像が私の中にあったので、大人のウェンディとの落差が自分にとっても面白かったですね」

――第二次世界大戦末期沖縄の悲劇を描いた『ひめゆり』にも12年、14年に主演。神田さんの演じる主人公キミは、絶望的な状況の中で生き抜くその強い“生命力”が鮮烈でした。


「初めて単独主演をさせていただいた作品です。実話がベースになっていること自体、非常に重い作品ですよね。お客様も息が詰まってくるような暗いシーンもたくさんありますが、上演し続けていく意義がすごくある作品だと思います。実際の私は、何があっても生き抜いていこうとするようなタイプではないので、そういういい意味での生への執着や、パニックの中での人間の生命力をどう表現できるだろうと思いましたが、いくら頑張っても想像することしかできないので、当時のことを調べたり、沖縄に実際に行ってみたりしながらギリギリまで自分を追い込みました」

――『ひめゆり』を上演するミュージカル座さんは、例えば『レ・ミゼラブル』の東宝さんとは規模の違うカンパニーですが、神田さんは規模の大小ではなく作品そのもので出演を決めていらっしゃるのですね。

「それは20歳のころから、本当にこだわってきたことですね。これは規模が大きくないからとか、前に比べて役が小さくなるからということでは絶対仕事を決めない、というのは、事務所のみんなとも話してきたことです。私はそれより“全部経験してきている”ことが強みだと思うので、(神田さんは)ジャンルが広いねと言われることが誉め言葉だと思っています」

――この春主演した『キューティ・ブロンド』では、ジェットコースター的な展開の中で主人公のエルを溌溂と演じていらっしゃいました。


「本当にエネルギーが必要な役でした。とても展開が早くて、特に冒頭部分は丁寧に、こういうことがあったのでこうなったというのを一つ一つ確実に伝えないと観る側が置いて行かれてしまうくらいのスピードだったので、適宜配分するということが出来ず、毎日100パーセントのエネルギーで取り組んでいましたね。翻訳ものということで、訳詞も情報量が多くて、言葉が一個聞き取れないとどういう状況なのかわからなくなってしまう。日本初演ということもあって、責任も感じましたし、とにかく言葉を大事に演じました」

――ミュージカルではありませんが、神田さんと言えば、一般社会的にはやはりディズニー映画『アナと雪の女王』のアナ役吹き替えのイメージが強いかと思います。我が家の7歳の娘はエルサ派ですが(笑)、私は断然、行動派のアナが大好きでした。共感する部分はありましたか?

「子供はどうしてもエルサが好きですよね(笑)。魔法が使えたりとか、いかにもプリンセス的なドレスが魅力なのでしょうね。アナ役に関しては、思い立ったら行動しないと気が済まないところはすごく自分に似ていたと思いますね。オーディションを受ける際、アナにはこういう声を求めていますという説明の中で、基本的に早口で、興奮して喋るときは声が熱く高くなるという部分があって、まさに私もそう!と感じたので、何も作らずにそのまま演じたほうがいいかなと感じました。ディレクションもすごく勉強になることが多くて楽しかったです。俗にいうアニメーションっぽさはあまり求められなくて、あくまでもナチュラルに喋っていましたね。

一番こだわっていたのは、台詞から歌に行く時に“違う人”にならないようにということ。演出でも言われましたし、自分でも意識して、台詞から流れるように、気が付けば歌になっていたとなるように、歌の第一声を気を付けました。演じながら歌うという点で、それまで出演してきたミュージカルの経験がとても生かされたと思いますが、最初に夢見た職業が声優で、その勉強していたことで環境に慣れるまでのとまどいがスキップできたこともすごく良かったです。これまでの経験のどれが欠けても、アナ役に行きつけなかったかなという気がしますね」

――逆に『アナ雪』で得て、その後、舞台に生かされていると感じる部分は?

「良くも悪くも、期待値が物凄く上がったと感じますね。いつもアナを背負って立ち続けなければならないと思ってます。それは決してマイナスな意味ではなくて、『アナと雪の女王』で知ったけれどもやっぱりこの人は安心して観ていられるねと思っていただきたいですし、やっぱり劇場にチケット代を払ってきていただいている以上、そのお話に集中していただかないといけないわけで、私の技術の足りなさで気がそれるということは避けたいんですよ。あれだけたくさんの人に見ていただいてヒットという形で終わることが出来た『アナと雪の女王』をいい意味で背負って、次にやるものはこれです、最新のものはこれですという気持ちで、一つ一つのお仕事に挑んでいきたいですね」

――神田さんと言えば張りがあり、安定感のある歌声が大きな魅力ですが、今の歌声は徐々に培ってきたものでしょうか?


「もちろんそうだといいなと思いますね。これまで共演してきた方の歌唱や、好きなナンバーを先輩が歌っていらっしゃるのを食い入るように見たりとか、そういう経験一つ一つが今の声だったり、今の役を読み解く感覚に関係してきていると思います。どの作品でも、この音、この歌い方に対して恐怖心がなくなったなというのを必ず一つは作るようにしていて、それは今回の『屋根の上のヴァイオリン弾き』でも設定すると思いますし、この追求は永遠に終わらないと思います。

例えば、ですか? 最近の『キューティ・ブロンド』では、エネルギッシュに始まって尻つぼみになっていかないようにとか、一曲の中でのエネルギーの動き方と自分の体力とお客様に映っている顔がちゃんとリンクするようにということとか、あとは階段を上りながら歌っても(歌声が)揺れないように体幹をしっかり持つというのを意識していましたね」

――その『キューティ・ブロンド』の演出家・上田一豪さんが以前「神田さんほどの努力家を見たことがない」とおっしゃっていましたが、常に舞台に立つうえで大切にしていることはありますか?

「そんなことをおっしゃってくださったんですか、嬉しいです。私は舞台と言うのは選び抜かれた人しかいられない場所であって、そう簡単にミュージカルに出たいとか真央さんと共演したいと言えなかったという背景がずっとあって、その気持ちは今も一切、変わっていません。だからそこに立つ以上、初日に間に合えばいいとか、不完全だけど千秋楽までに完成すればいいという考え方は許せないんですね。ミュージカルではもちろん気持ちで歌うことも大切ですけど、まずは技術だと思っていて、音程を正確に出せてこその表現だと思うし、それによって自分はもちろん、観てもらっている方にも安心感を持っていただきたいです。そういう技術的な信頼関係を演出家の方とも築いたうえで、自由に動かしていただきたいと思うタイプなので、とにかく技術を向上し続けることを一番大切にしていますね」

――ということは、例えば台詞は稽古初日にはすべて(体に)入っている?!

「台本は離せるにようにはしていますね。主人公役の場合は特に、台詞以外に覚えなくてはいけないことが多いので、いちいち台本を見るタイムラグって、本当に無駄でしかないと思うんですよ。稽古が始まる前にできる準備は頑張るようにしています」

――完璧主義者、でしょうか。

「ですね、はい。(にっこり)」

――そういえば神田さんは新婚さんなのですよね。ご結婚がお仕事にいい影響をもたらしているという実感はありますか?


「もともと一緒に住んでいたこともあって、内面的な事だったり暮らしぶりというのはあまり変わっていませんが、“初めまして”とご挨拶した初対面の瞬間まで覚えている人が、契約というか、一つの誓いを経ることでその時から家族に、同じ名字になるということが凄いシステムだなと改めて思いました。(結婚前は)怖くもあったし、ちゃんとマリッジブルーにもなったし、どうしよう、とんでもない変化が人生に起きようとしてる、これからどんな未来が待ってるんだろうというふうに思ったりはしましたけど、実際にはやっぱり何も変わらなくて、優しい彼と2匹のワンちゃんと平和に暮らしている感じで。こういう“ホーム”という場所を自分で少しずつ作っていくのが大人に許されていることなんだなと感じます。帰れる場所が出来るというのは、誰でもきっと心強いことだと思うので、そういう場所を作ってもいいと思ってくれた彼や彼のご家族に感謝しています」

――今後について、どんな表現者を目指していらっしゃいますか?

「舞台の仕事では数年先までスケジュールが入っているので、何年後に自分がどういう仕事をしているかがわかってしまうんですよね。でもそれによって、一つ一つの役に向かって下準備が出来る。常に、いつもちょっと先の目標に向けて、小さな努力、小さなことを積み重ねる毎日を、出来るだけ長く続けていけたらなと思っています。演出家であったりお客様であったり、皆さんからニーズがあることが出発点なので、できるだけそこにいられるように、“いつでも行けます”という状態でいたいなと思いますね。

最終的な到達点というのは、そういう積み重ねが作ると思うんですよ。未来をこういうふうにしていこうというより、流れのままにとか運命に身を任せることも、私は意外に嫌いではないです。もちろんやりたい役とかはありますが、それがかなってきたりもしています。一つ一つの作品に、そのことしか考えられないというほど一直線に取り組んだ結果、すごくいいお芝居になったねということで次につながる、その積み重ねで今までの私は構成されてきていて、そのスタンスは変えなくていいかなと思っています。何歳までやれるかも、人に望まれ次第だし、それでいいと思います」

――どんなタイプのお役をやってみたいですか?

「いろんなタイプのヒロインがミュージカル界にはいますが、これまで私は意外にシリアスな恋愛ものをやっていないんですよね。コゼットもマリウスと結婚してるし、『キューティ・ブロンド』もハッピーエンドで、すごく暗いもの、屈折していたり壮絶なものをやったことがないので、やってみたいですね。今まで観た中では、内野聖陽さん、伊藤歩さんが出ていた『ブラックバード』というストレート・プレイ(2009年)が、すぐには立ち上がれなかったほど衝撃的でした。(新たなジャンルには)怖さもありますが……、でも挑み甲斐があると思います」

――どんどん幅が広がっていきそうですね。

「広がっていけるよう、頑張ります」

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よく“名は体を表す”と言いますが、“声はその人を表す”ということを感じさせてくれるのがこの方、神田さん。真っすぐで凛として、メロディと歌詞を正確に聴き手に届ける歌声はそのまま、天性の素質に甘えず、こつこつと研鑽を積んできた彼女の生き方を物語っているのかもしれません。近年“ひたむきさが可愛いヒロイン”に磨きをかけてきた神田さんですが、市村正親さん、鳳蘭さんという名優たちと共演する『屋根の上のヴァイオリン弾き』は、新たな引き出し作りの絶好の機会となりそう。本作で彼女が何を吸収し、どんな一面を見せてくれるか。真摯に夢を追うその姿が、楽しみでなりません。

●公演情報
『屋根の上のヴァイオリン弾き』12月5〜29日=日生劇場、2018年1月3〜8日=梅田芸術劇場メインホール、1月13〜14日=静岡市清水文化会館、1月19〜21日=愛知県芸術劇場大ホール、1月24〜28日=博多座、2月10〜12日=ウェスタ川越大ホール
(文:松島 まり乃)