日々、さまざまな旅人を受け入れるゲストハウス。宿泊費を安く抑えられるだけでなく、旅先をローカル感覚で遊びたい人にとって人気の宿泊先だ。

そんなゲストハウスのオーナーは、その街がどんなに面白くて魅力的かを一番よく知っているはず。ここでは「街のアニキ分」的存在のゲストハウスオーナーに「大人の遊び」について聞いてみたいと思う。

生ビール おつまみ 二百五十円。

福岡の都心部に存在するオアシス、大濠公園からほど近く。大手門に2017年6月にオープンしたゲストハウス「STAND BY ME」の入り口には、

「生ビール おつまみ 二百五十円」

と書かれた白い暖簾がかかる。1階はオープンキッチンのカウンターとテーブル3台を備える立ち飲みで、2〜3階にドミトリーを有する「泊まれる立ち飲み」として、オープン以来、旅行者のみならずローカルたちからも注目を集めている。

オーナーの貞末真吾さんに会うため、昼過ぎの立ち飲みカウンターを訪れた。

ーー こんにちは。泊まれる立ち飲みっていうコンセプトが新鮮ですよね。

「もともと3年間ほど福岡で民泊をやってきて、外国からの旅行者が増えているなと感じていたんだよね。外国人旅行者にもっと日本の魅力を伝えるためには…って考えて出たアイデア。僕が立ち飲み好きなんで。このアイデアもたしか立ち飲みで飲みながら出てきたんじゃないかな。こば酒店っていう薬院の角打ちでね」

ーー 立ち飲みで生まれたアイデアだったんですね!もともとやっていた民泊は、どんなきっかけで?

「関東で35年間過ごして、福岡に引っ越してきたのね。それで東京の友だちが福岡に遊びに来たいって言ってくれるんだけど、『ホテルが取れなかったら行くのやめたよ』って言われたことが数回あってさ。それじゃあ、いつでも泊まれるようにって、スタッフは2人しかいないのに、仕事用の事務所に4LDKの広いところを借りて。布団とか鍋とか用意して準備万端で待ってたんだけど、誰も来なかった(涙)。

そんなとき空いている部屋をシェアするサービスがあるっていう話をIT関係の友だちが言ってたのを思い出して、民泊を始めてみた。そしたら世界中からお客様が来てくれて。

渡辺通の4階立てエレベーターなしの部屋にだよ(笑)」

「外国人やエッジが立ってる日本人と
話すのが楽しかった」

―― 渡辺通は地元民なら徒歩やチャリ圏内ですけど、旅行者が天神や博多からアクセスすることを考えると、ちょっと遠いですもんね。

「民泊をやっていたのは2012年ごろで、当時まだ民泊のサービスって日本ではあまり知られていなかったから、そんな中で泊まりに来るのは、ほとんど外国人だし、1割来る日本人は超エッジが立ってて、彼らと話しているのが面白かった」

―― その面白さを知って、本格的にゲストハウスを事業にしようと思ったんですね。

「そう。だけど物件探しで1年以上かかったかなぁ。なんで見つからなかったかっていうと、法律と規制の問題。物件が出てきてもここでゲストハウスはできない、とかさ。そんなんで1年以上経っちゃって。じゃあ法律が違うところに行けばいいんだってことで、タイでゲストハウスを始めた」

―― え、タイ!?

「福岡市の薬院にある『海鮮丼 日の出』さんの鶏の唐揚げに魅せられてね。タイのバンコクで、鶏の唐揚げ定食を出す、その名も『トリカ』っていうゲストハウスを2016年4月にオープンしたんだ。1階がカフェ、2〜4階がゲストハウスで、1泊約1,000円〜。西洋人の旅行者がほとんどだよ。そのトリカが、オープンしても次から次に追加工事がかかるわけよ。見積もりから実際かかった費用は約2.5倍!? もうすってんてんだよね(笑)

そのころ、ちょうど福岡で『やっと物件が見つかりました!』って。契約金もろもろで300万かかるって言われたんだけど、そのとき冗談抜きで3万円くらいしか持ってなかった(笑)」

―― 正直どう思われたんですか? いま始めるべきか迷わなかったですか?

「どうしようかなと思ったんだけど、契約金さえ払えれば場所が借りられるし、何とかなると思って。その契約金を集めるために友だちに電話して『1年間無料で飲める券を発行するから10万出してくれ』って頼んだ。東京や福岡の友だちにたくさん電話して、そしたら1日で集まったんだよ、300万円が!」

―― うわ、それはすごいですね。感動的!

「うん。本当にありがたいよね。それを元手に物件を借りたところから、さらなるイバラの道が始まるよね(笑)。バンコクでのオープンから数カ月で福岡の建設に着手するわけで、銀行だってそんなに簡単じゃないからさ。あちこち駆け回ったり、掛け合ったり。その間にも、家賃や人件費っていう経費は毎月出ていくわけで…。

だけど、そんな中でも様々な人と出会って、新たな道も見えてきて。そこからは怒涛。4月に着工して、5月のGWにはスタッフと自分たちで壁を塗ったりして(笑)。建物の完成前の5月の下旬には東京で記者発表もやって。ようやく6月15日にオープンできることに。それにしても、他にも数え上げたらキリがないくらい、いろいろあったな」

「人間として気持ちがいいんだよね、福岡は」

―― もともとは別のビジネスをされていたんですよね?

「出身は鎌倉で、大学卒業後に何社か企業に勤めてから、実家が営む『メーカーズシャツ鎌倉株式会社』で採用担当を経て、出店を担当していたときのこと。博多への出店で、3か月くらい福岡で単身赴任したら大好きになっちゃって」

―― 福岡のどんなところが?

「やっぱり、ごはん美味しい、物価が安い、街がきれい、空港近い、海と山がある、あと空が広いってところもけっこうポイント。空港が近いから高い建物があんまりないでしょ。便利だから住みたいんじゃなくて、人間として気持ちがいいんだよね、福岡は」

―― 街がきれい、っていうのは具体的にどんなところですか?

「道路が広かったり、街の設計がきれいなの。昔の都市計画をしてくれた人たちは本当に偉大だなって思うよ」

―― 完全に移住したのは、どんな理由からですか?

「鎌倉シャツで博多、NYと出店を重ねた少しあとに、方向性や自分のやりたいことを考えて、すべてを手放すことにしたんだ。仕事も家も。それで、嫁さんと『仕事も行くところもなくなったんだし、好きなところに住むか! だったら福岡だね』って。2012年3月に移住を決めた」

―― なるほど。逆に身軽になったことで移住に踏み切れたのかもしれないですね。

「移住後は嫁さんと一緒に子ども向けのフォトスタジオ事業を始めたり、イベントやったり、そのひとつにゲストハウスもある、って感じかな」

―― ゲストハウス以外にもたくさん事業をされているんですね。今はどれに一番手をかけてますか?

「うーん、全部だねえ。会社の屋台骨はフォトスタジオで今4店舗目も出せたけど、他はまだよちよち歩きだから」

「警固界隈が好きでさ…」

―― 毎日お忙しそうですが、普段はどんなところに飲みに?

そうだね、最近はSTAND BY MEで飲んでることが多いけど、よく行くのは『けごむす(警固)』『メグスタ(警固)』で、どっちも立ち飲みさん。警固が好きでさ。

あとは中華料理の『檳榔の夜(警固)』とか、『二O加屋長介(薬院)』とかが多いかなあ。『すいか(大名)』さんとかね。東京の友だちを連れて行くと好評なのが『木島(警固)』っていうお寿司屋さん。こんなに安い値段でこんなに美味しいものが食べられるんだ、って驚いてくれる。

―― お店の開拓はどうやっているんですか?

「自分開拓が多いかな。気になったお店に、ふらっと入ってみる」

―― 初見の印象でお店選びしているんですね! どういうところを見て入るんですか?

「元気なお店かな。港にある『トクトク』とか大好き! 福岡に4店舗くらいあるんだけど、港店が最高にいい。元気だしホスピタリティ溢れてるし、美味しいし。なかなかないよ、あんな店」

―― 本当にごはんや飲み歩きが好きなんですね。いつもどなたと飲みに行かれるんですか?

「基本はひとりだけど、東京からお客さんが来るとそのアテンドだけで月の半分は使ってるかな」

―― 福岡を案内してくれる人として知られてるんですね。

「うーん、どうかな。福岡出身でもっと詳しい人が紹介すればもっとディープに遊べるだろうし。僕の場合はそこまでディープじゃないから。大人が満足できる美味しいごはん屋さんとか、福岡の面白い仲間を紹介して、東京から来た人が新しい出会いと福岡にしかないような空間を巡るスタイルかな」

―― 貞末さんが関東出身だからこそ、福岡にしかないものを的確に紹介できているのかもしれないですね。

「街の見え方って、人によって変わるでしょ。自分が福岡の面白い人を紹介する仕掛けになれたらいいな、と思ってる」

「おもしろいことを考える人がいるな、って」

―― STAND BY MEに来るのはどんな人たちですか?

「飲みに来るのは近隣の人とか、あとはクリエイティブ系が多い。広告系の会社が近くにあるからかな。飲食店や酒屋さんとかもよく来るね。宿泊者は、今は九州エリアの人、男女比でいうと女性が多い。新しいものに敏感なのは女性たちだよね」

―― 宿泊者も立ち飲みを利用したり?

「もちろんもちろん。うちのメニューは地元の飲食店なんかとコラボしているんだけど、お品書き眺めてるだけで情報が入ってくるように意識してる。旅行で来る人は福岡のローカルな情報を知らないわけですよ。だから僕に『福岡に行ったらどこに行けばいい?』って必ず聞く。 せっかく来たんだから地のものを食べてほしいし、地元の頑張ってる奴らも応援したいしね。STAND BY MEに来た人にはここで食べるだけじゃなくて、メニューに書いてる店をめがけて行ってもらいたい。『福岡女子大学』だったり『FABLAB博多』だったり、魅力あることをやっている場所もあるしね」

―― じゃあSTAND BY MEのメニューを見れば、貞末さんのおすすめスポットも知れるわけですね。

「個人的に思い入れのある場所とかもあるよ。この『ネギだく揚げ豆腐』のメニュー名にある、鳥飼八幡宮の神主・山内さんがさんがいなかったら今の僕はなかったから。移住当初の、遊ぶ相手もやることもなかったときに出会った人で。相撲の九州場所の時期は九重部屋の練習場所兼宿舎をやったりしている由緒ある神社なんだけど、お相撲さんが相撲を取る土俵の上で神主さん主催のDJイベントやったりしてて」

―― えぇ! 神社でDJイベントなんてやってるんですか!?

「みんなが土俵の上で踊りまくってるのを見て、『ああ、世の中にはおもしろいことを考える人がいるな』って、一発で神主さんの大ファンになっちゃった。そこからお祭りの企画や運営を手伝ったりして、人脈も広がった」

―― 移住後の大きな起点になった場所なんですね。

「集まれる場所があるって大きいよね。神社ほどじゃないけど、STAND BY MEもそういう場所になって、いろんな人同士がつながってもらえたら嬉しいよね」

―― ゲストハウス以外に、今後やっていきたいことはありますか?

「ありがたいことに、STAND BY MEをオープンしたことで、運営やオープンプロデュースの話が劇的に増えてるんだよね。アイデアの提供や、前職での採用人事で培った “人を集めるノウハウ” を活かせたらいいかな。

どの業界も人材不足。それでも集まるところにはドッと集まるよね。面白い発信をすることで、それに乗っかっていく面白い人や元気な人が集まるのがいいね。あとは、社訓にもなっている『大好きな人と、大好きな場所で、大好きなことをするために』を体現できたら、と思ってるよ」

好きなことを事業にしながらも、訪れた人が自然にローカルに触れられたり、地元や仲間たちに貢献する仕組み作りをつねに考えている貞末さん。ユーモアに富んでいて余裕のある立ち振る舞いはまさに「アニキ!」と呼びたくなる。

取材後、1,000円で木札4枚を購入して、おつまみ3品とビールを注文。話に出てきた鳥飼八幡宮の山内さん考案メニュー「ネギだく揚げ豆腐」は、ザクザクの歯ごたえがビールによく合う味だった。

「STAND BY ME」

住所:福岡県福岡市中央区大手門1-3-22
営業時間:
朝食 7:00〜10:00
ちょい飲み 11:30〜17:00
(ランチタイム 11:30〜15:00)
立ち飲み 17:00〜24:00

Photo by 古川佳祐