古巣の鹿島を相手にクオリティの高さを見せつけた野沢。(C) J.LEAGUE PHOTOS

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[ルヴァン杯準々決勝1stレグ]仙台3-1鹿島/8月30日/ユアスタ
 
 直近のJ1リーグで札幌に0-1で敗れていた仙台は、さらにエースのクリスランが負傷欠場となっていた。明らかに悪い流れのなかで、リーグ首位の鹿島との対戦。この窮地を救ったのは、鹿島を古巣とするベテラン、野沢拓也だった。

 
「札幌から帰る飛行機の中で、アイデアは浮かんでいましたが、先発出場を決断したのは今朝です。本人に伝えたら、相当ビックリしていましたね」と野沢の先発起用を決めたタイミングと、それを伝えた時のことを仙台の渡邉晋監督は振り返った。
 
 野沢がビックリするのも無理はない。今季ここまでリーグ戦出場はわずか1試合。それも6月4日の14節・甲府戦で3-0と大量リードを奪った状況での交代で、出場時間はわずか4分だった。ルヴァンカップは5試合出場したが、目立った活躍はなく、リーグ戦も7月末以降ベンチ外の状況が続いていた。
 
 5月10日のルヴァンカップ・柏戦以来の先発出場となった野沢は、古巣相手に前半から躍動した。「拓さん(野沢)にボールが入ると、僕たちシャドー2枚は動き出せばボールが出てくるので、拓さんがボールを持った時、どう動き出すかを考えました」と奥埜博亮が語った通り、FWとして起用された野沢は、前線でしっかりとボールを収め、芸術的なボールさばきで決定機を作り出していった。
 
 前半の終了間際には右サイドでゴールを背にした難しい体勢から身体をひねって大岩一貴へピンポイントのクロスを上げた。これはゴールにこそならなかったが、野沢の攻撃センス、キック精度の高さは存分に発揮された。
 
 久々にプレースキックを蹴ることになった野沢は、前半から何度も決定機を演出する。一方の鹿島は昌子源、植田直通の両センターバックが日本代表への招集により不在。三竿健斗をセンターバックに下げ、ブエノと組ませたが、高さに乏しい布陣ということもあり、セットプレーで仙台の選手が競り勝つ場面が多かった。
 
 そして60分、野沢のCKが正確にニアの大岩の頭を捉えた。大岩がファーサイド側へすらしたボールを、中野嘉大がヘディングでゴールに押し込み、仙台が先制した。かつて共にプレーした鹿島の大岩剛監督も「精度の良いコーナーキックだった」と、そのクオリティの高さを認めざるを得なかった。
 
 この直後、野沢は石原直樹と交代したが、勢いに乗った仙台は64分、今度は三田のCKからニアで相手GKのクォンスンテの前に入った奥埜がヘディングシュートを決め2点差に。75分に土居聖真のゴールで鹿島が1点差に詰め寄ったが、79分にレアンドロが奥埜へのラフプレーで退場。85分には蜂須賀孝治のカットインから奥埜が左足でゴールを決め、仙台が3-1と勝利。鹿島はレアンドロに加え、終了間際にブエノも退場し、中3日の第2戦を前に大きな痛手を負った。
 
 渡邉監督は野沢の先発起用に関して「クリス(クリスラン)が負傷を抱えていて、梁が代表招集でいない。(野津田)岳人は前所属で出場している関係で出られない。3枚のFWを欠いた状況で、拓也の起用がアイデアとして浮かびました。百戦錬磨の人間ですから1stレグ、2ndレグの戦い方も知っているでしょうし、古巣相手で気持ちも入るでしょうし、大きな期待を寄せて起用を決めました。あのくらいのパフォーマンスを見せてくれたのはさすがです」と期待に応えたベテランに賛辞を惜しまなかった。
 
 野沢自身は「前半から高さのある選手と話し合っていたので、(CKを)修正できたのが得点につながりました」と、DFと試合中にコミュニケーションを取り合い、セットプレーを微修正していったことを明かした。
「この大会は若い人たちの力がありましたし、みんなで積み上げた自信と成果でトーナメントへ進めました。だから慌てませんでした」
 
 西村、佐々木匠、椎橋といった若手の台頭によって4年ぶりに掴み取った準々決勝の舞台。若手の頑張りを何とかタイトルにつなげたいという想いが、野沢を奮起させた。
 
 第2戦がまだ控えていることもあり、野沢はまったく気を緩めない。「鹿島は間違いなく修正してくる」。試合後のロッカールームでも話したというその言葉は、渡邉監督も監督会見で何度も繰り返していた。鹿島を知り尽くした男の言葉はそれだけ重い。手負いの鹿島だが、2年ぶりの優勝へ向けて第2戦はホームで勢いを持って試合に入るのは間違いない。それをよく理解するベテラン野沢が、仙台をクラブ初の準決勝進出へと導けるか。何度も輝きを放ったカシマスタジアムで、再び輝いてみせる時が来た。
 
取材・文:小林健志(フリーライター)