「勤続10年」、今のご時世で10年も同じ会社で働いているのは幸せなことでもある。が、しかし、同時に新しい挑戦や可能性に踏み出せていないケースもある。

就職氷河期と言われ続けている中、今年の春に大学を卒業した女性の就職率は98.4%を記録した。しかし、新卒で就職したものの、3年以内の離職率は30%近いという調査結果もある。

今、アラサーと呼ばれる世代は、大卒で入社した場合、職場ではちょうど10年選手。正規雇用にこだわらず、派遣やパートを選んで働く女性も増えてきた中、同じ職場で10年間働き続けてきた「10年女子」の彼女たちは、いったい何を考えているのだろうか?

「キャリアアップは?」「結婚は?」「貯金は?」そんな「勤続10年女子」たちの本音に迫ってみた。今回、登場するのは、都内で商社の事務職の社員として働いている佐々木久美さん(仮名・31歳)。

久美さんは、ややふくよかな体型を隠すような黒のゆったりとしたワンピースに、ヒールのあるサンダルを合わせ、髪型は緩く巻いてあるロングをアップに上げていた。メイクは薄目なのに、手元には派手なラインストーンがついたネイルが施されていた。メイクは地味だが、ネイルは定額制のサロンに通って定期的に変えている。

手元が綺麗だと、パソコンをしている時に目に入るので、仕事中でもテンションが上がるのだと言う。「10年女子」は、非正規雇用とは違い安定した収入があるため、お稽古ごとに凝ったり、エステやマッサージに通ったりと自分なりのリフレッシュ方法を持っている場合が多い。

久美さんは中高一貫の女子校出身。いわゆる保守的な教育の女子校だったため、在学中は他校生と交流をもったり、彼氏がいるような生徒は数人だけだった。彼女の場合は、外部の生徒たちと付き合わなくても、学内の女友達と過ごすだけで十分だったと言う。6年間同じ学校に通い、同級生の顔触れも変わらない生活を送った経験が、もしかしたら社会人生活の勤続10年に繋がったのかもしれない。

実は彼女、今まで彼氏がいたことがないという。高校時代から応援している男性アイドルグループの応援が忙しいため、実生活は充実している。趣味に没頭していたら、気づいたらアラサーになっていた。仕事はあくまで「アイドル活動を応援するため」の道具だという。

広島県福山市で生まれ育った。父は地元の新聞社に勤務する記者で、母は幼稚園教諭の資格を持っていたが、久美さんが生まれた後は専業主婦として子育てに専念していた。3つ下の弟がいるが、地元に残り自動車販売店に勤務しながら、結婚をした。もしかしたら、孫の顔は見せてあげられないかもしれない……と考えていた彼女にとって、弟が結婚をしたことによって、このまま自分はアイドルを応援し続けられると感じたそう。

いわゆる「ヲタ活」と呼ばれているアイドルの応援活動は、すべてにおいて優先順位がアイドルが上になる。この先、もしも恋人ができたとしても、コンサートやイベントの方を優先したいので、理解のある人じゃないと無理だという。

どんなに辛いことがあっても、コンサートに行けば現実逃避ができる。自分の好きなものを否定するような人とは付き合いたくないため、友人関係も気づけば同じアイドルのファン同士になってきた。

職場結婚を夢見て、商社に就職……

職場には、アイドルファンだということを言っていない。しかし、チケットの倍率が低い平日に行なわれる芝居を観に行ったり、テレビ番組の観覧などのために休みを取ることがあるため、薄々気づかれているのでは……と思っている。

正社員にこだわるのには、ボーナスのためというのも大きい。「10年女子」のなかには、夏のボーナスが出たら辞めようと思いつつ、実際にボーナスを手にしたら、やっぱり次のボーナスまで頑張ろうと、「賞与」が1つのモチベーションになっている人も多い。久美さんの場合も例外ではない。ボーナスは、ヲタ活を支える重要な資金源なのだ。

大学は英文科に進学した。英語が話せるようになるのに興味はあったが、海外へ留学するという勇気が出なかった。しかし、スピーチは苦手でも英語自体は得意だったので、TOEICのスコアを伸ばす勉強をした。英語力を生かせる就職先として商社を選んだのは、給与が高く安定しているイメージがあったから。

TOEIC以外にも、貿易実務検定も取得し、就職活動では独学で勉強をしたのをアピールして、事務職として内定を得た。

思い返せば中学受験の時も、不安で何度も同じ問題集を解きなおしたという。自分の実力に自信が持てず、心配性なのが「10年女子」の特徴ともいえる。久美さんは就職した後も、「リストラにあったらどうしようか」と不安になり、簿記の資格も取得した。勤続10年になるが、退職した社員の代わりに派遣社員がやってくると「ここの会社を辞めることになったら、きっと自分も非正規雇用になる」と危機感を感じている。

商社に入社した時には、職場結婚を夢見ていた。しかし、現実には上手くは行かなかった。男性社員は年配社員も多く、素敵だと思える30代の男性たちはすでに結婚していた。入社したばかりの頃には、同じフロアにいた男性社員で気になる人がいたが、休日に行なわれた有志での花見で私服を見たときに、幻滅してしまった。スーツ姿だと頼れる男性に見えたが、ブランド名の英文字の入ったV開きカットソーに、ダメージジーンズ、そしてビーチサンダルのようなラフな服装でやってきた。こんなチャラい格好の男性と、つきあうというのが想像できなかったという。

好みではない男性と付き合うのなら、自分の理想通りのアイドルとの疑似恋愛の方がときめくこともできるし、仕事も頑張れる。意外と職場に関しては、現状維持だけを望む「割り切り型」で、仕事を続けているケースも10年女子には多いのかもしれない。

ファッションやメイクでは冒険ができないが、ネイルは少し派手目なものを選んでストレスを解消している。

先輩女子社員が育休から時短勤務に!既婚社員のしわ寄せに怒りながらも、仕事は辞められない。〜その2〜に続きます。