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慢性的な人手不足の介護業界。仕事内容は過酷で、報酬はほかの業界より低い。それでも現場で前向きに働くスタッフがいる。彼らは「嫌がる仕事をあえてやっている」のだろうか。3人のケアマネージャーは、共通して「必ずしもそうではない。世間からのイメージが悪すぎる」という。介護職の魅力について、現場の声を聞いた――。

■薄給だけど「介護の仕事は魅力的」と語る理由

介護現場の実情を聞くために、ケアマネージャーをはじめ多くの介護関係の仕事に就く人たちに会ってきました。

彼らが担当する利用者には、さまざまな人がいます。常識的で「いい人」ばかりとは限りません。よって、当欄で触れたように彼らは要介護者と家族とのトラブルに巻き込まれることもある。提供したサービスが不満でクレームが入ることもある。業界用語で「困難事例」(介護する側に物理的な危害を与える場合などを含む)といわれる対応が難しい利用者と遭遇し、大変な思いをすることもあるそうです。

しかし、これまで会った人たちに、今従事している介護の仕事を悪く言うケースはありませんでした。むしろ、その逆です。「やりがいを感じています」「この仕事に就いて良かったと思っています」と語るのです。

読者の中には意外に感じる方もいるでしょう。

介護職の平均月給21万5200円 全産業平均より9万低い

メディアでは介護業界が慢性的な人手不足であることが、よく取り上げられます。その要因としてあげられるのは、まず賃金水準の低さ。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(2016年)」によれば、全産業の平均月給は30万4000円(ボーナスなどを除く)であるのに対し、介護職は施設で働く職員は21万5200円、ホームヘルパーは21万3000円、ケアマネージャーは25万5800円と、いずれも下回っています。

仕事は過酷です。介護職では排泄の介助は避けて通れませんし、身体介助がともなう職種は腰などを痛めがちです。介護職には「3K(きつい、汚い、危険)」のレッテルが張られており、人気職種とはいえません。従って、人手不足もなかなか解消できないというわけです。

そうした報道に接する機会が多いせいか、世間では「介護職従事者は人の嫌がる仕事をあえてやってくれている人たち」というイメージがあるような気がします。

■「前向きに仕事に臨んでいる仲間のほうが多い」

しかし、ケアマネージャーのIさんは言います。

「そんなことはないと思いますよ。私自身、介護は魅力ある仕事だと思っていますし、やりがいを感じて前向きに仕事に臨んでいる仲間のほうが多いのではないでしょうか」

もちろん、介護業界に職を得ても、すぐに音をあげて辞めてしまう人も少なくないそうです。でも、長く続く人は介護の仕事だからこそ味わえる喜びを感じているはずだというのです。

そこで今回は「介護の仕事のどんな部分に魅力を感じるのか」を聞いてみました。ケアマネージャーのYさんは「自分が人のお役に立っているのが実感できることです」と言います。

「担当した利用者さんの状態が目に見えて良くなることがあります。初めてお会いした時はベッドから体を起こすのがやっとだった方が、私が作成したケアプランに沿った介護サービスを受けることによって、1カ月ほどでベッドから立ち上がり、ゆっくりですが歩けるまでになったことがあるんです。また、当初は要介護になったことを悲観してうつ状態だった方が、状態が好転するにつれて生きる意欲を取り戻すこともあります。その変化を生んだのはサービスを提供した人たち、ホームヘルパーさんや、デイサービスのスタッフ、リハビリを行う療法士さんの力が大きいわけですが、ケアプランを作った私も確実に関与している。それがうれしいんです」(Yさん)

利用者側にとって老親など家族が快方に向かうことほど、うれしいことはありません。だから当然、担当してくれる介護職のスタッフには感謝の言葉を述べます。Yさんは、その意が伝わってきた時、大きな喜びを感じ、仕事への意欲につながると言います。

介護職は「すごい感動を味わえる仕事」

一方、Iさんは「すごい感動を味わえることがあるんです」と言って、ひとつのエピソードを語ってくれました。それは、特別養護老人ホームに勤めていた時のこと。当時85歳だった女性の入所者から次のような願い事を打ち明けられたそうです。

「私の幼い頃からの夢はピアノを弾くことなの。でも、かなえることができずに今日まできてしまった。よかったら教えてもらえないかしら」

聞けば、実家は貧乏でピアノを習うことは困難だったそうです。結婚して2人のお子さんができたのですが、夫が若くして大病を患い、女手ひとりで家計を支えることになったそうです。仕事と夫の看病、そして子育て。自分の夢など考える余裕などない日々を送ってこられたそうです。

「そうして月日がたち、子どもさんは独立し、ご主人を看取り、いま、自分は特養にいる。ここで自分の“夢”を思い出した。その施設でピアノを弾けるのは私だけだったので、教えてくださいと依頼されたわけです」(Iさん)

■「経験したことのない感動と達成感を覚えた」

Iさんはその願いを受け止めました。自宅にあった電子ピアノを運び込み、毎日仕事が終わった後、練習につきあったそうです。

「練習を始めたのは6月頃。暮れに行われる施設のクリスマス会で演奏を披露することを目標にしました。基礎から学ぶ状況ではないので、演奏する2曲を決め、反復練習をして体で覚えることにしました。『エリーゼのために』と『きよしこの夜』
です」(Iさん)

そのクリスマス会。Iさんの演奏を聴きになんと100人以上が集まりました。本人は緊張したそうですが体で覚え込んだせいか、ほとんどミスのない見事な演奏だったそうです。

「聴く側も同じ施設にいる入所者の皆さんで、練習を始めたいきさつも知っています。だから演奏が終わるや、拍手拍手で……。その女性は、『人生の最後でやっと夢がかなった』と感激し、涙を流していました。そんな言葉に触れこともあり、私も経験したことのない感動と達成感を覚えました。生涯の夢のお手伝いができたのですから」(Iさん)

パーキンソン病でもゴルフの打ちっぱなしに行く

もうひとり、老人保健施設に勤務するMさんも同様の感動をしたことがあるそうです。

「ウチの施設では、“個別リハビリ外出”というのがあるんです。施設の生活は単調ですから目標を失いがちです。目標がなければしんどいリハビリもやる気にならなくなってしまう。この問題を解消するために考えられたのが個別リハビリ外出。入所者のみなさんにそれぞれ外出してやりたいことを挙げてもらうんです。そしてその実現に向けてリハビリに励んでもらう。これなら目標が生まれるし、リハビリを頑張る気になるでしょ? 美術館に行く、スーパーで買い物をする、自宅の自室でくつろぐ……。どれも実現されましたが、同行してもっとも感動したのは、パーキンソン病の方がゴルフの打ちっぱなしに行くという目標を立て、見事なショットを打たれた時です。その方はシングルプレーヤーだったこともある大のゴルフ好きなんですが、パーキンソン病には手足が震える、筋肉がこわばるという症状がありますから、断念せざるを得なかったんです。でも、ボールをクラブで正確にとらえて飛ばす快感をもう一度味わいたくて、病気を克服してやろうとファイトを燃やしたそうです。この目標を立ててからゴルフ練習場へ行くまで約半年かかりましたが、その間は本当に苦しいリハビリを頑張っておられましたし、生き生きとしていました。そして打ちっぱなしで念願のショットを打たれた後の笑顔は輝くようでした。同行したわれわれも、その表情を見た時は幸せな気分になりました」

■“介護職は割に合わない”イメージが放置されている

3人が語る仕事の喜びに共通するのは、担当する人の人生に一歩踏み込んで関わり、喜怒哀楽を共有することでしょう。衰え弱った体や心の回復に力を注ぐ、夢の実現の手助けをする、意欲を持ち続けてもらうために知恵を絞り、目標達成に協力する、そして本人の喜びをわがことのように感じることができる。介護職は、そのような感動を実感できる魅力ある仕事と言えます。

最後にIさんは、こう締めくくりました。

「残念なのは、世間の“介護職は割に合わない仕事”というイメージが放置されていることです。人手不足解消には賃金などの待遇を上げることは不可欠ですが、仕事としてのイメージアップも必要ではないでしょうか。国が“やりがいのある仕事です”とPRするだけでは、真に受けてもらえないでしょう。でも、私たちが話したように、介護職ひとりひとりには、仕事をして感動した瞬間、モチベーションが高まる出来事があるはずです。そういう事例を声として集めて提示するのもひとつの方法だと思うんです」

そう熱く語るIさんは、介護業界で働くようになった時に先輩から「介護は、仕事をしながら感謝される。すばらしい仕事だ」と言われました。当時はあまりピンとこなかったようですが、今はそのことを心から実感しているそうです。

(ライター 相沢 光一)