イラスト/藤井昌子

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ニュースで見聞きはするものの、まさか自分は遭遇しないだろうと思ってしまいがちな、火災や地震などの災害。一生無縁でいられればそれに越したことはないですが、一度遭遇してしまうと被害は甚大、自分や家族の人生に大きく影響したり、最悪の場合は命にかかわるような事態になったりすることも考えられます。備えあれば憂いなし。賃貸住宅に住んでいるみなさんに知っておいてほしい防災の知識について、今回はテーマを「火災」に絞って考えてみます。【連載】賃貸管理のプロが賃貸住宅の困りごとを解決
賃貸仲介・管理の現場に20年以上携わっているプロが、賃貸物件に住む人から相談の多い事例と解決方法をご紹介する連載です

「消防用設備等点検」っていったい何をするの?

集合住宅にお住まいの方は、「消防用設備等点検」の実施のお知らせチラシがポストに入っていたことはありませんか? 消防用設備等点検とは、消防法で火災予防の対象となる「防火対象物」に規定されているアパートやマンションなどの共同住宅に設置されている消防用設備が、いざというときにきちんと機能するかどうかをチェックするための点検です。消防用設備には、消火器や屋内消火栓などの「火を消すための設備」、火災報知器などの「火災の発生を知らせる設備」、避難はしごや避難ロープなどの「逃げるための設備」があります。これらの設備等点検を1年に2回実施し、3年ごとにその結果を消防署に報告する決まりになっています。

なぜ点検を受けなくてはいけないの?

では、なぜ賃貸住宅にお住まいの方に協力していただかないとならないかというと、室内やバルコニーにも消防用設備があるからです。各住戸内では、自動火災報知設備がきちんと火災に反応するか、避難ロープが劣化していないか、避難はしごがきちんと降りるかなどを点検しています。

さっそく、いざというときにどう避難するのかを想像してみましょう。

まず、バルコニーにある避難ハッチを開けて避難はしごで下の階に下ります。火が燃え広がっていて共用廊下を通って避難するのが困難な場合には、さらに下の階に下りていかなければなりません。各階ごとのバルコニーに避難ハッチが設けられますが、避難をスムーズにするために、一般的には各階で互い違いの位置になるように配置されています。そのため下りたバルコニーに避難ハッチがない場合は、その階の別の部屋にある避難ハッチまでたどり着くために、隣の部屋のバルコニーを隔てる壁(隔壁板と言います)を破って突破し、次々と横の部屋に移動しないといけないわけです。

こう考えると、避難通路となるバルコニーに簡単に動かせないベンチやテーブル、植物のプランターなどが置いてあったら避難の邪魔になってしまうのが分かりますね。そして、避難ハッチがもし壊れていて開かなかったり、はしごが降りなかったりしたら、大変な事態になるのも想像できます。バルコニーが専有部分ではなく共用部分という扱いなのには、実はこういう理由があるのです。

ちなみに、長屋住宅やメゾネットタイプのアパートや一戸建て賃貸などは、避難経路となる共用廊下や階段がないので消防用設備等の点検の義務はありません。しかし共同住宅では、避難経路となる場所に普段立ち入ることができないため、いざというときのための点検が必要なのです。命の問題も考えなければならないのが共同住宅なので、管理会社はみなさんに点検を受けていただきたいと思っています。

自分で点検が必要な場合も……。住宅用火災警報器とは?

住宅火災で亡くなる原因の多くが、就寝時間帯に発生した火災に気がつかず逃げ遅れてしまったことだといわれています。火災で恐ろしいのは実は「煙」です。火災で室内に煙が充満してしまっていると、煙に巻かれて呼吸ができず一酸化炭素中毒になったり、視界を奪われ避難経路が分からなくなったりしてしまうのです。とにかく一刻も早く火災に気づいて避難するということが重要になります。

そこで活躍するのが、自動火災報知設備なのですが、消防法上で規定されている共同住宅にしか設置されていません。そのため、現在ではすべての住宅に「住宅用火災警報器」の設置が義務化されました。

ただ、知っておいていただきたいのは、住宅用火災警報器は消防法上の消防用設備でもなく、大家さんにも管理会社にも点検義務がないということ。まずは、自分の部屋がどちらなのかを確認しましょう。

住宅用火災警報器は単体で機能し、感知器そのものから直接音が出るのが特徴です。見分け方としては、「配線などで共用部分にある受信機や発信機とつながっておらず、それ単体で独立して機能している感じ」がするかどうか。

賃貸住宅に設置されているのはほとんどが、建物完成後に取り付けるタイプで、天井に設置するものと壁に掛けるものがあります。天井に設置するものは天井にネジ止めされた台座に本体がはめ込んであり、テスト用のひもが下がっているものが大半です。壁に掛けるものはフックやネジなどで壁にぶら下げてあるだけです。

もし、自分の部屋についているものが住宅用火災警報器だった場合は、定期的に点検をするようにしましょう。埃がつくと動作しにくくなっていたり、物によっては早く電池の寿命が来たりする場合もあります。本体についているテスト用のひもやボタンが正常に機能するか確認しましょう。やり方が分からない方は、メーカーのホームページなどにも説明がありますので参考にしてみてください。

実際に起こった火災の実例、ボヤから一部屋丸焼けまで

たくさんの賃貸住宅を管理しているので、私たちは時々火災に遭遇しています。ボヤや火災の原因で多いのはたばこですが、実際に寝たばこがカーテンに燃え広がり天井が焦げてしまった部屋に遭遇したことがあります。

また、調理中の火災も多いです。油を火にかけたまま放置して引火してしまうのはよくあるケースですが、オーブントースターでタコスを焼きすぎて出火し、キッチンが焦げてしまった人がいらっしゃいました。箱に注意書きがある商品もあるそうなので、タコスが燃えやすいのは知る人ぞ知る事実なのでしょうね。

私が遭遇したなかで一番ひどい火災は、電気のコンセントに溜まった埃が原因で出火して一部屋全焼してしまったケース。焦げ臭いにおいが充満し、床には天井のボードが焼け落ちて散らばり、エアコンが飴細工のように溶けてひも状に垂れていた光景は一生忘れないと思います。入居者さんはすぐ避難されたのでご無事でしたが、煙を吸い込んでしまったためしばらく入院となってしまいました。

これはトラッキング火災と呼ばれ、コンセント周辺に溜まった埃が湿気を含み微弱な電流が流れることで出火する火災です。コンセントがタコ足になっている方や、しばらくお掃除していないという方は、コンセントまわりにも気を配ってくださいね。

【画像1】トラッキング火災(イラスト/藤井昌子)

火を出してしまったらどんな責任が生じる?

自分が原因で出火してしまい、建物やほかの入居者さんに被害を及ぼしてしまったらどうなるのでしょう。損害賠償も莫大な金額になってしまいそうで、想像するのも恐ろしいですね。

火災による損害の拡大は計り知れず、個人の賠償能力をはるかに超えてしまうという考え方から、失火責任法という法律により、火災の発生に重大な過失がなければ出火元になってしまった場合でも損害賠償責任はないということになっています。いわゆる「もらい火」による被害から自分の財産を守るために、個人個人が火災保険をかける必要があるのはこの法律があるからです。

賃貸借契約時に保険加入をすすめられたと思いますが、時々「高価な家財も財産もないので保険に入りたくない」とおっしゃる方がいます。しかし、賃貸住宅にお住まいの方には、大家さんから借りている住宅を元の状態にして返す義務がありますので、燃えっぱなしで退去というわけにはいきません。こういうときの損害賠償のために、借家人賠償責任保険があります。

また、出火原因に重大な過失がある(簡単に言うと、不注意にも程があるという状態)と認められれば、ほかの入居者さんへの被害に対しても損害賠償責任が生じてしまいます。そのリスクに対応するために、個人賠償責任保険があります。

このようなトラブルから自分の身を守るためにも、賃貸住宅に住む人には、この2つの保険(借家人賠償責任保険・個人賠償責任保険)が特約でついている保険をオススメしています。

最近は自然災害のニュースも多いですが、同じ災害でも自分が火元となる火災は注意すれば防げるもの。また、自分が火元でない場合に、火災の被害から自分や家族の命を守るのは自分自身です。悲しい事態に遭遇しないためにも、日ごろからいざというときをイメージして備えをしておきましょう。

谷 尚子 賃貸住宅での暮らし応援団
独立系の賃貸管理会社ハウスメイトパートナーズに勤務。仲介・管理の現場で働くこと20年超のキャリアで、賃貸住宅に住まう皆さんのお悩みを解決し、快適な暮らしをお手伝い。金融機関・業界団体・大家さんの会等での講演多数。大家さん・入居者さん・不動産会社の3方良しを目指して今日も現場で働いています。
(谷 尚子(ハウスメイトパートナーズ))