8月20日放送の「ワイドナショー」(フジテレビ系)で、松本人志さんがフジテレビを批判したことが今なお波紋を広げています。事の発端は、15日に松本さんがツイッターに「しゃべっても。謎の事情でカットされ。。。」と意味深につぶやいたこと。同番組で真意を語ったのですが、その内容は上原多香子さんの不倫騒動に関するコメントをカットされたことへの苦言でした。

 番組サイドがコメントをカットしたのは「上原さんの件はフジテレビでは扱わないことになりました」という理由でしたが、数日後に「とくダネ!」(フジテレビ系)で同騒動が取り上げられたため、松本さんは「何じゃそら!ですよ。そういうことから逃げない『ワイドナショー』やと思ってほしいし、そうして来たと思うんですよ」と猛反論。さらに、ここから異例のフジテレビ批判が始まります。

「そこは貫かないと絶対損だし、この番組にとっても、フジテレビにとっても良くないと思う」「僕はフジテレビを愛すがゆえに言ってるのに、なぜかフジテレビ側から若干足を引っ張られるという……こういうのは本当にやめてもらいたい」と、まくしたてたのです。

 まさに正論であり、フジテレビとしては「痛いところを突かれた」わけですが、これまでならこのコメントもカットされていました。しかし、今回はすべてのコメントを放送したことで、「その通りだ」という声だけでなく、「あれ、何でこれはカットされなかったの」「両者の関係はどうなっているんだろう」という疑問や憶測を呼んでいるのです。

しかられることを承知で腹をくくった

 まず、松本さんのコメントは「フジテレビを愛しているからこそ」という点を含め、裏やうそはないでしょう。ただ、思っている以上に松本さん自身が正義の味方として扱われてしまったのは、誤算だったように見受けられます。

 最初から批判するのではなく、意味深なツイートで世間が批判に向かうムードを作ってから、公開裁判のように世間へ問いかける形は、クレバーな松本さんらしい方法でした。松本さんにしてみれば、「僕は番組降板というリスクを背負って批判している」という言い分がありますが、結果として番組スタッフを追い込んでいたのです。

「ワイドナショー」における松本さんの批判は今回だけでなく、過去に2度の伏線がありました。まず今年1月に「事務所の力関係があるとか、大きい事務所のスキャンダルは扱えないとか、ネットでさんざん挙がっているのにワイドショーでは一切扱わない。(視聴者の)違和感にテレビ業界の人たちもそろそろ気づいてほしい。じゃないとテレビはどんどん時代遅れになっていく」とコメント。続いて6月にも「(放送内容のミスを)スタッフの責任に丸投げするのは嫌だから、今度こういうことがあったら(番組を)降りようと思っている」と、ギリギリのコメントをしていたのです。

 今回の批判は、どちらかと言えばテレビ局の上層部に訴えかけるものでしたが、実際はスタッフが「これを放送しなければ、松本さんに降板されてしまう……」と追い込まれたのは明白。組織の一員という立場上の苦しさやテレビマンとしての葛藤があったことは想像に難くなく、勇気のいる決断だったのです。「他局の番組が避けているコメントに踏み切った」「スタッフは多くの上司を持つ会社員の一人であり、しかられることを承知で腹をくくった」という点を踏まえると、松本さん以上にスタッフの決断に拍手を送るべきではないでしょうか。

フジテレビに批評精神は根づくのか

 フジテレビの社員たちは、松本さんの批判と、それを放送したスタッフの勇気に、拍手を送っていると聞きました。テレビマンには優秀な人材が多いだけに、フジテレビやテレビ業界の置かれた厳しい状況を理解していて、「何とかしたい」と思っているのです。

 しかし、長年メディアの頂点として実績を挙げてきた歴史や、多くの企業との連携で成立する事業形態上、「一社員の力では何も変えられない」のが現実。だから現場のスタッフたちは「大物の松本さんに代弁してもらったほうがよい」「それがきっかけで世間の声が大きくなって変われたら」という希望を抱いているのです。事実、私のような外部の人間がフジテレビの社員と話していると、「会社を何とかしたい」という熱意をぶつけられ、「悪いところはどんどん批判してください」と求められる機会がよくあります。

 民放各局の中でフジテレビが最も番組批評に熱心なことはあまり知られていません。それぞれ自己批評番組を放送していますが、フジテレビは質量ともに他局を圧倒。自局番組への視聴者や識者の批判を紹介するほか、他局の番組を褒め、テレビ局全体のことを考えた提言をするなどの真摯なスタンスで番組向上に努めています。もしかしたら「ワイドナショー」の自己批判も、そのスタンスが社内に浸透しつつあることの兆しなのかもしれません。

悲しい過去と、配信番組への手応え

「ワイドナショー」は今後も落ち着くことなく、波乱含みであることは間違いありません。松本さんが降板覚悟のコメントを繰り返し、スタッフと、その後ろにいる上層部にプレッシャーをかけて緊張感が生まれているだけに、どちらかが激怒して「いきなり放送終了」があっても驚かないのです。

 過去を振り返ると、松本さんとフジテレビの間には、コミュニケーション不足がきっかけで「ごっつええ感じ」が放送終了になるという悲しい歴史がありました。さらに、松本さんはAmazonプライムビデオのオリジナル番組「ドキュメンタル」に手応えを感じているという側面もあり、テレビ番組やテレビ局に対する危機感が高まっています。

 そんな気持ちがあるからこそ「愛情ある批判」をしているのですが、フジテレビに限らず各局はそんな出演者たちの声にどう応えていくのでしょうか。その姿勢は番組の視聴者だけでなく、ネット上で多くの人々に広がっていくだけに、対応を間違えると「テレビ離れ」につながりかねません。両者の緊張感あるやり取りが番組の質を高め、多くの視聴者を楽しませることを心から願っています。

(コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志)