米国がアフガニスタンに駐留を続けることにしたのは、テロとの戦いが理由ではない。

 正確に記すと「テロとの戦いだけではない」になるだろうか。偏った報道であれば、「テロとの戦いは名目。本当の狙いはアフガニスタンの天然資源」と断言してしまうかもしれない。

 だが筆者は両面の理由があると考えている。主要メディアはもちろん、ドナルド・トランプ政権が発表した表向きの内容に主軸を置く。

 トランプ大統領が21日に発表した内容を見てみたい。「米国民の脅威であるテロリストの安全な隠れ場所(アフガニスタン)を復活させてはいけない」が駐留継続の理由であり、米兵3900人の追加派遣も決めた。

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再び勢い増すタリバン

 アフガニスタンでは2005年頃から、反政府武装勢力タリバンが勢いを増していた。政府軍が支配する地域も減少しており、米軍が手を貸さないかぎり、同国は再びタリバンの手に落ちる危険性さえある。

 それを危惧したトランプ大統領の増派決定は、内外から納得の声が聞かれた。これまで米国が同国に関与してきた深度を考えれば、支援し続けない限り、これまでの努力が無駄になってしまうからだ。

 なにしろ2001年のアフガン戦争からすでに16年である。約2400人の米兵が命を落とした。さらに米国側の出費は、首都ワシントンのシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)の試算によると、今夏までに8410億ドル(約92兆円)という途方もない額である。

 おいそれと退散しますと言えない状況がある。アフガニスタンでのテロ対策と国家再建に関与しつづけてきた以上、タリバンに再び同国を支配されてはいけないというのが名目上の理由である。

 次に天然資源への野望という理由に移りたい。

 中東諸国、特に原油やその他の天然資源に恵まれた国に米国が関与する場合、すぐに経済的理由が浮上する。2003年のイラク戦争の前、原油の利権獲得という戦争開始の理由がメディアを騒がせたことが好例だ。

 そのため、今回のアフガン支援の継続というニュースでも、当然のように同国の天然資源の利権争いという側面が浮かび上がっている。

 トランプ大統領がアフガンへの増派発表をするほぼ1か月前、同大統領は1人の財界人と会合を持っていた。金属・化学製品を扱う米大手アメリカン・エレメンツ社のマイケル・シルバーCEO(最高経営責任者)だ。

 シルバー氏はトランプ氏に、アフガニスタンがいかに天然資源に恵まれた国であるかを説いた。埋蔵量は1兆ドル(約110兆円)超。

「リチウムのサウジアラビア」

 金、銀、プラチナ、ウラン、鉄鉱石、石炭、天然ガス、ボーキサイト、亜鉛など、天然資源の宝庫という話に、トランプ大統領はすでに熟知しているという表情だったという。

 特にスマートフォンや電気自動車に必要なリチウムの埋蔵量が多い。サウジの原油になぞらえて「リチウムのサウジアラビア」と言われるほどだ。

 その時すでにトランプ氏が、米国の費やした92兆円を天然資源によって埋め合わせたいと思ったかどうかは分からない。ただ「ビジネスマン大統領」として天然資源の有用を考えたことは自然の成り行きに思われる。

 実は同大統領がシルバー氏との会合を持ったさらに2か月前の5月、初めての外遊でサウジアラビアのリヤドに立ち寄る。その時、アフガニスタンのアシュラフ・ガニー大統領と会っている。

 米政府高官によると、ガニー氏はトランプ大統領に「アフガニスタンは莫大な量の天然資源の上に乗っている」との話をした。しかも「なぜ米企業ではなく、中国企業が資源開発をしているのか」と疑問を発したとも言われている。

 トランプ大統領が5月頃からアフガニスタンに多大なる関心を抱き始めた理由が、ここで辿れた。

 実はトランプ氏は大統領選中から、米軍はアフガニスタンから撤退すべきとの考えを繰り返し述べていた。「アフガン撤退は私の直感だった」とも言っている。解任されたスティーブ・バノン主席戦略官も撤退を支持していた。

 だがジェームズ・マティス国防長官とハーバート・マクマスター大統領補佐官は撤退ではなく増派を推していた。トランプ氏が8月21日にアフガン増派を発表したのは、奇しくもバノン解任から3日後のことである。

アフガン政策ではバノン氏と相違

 アフガニスタンのテロ対策という表向きの理由と、天然資源の開発という別の理由があったことは容易に想像がつく。バノン氏とトランプ大統領は思想面で共有していたことが多かったが、アフガン政策では意見が違ったのだ。

 ここでガニー大統領の「なぜ中国企業が資源開発をしているのか」という言葉に戻りたい。

 中国が世界中と言っても過言でないほど多くの国で、資源開発や投資をしていることはよく知られている。さすがの米国も後手に回るほどだ。典型的な例がアフリカである。

 2000年前後から、中国はアフリカ諸国に「資源侵略」と呼べるほど、過激に手を伸ばしている。2000年、中国に輸入されたアフリカ産の原油量は前年比で174%も伸びている。

 国有企業である中国石油天然気集団公司(CNPC)は関連会社とともに、アンゴラやナイジェリア、チャド、スーダン、ニジェール、アルジェリア、リビアなど、ほとんど見境なくアフリカの原油市場に参入していく。

 天然資源獲得の一環として、中国はアフガニスタンにも早くから興味を示していた。2007年に行われた同国の銅山開発の入札で、中国冶金科工集団公司(MCC)が30億ドル(約3300億円)で30年間の契約を獲得している。

 トランプ大統領はこうした事実に、すでに焦りを感じていたようだ。

 アフガニスタンの駐米大使であるハムドゥラ・モヒブ氏はロイター通信に、「トランプ大統領に面会した時、大統領はアフガニスタンの経済的可能性に大変強い興味を示していました」と語り、中国を牽制しながら前向きにアフガン投資をする姿勢を指摘した。

 さらにアフガンへの軍事支援と引き換えに、天然資源を入手できないかとの議論が7月、ホワイトハウスで行われたこともロイター通信は伝えている。

中国との経済戦争の候補地に

 しかし天然資源の開発をするにしても、アフガニスタンではまだインフラ整備が行き届いていないばかりか、テロ対策を同時に行わなくてはいけない国情がある。

 そのため、スムーズに物事が運ぶとは思えない。資源が豊かな地域をタリバンが支配してもいる。

 しかも解任されたバノン氏が米雑誌に述べたように、「中国との経済戦争」が今後20年でより明確化してくると、アフガニスタンが政治・経済の紛争地としてさらに注目を集めてくる。

 トランプ大統領の「アフガンへの野望」は、単にテロ対策だけではなく、資源開発が表裏一体となって動いていることを十分に理解しなくてはいけない。

筆者:堀田 佳男