なぜハイテク日本でモバイル決済が普及していないの? 海外紙が「先進国」中国と比較

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 中国では、ここ数年で急激にスマートフォンによるモバイル決済が普及している。対して日本では、クレジットカードや交通系ICカードの利用などを含む従来型の電子決済自体の普及が遅れていると指摘されている。中国のモバイル決済最大手の「Alipay(アリペイ)」が来春までに日本上陸するという報道もあるが、果たして日本に広く受け入れられるかは未知数だ。シンガポール紙、香港紙など複数のアジアのメディアが、中国を中心に急速に普及する電子決済の現状とともに、「技術大国日本の古風な現金主義」を報じている。

◆中国では物乞いもモバイル決済?
 日銀が昨年6月に発表したレポートよれば、モバイル決済を「利用している」と答えた日本人はたった6%。また、42%が自身のスマートフォンにモバイル決済機能があると知っていながら使ったことがないと答えたという。これに対し、中国のモバイル決済の利用率は、都市部での調査結果だとはいえ実に98.3%にのぼるという。日銀は、モバイル決済の利用率が世界で最も高いのは、中国とケニアだとしている。アメリカは5.3%と日本同様に低い。

 日本やアメリカで導入されている「ApplePay(アップルペイ)」などのモバイル決済の場合、ユーザー側はアプリのインストールやクレジットカード情報の登録などの比較的煩雑な初期設定が必要だ。対して中国で主流の「Alipay」と「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」のアプリのインストールは、一般的なスマートフォンアプリと変わらない簡便さだという。店舗側も端末不要でQRコードをプリントアウトして置いておけばいい。支払いの際はこれにスマートフォンをかざすだけだ。一方、日本で導入されているモバイル決済を導入するには、店舗側は10万円の端末代に加え月額利用料が必要。これが特に個人商店での普及を阻害していると見られている(シンガポール紙「ストレイツ・タイムズ」)。

 香港英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は、本土でのモバイル決済の普及ぶりを「北京、済南、山東の物乞いたちは、プリントアウトしたQRコードを手に、AlipayやWeChat Payでお金を恵んでもらっている」と、本土メディアの報道を引用する形で表現している。中国では、専用端末を必要としないシステムにより、市場の露天商など零細個人商店での普及にも結びついているという。商店の方は釣り銭を用意する必要がなく、客側にとっては行列が緩和される、現金を持ち歩かないことで強盗などの心配が軽減される、などといった点が、メリットとして受け入れられているようだ。

◆海外メディアが指摘する日本の現金信仰
 一方、日本では「おサイフケータイ」や「モバイルSuica」といったモバイル決済を世界でいち早く導入したものの、利用率の伸びは緩やかだ。最近導入されたApplePayやAndroidPayといった海外勢も思うように普及していないとされる。特にモバイル決済の場合、既に普及しているクレジットカード決済や交通系ICカードなどのプリペイドカード方式の決済を上回る利便性やメリットが感じられないことも、モバイル決済の普及を阻んでいるようだ。

 海外メディアが指摘するのは、これに加え、世界に稀に見る日本の「現金信仰」だ。SCMPは「日本のケースはそれほど驚くべきものではない。日本というハイテク国家は、奇妙に古風な側面を多く持ち合わせている。たとえば、日本企業の多くはいまだに書類のやりとりにFAXを推奨している」と書く。ストレイツ・タイムズも、「多くの日本の老人は銀行すらも信用しておらず、いまだに自宅の畳の下に現金を隠している。犯罪率の低さが、多額の現金を持ち歩くことを恐れないことに結びついている」という日本人識者のコメントを掲載している。また、「何十年もスタグネーションが続く日本では、つい余分に遣ってしまいがちな決済方法が避けられる傾向にある」と、モバイル決済のような「目に見えないお金」が普及しにくい理由を挙げる。

 また、日本の紙幣=日本銀行券は偽造が非常に困難なことが、現金への信頼に結びついていると各紙は指摘する。つまり、日本では偽札が出回ることはほとんどないのだが、一方の中国では非常に多くの偽札が市場を飛び交っているとされる。スマートフォンの普及とともに中国やケニアといった市場で電子決済が急速に広まった背景には、偽札対策があるという指摘もあるのだ。

◆中国人富裕層は「世界のどこでもモバイル決済」
 SCMPは、日本と同様に交通系ICカード以外の電子決済が普及していない香港も、消費者の利益とビジネス支援のために中国本土に倣う必要があるとしている。香港の経済団体の調査によれば、アジアの各国(都市)の電子決済の普及率は高い順に10段階評価で、シンガポール(7.5)、中国・中山(6.9)、香港(6.4)、台湾(6.4)、マカオ(6.3)、日本(5.8)だという。

 このように国や地域によって状況が異なる中、日本でもたとえ国内に需要が少なくても、インバウンド強化のために電子決済の普及が必要だという指摘も多い。観光立国を目指す日本政府は2020年東京オリンピックまでに電子決済端末を導入する店舗に補助金を出すなど「決済の近代化」を支援する方針だ(ストレイツ・タイムズ)。

 中国の富裕層向けメディア『Jing Daily』は、Alipayの日本進出を伝える記事で、「現在、多くの中国の店では、AlipayかWeChat Payでの支払いを受け入れている。そして、多くの中国人消費者は、世界のどこへ行っても、モバイル決済で買い物ができることを望んでいる」としている。こうした中国人富裕層のニーズに応えられないことが、観光立国・日本の機会損失につながる可能性はおおいにあると言えよう。