永瀬正敏がいい感じ、だけじゃない魅力。今秋、絶対観てほしい『パターソン』【さぼうる☆シネマ】

写真拡大 (全4枚)

「風味、味わい」のような意味を持つ"saveur"をちょっと和風に発音しての、さぼうる。雑食系映画紹介人、松本典子がオススメ映画をお届けします。連載5回目は、永瀬正敏もマジいい味出してるジム・ジャームッシュ監督作『パターソン』を。じわじわ効いてくる愛すべき作品です。

秋の季節にぜひ観てほしい作品
秋めいてきましたね。『パターソン』は、こんな季節にぜひ観てほしい作品です。いや、季節感に溢れた話ではないのですが、これから涼しく、寒くもなっていくけれど、これを観て心がほっこり豊かになれたからこの先も大丈夫な気がする......という具合に、不思議な活力を、ココロの糧を与えてくれる作品なのです。 80年代、女性ファッション誌周辺から人気に火がついたミニシアターブームがありましたよね(アラフォーより下の世代は知らないかな)。懐かしい作品はいろいろあれど、頭に浮かぶ監督名の筆頭はジム・ジャームッシュではないでしょうか。大きな事件は起こらない淡々としたストーリー運びなのにどうも惹きつけられる、ジャームッシュが『ストレンジャー・ザン・パラダイス』や『ダウン・バイ・ロー』で見せた独特なセンス。当時のモノクロ映像と相まって、スタイリッシュでありつつキメキメじゃない余白感もまた非常に印象的でした。
その後もインディペンデントを貫きながら、キャリアや人生を積み重ねながら、彼のセンスはますます極まっているのだなあと嬉しくなるのが、この『パターソン』。ニューヨークから日帰りでも行ける街、パターソンに住むパターソンという名の男性のある1週間を描いた本作です。 バスの運転手であるパターソン(演じるのがアダム・"ドライバー"というのは単なる偶然とのこと)は、毎朝同じ時刻に起きて出勤し、同じ経路を同じペースで走ります。ええ、仕事ですからね。始業及び終業時には同僚のボヤキをケアし、夕食後は愛犬マーヴィン(第69回カンヌ国際映画祭でパルム・ドッグ賞受賞!)と散歩しつつ行きつけのバーへ赴く......なんてことも欠かせない習慣になっている男です。

そんな彼の趣味は、詩を書くこと。どこに発表するでもなく、浮かんだ詩をノートに書きつける。愛妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニが超絶魅力的)とのささやかな暮らし、街で出会った人たちと交わすやり取り、バーのオーナーや常連たちとの会話やバスの乗客たちから漏れ聞こえるおしゃべり、運転席からの眺め......などから緩やかな刺激を受けつつ詩を編むのです。パターソンの詩を誰よりも認めているローラもまた、不思議ちゃんっぷりを発揮しながら独自のアート活動を。喜びと温かみに満ちた、ときにユーモラスな暮らしが映し出されます。

判で押したような毎日に思えそうだけど、実は同じ日なんて一日もない
"人生"を語るとか大上段に構えることはなく、描かれるのはあくまでもささやかな "日々"。判で押したような毎日に見思えそうだけど、実は同じ日なんて一日もない。十人十色ならぬ七日七色だな、と実感させられるのは、パターソンが小さな発見や喜びたちをさらりと詩にしてくれるから。さらには、ジャームッシュがそんな彼の日々をていねいかつ軽妙に描いているから。パターソンが過ごす日々には、明日への広がりと穏やかな輝きが見て取れるのです。物語も半ば過ぎ、ようやくスクリーンに披露されたパターソンの夕暮れどきも象徴的です。何てことないようだけれど、やさしく光が回っていて愛おしいと思える街の眺め......。
さて、終盤の7日目。あることで落ち込んでいたパターソンが出会う日本旅行者として登場するのが永瀬正敏。『ミステリー・トレイン』主演以来27年ぶりのジャームッシュとの再会だとか。やはり詩を愛するという彼が、去り際にパターソンにある言葉を投げて行くのですが、これがいい! パターソンのみならず我々をも力づけてくれる威力に、改めて「いい役者さんだなぁ」と実感しました。映画館を出た後、この余韻で美味しいお酒を飲みたくなるような、素敵なエンディングですから。どうぞお楽しみに。Photos by MARY CYBULSKI ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.

『パターソン』監督:ジム・ジャームッシュ出演:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニhttp://paterson-movie.com/ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほかにて公開中、全国順次公開予定©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.