2017年8月21日、世紀天体ショー“皆既日食”をアメリカで体験!

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2017年8月21日(日本時間22日)、アメリカで皆既日食が起こったのをニュースなどで見た人も多いはず。皆既日食は新月の時に発生する現象で、地球と太陽の間に月が入り込み、月が、地球からの見かけ上の大きさがほぼ同じ太陽を覆い隠します。

実は日食自体はそれほど珍しい現象ではなく、だいたい1〜2年に一度くらいのペースで発生します。ただし皆既日食ではなく、地球と月の公転の関係で太陽が完全に隠れずリングのように残る金環日食(金環日食は部分日食の一種)になるケースもあります。また、日食が発生してもそれが陸地から見られるとは限らず、また陸地だったとしても日本からのアクセスが非常に悪い可能性があります。ちなみに前回(2016年)の皆既日食はインドネシアの島を通ったものの、ほとんどは太平洋上。その前(2015年)は北極海などで発生しました。

それでも皆既日食を観測したければ、仕事などを放り投げて意地でもそこに行くしかありません。でも、まともな社会人をやっていると現実的ではありませんよね。今回のようにアメリカ大陸を西海岸のオレゴン州から東海岸のサウスカロライナ州まで14州に渡り横断。しかも日本の夏休みの時期に重なるという好条件は極めてレア。この機会を逃す手はありません。

■日食により「史上最悪の渋滞」が発生!? 現地でまともに動けるのか

今回は皆既日食体験以外にも用事を絡めたので、まずはロサンゼルス経由でラスベガスにイン。ラスベガスは皆既日食帯(皆既日食を観測できるエリア)からかなり離れていますが、テレビでは日食のニュースがバンバン流れています。

「ポートランドでは日食の間、公共駐車場の屋根をクローズ」

「アメリカ史上最悪の渋滞の恐れ」

「日食に続き、渋滞の悪夢がオレゴンを襲う」

「皆既日食による生産性損失は6億9400万ドル(約760億円)に」

「空が急に暗くなっても慌ててブレーキを踏まないようドライバーに注意喚起」

皆既日食がアメリカ大陸を横断する形で起こるのは、1918年以来、実に99年ぶりの出来事。そのためアメリカ中がお祭り騒ぎです。オレゴン州だけで約100万人が訪れると言われていて、いったいどのような状況になるのか誰も予想できません。ネガティブなニュースが多いのもそのためでしょう。

そんな中、同じく日食体験のためにアメリカに入りキャンプしている友人からLINEが。

「小さな町に一気に人が流れ込んできたから、あちこちで軽くガソリンパニックが起きてるぞ。動くときはこまめに給油してタンクを常に満タンにしておけ」

…なんだか大変なことになりそうです。

 

■8月19日(土) どこで皆既日食を体験するべきか、激しく悩む…

ラスベガスからオレゴン州ポートランドにイン。空港はEclipse Tシャツを着たツーリストでごった返しています。

▲空港のレンタカーもツーリストでごった返していました。慌ただしく動くスタッフから「あのあたりから好きなの選んで」と言われたので、お言葉に甘えて車内でゆったり寝られるダッジグランドキャラバンをチョイス

皆既日食は皆既日食帯(皆既日食の通り道)の中に入らないと観られません。ポートランドはギリギリ帯の中に入っていないため(食の最大が99.2%)、ここからどこに移動するかが勝負です。候補はふたつ。ポートランドの南部に位置するセイラムか、マウントフッドを超えたところにある人口約6000人の小さな町、マドラスです。

マドラスはワームスプリングスリザベーションという文字の下、Y字の道があるあたりです。セイラムはポートランドから1時間ほど、マドラスはポートランドから3時間弱という距離にあります

天気予報を確認すると、セイラムはやや雲が多いものの、どちらも問題なさそうです。

▲セイラムの8月21日の天気予報

▲マドラスの8月21日の天気予報

皆既日食は皆既日食帯の中に入らないと観られませんが、逆に言えば皆既日食帯の中に入ればどこでも観ることができます。そこでどういう場所を観測ポイントに選ぶかは、皆既日食をどのように体験したいかで変わってくると言えるでしょう。

皆既日食は月が太陽をすっぽりと覆い隠す現象です。月に隠れた太陽を見るだけなら、太陽が見える場所なら街中などどこで観測しても構わないと思います。しかし皆既日食は地球にもっとも大きな影響を与える太陽が隠れるため、皆既状態になるとさまざまな現象が起こります。しかもどんな現象が起こるかは観測場所の気象条件等により変わってきます。それゆえ皆既日食は「もっとも壮大な天文現象」と呼ばれるのです。私がこの原稿で皆既日食を「体験」と表現する理由もここにあります。皆既日食による変化を感じるためには、周囲に遮るものが極力ない広い場所がいい。

その意味で、広大な農場が広がり視界を遮るものが何もないマドラスはベストポイントと言えそうです。ただ、それゆえにマドラスは世界中の皆既日食観測ツアーが集結し、アメリカ国内からも多数の人が訪れることが予想されていました。ここで連日ニュースで流れていた「アメリカ史上最悪の渋滞」が頭をよぎります。

私は皆既日食の翌朝にはアメリカをたたなければならなかったので、ポートランドに近いセイラムで開けた場所を探し、セイラム最大の公園であるミント=ブラウン・アイランド・パークに向かうことにしました。

■8月20日(日) 皆既日食前日

皆既日食前日となるこの日、ポートランドはどこかせわしない雰囲気に包まれているように感じました。スーパーマーケットには日食観測地へと向かう人が押し寄せ、我先にと食糧や水を買い込んでいます。私も必要なものをなんとか揃え、準備を整えました。

▲ポートランドのスーパーマーケット。水の棚はほぼ空っぽ

今回の皆既日食ですが、数日に渡るキャンプは想定していません。また今回は「体験」するためにやってきたので日食中に撮影するつもりもありません。そのため用意したものはごくわずかです。

スリーピングバッグ:オレゴンは夏でも朝晩は肌寒く、パーカーなどが必要。クルマの中で寝る際にも寝袋はあったほうが快適カメラ:皆既日食が始まるまでの様子を収めるため日食観測グラス:太陽を直接肉眼で見るのは危険。日食グラスは必需品です。日食グラスは眼鏡型のほか、板状のものもありますEclipse Tシャツ:気分を盛り上げるために(笑)。写真は2009年7月に日本で起こった皆既日食のときのもの。ずっと未使用でしまっていましたが、今回封を開けました

22時出発。予想に反してセイラムまでの道は順調です。およそ1時間でミント=ブラウン・アイランド・パークに到着。公園内はキャンプをしながら皆既日食を待つ人たちで溢れています。

 

■8月21日(月) 皆既日食当日。快晴!

早朝、公園内には幻想的な朝もやが。空は雲ひとつない快晴。最高の皆既日食日和となりました。テネシー州ナッシュビルに入った友人からは「雲がけっこう出ている…」という連絡が。選んだ場所の天気がどうなるかは、運に頼るしかないのも皆既日食体験。本番までに雲が晴れることを祈るばかりです。

セイラムでの日食は第1接触(太陽の欠け始め)が9時5分、第2接触(皆既日食の始まり)が10時17分15秒、第3接触(太陽が再び現れ始めるとき)が10時19分15秒です。それまでの時間、キャンプエリアを歩いてみました。

▲フォードE350ベースのRV(キャンピングカー)。こういうクルマでの旅、憧れます。公園内にはたくさんのRVがやってきていました

▲フォルクスワーゲンヴァナゴン(T3)のウエストファリア。緑の中が似合います

▲こちらはT4で訪れていたファミリー。素敵な雰囲気です

▲明け方はかなり冷え込んだため私は長Tee+パーカーで寝ていましたが、このようにメッシュ状態のまま夜明けを迎えたテントが多数。寒くない…んですよね、きっと

▲もちろん完全野宿の人も。ちなみに日の出直後の外気温は華氏58度(摂氏14度)。タフです

■8月21日(月)9時5分 皆既日食〜人生でもっとも短く感じた2分間

日食はとても静かに始まりました。太陽の右上、1時の方向から月が重なり、徐々に太陽が欠け始めます。日食の連続写真を撮る人、芝生に寝転びながら日食グラスで太陽を眺める人、ピンホールで太陽の欠け具合を地面に写す人…。それぞれの楽しみ方で約1時間後の本番を待ちます。

欠け始めて40分ほど経ち太陽が5割ほど欠けた頃から、だんだんと太陽の熱が弱くなってくるのを感じます。光も徐々にですが弱くなってきているようです。光の弱まり方は夕暮れや薄曇りになるときとはまったく違い、ほんのりオレンジ色のフィルターがかかったような色になる印象です。

10時を過ぎると欠けは8割ほどに。日食グラスをかけなければ太陽は普段と変わらず快晴の空で輝いているように見えますが、周囲は太陽が沈んだ直後に近い暗さになってきています。でも私たちや木の影は地面に映る。不思議な感覚です。太陽の熱は明らかに弱くなり、肌寒ささえ感じるように。

そして第2接触の約5分前。草むらの中でコオロギのような虫が鳴いているのに気付きました。この公園の普段の様子を知らないのでなんとも言えませんが、気温が高い日中に活動する虫ではないはずなので、これも皆既日食の影響かもしれません。

▲こちらは太陽が3割ほど欠けたとき。空はまだ青く写ります

▲太陽の欠けが5割を超えてくると、うっすらと周囲が暗くなっているのに気付きます

▲欠けが9割近くなると、空の色もかなり変わってきました

10時15分を過ぎ太陽が残りわずかになると、周囲からは歓声が。そして大きなダイヤモンドリングが現れた後、それがだんだんと小さくなり、月が完全に太陽を隠します。皆既日食です。

10時16分の段階では、暗くなっているとはいえまだ明るさを感じましたが、太陽が隠れた瞬間に一気に周囲が暗くなり、空に真っ黒な太陽とコロナが肉眼でもはっきり見えます。そして空には星が現れ、地平線は夕焼けのようなオレンジ色に。すべて「知識」として理解していましたが、「光景」として目の当たりにすると、言葉が出ません。

 

▲皆既日食中の光景。太陽の中心に黒い月がある。黒い太陽と同じくらい体験したかったのが地平線に見える“日食焼け”だ

皆既日食が始まってからちょうど2分後、黒い太陽の右上にダイヤモンドリングが出現。第3接触。皆既日食の終幕です。暗かった空が明るくなり、星や夕焼けは一瞬で見えなくなり、いつもの昼間に戻りました。太陽はまだ欠けているので普段よりは暗いはずですが、皆既日食で暗くなったところから急に明るくなったため、第1接触から第2接触に向かうときのような変化を感じることはできません。

2009年7月21日に奄美大島やトカラ列島で起こった皆既日食。私はフェリーに乗って、トカラ列島の悪石島付近で船上から眺める皆既日食観測ツアーに参加しました。残念ながら土砂降りで、黒い太陽を観ることができませんでした。しかしこの時は、皆既日食の直前から周囲が急激に暗くなり始め、太陽が隠れたときは自分の掌すら見えないほどの闇に。しばらすると甲高い音とともに何かにしがみついていなければ立っていられないほどの突風(ジェット機のような風でした)が通り過ぎました。そして第2接触から6分過ぎ、第3接触になると急に周囲が明るくなると同時に雨雲に映る真っ黒な月の影(本影錐)が駆け抜けていくという、強烈な体験をしました。

今回の皆既日食は、明るさ的には宵の口という感じだったと思います。突風が吹くという変化もありませんでした。それでも急激な明るさの変化と太陽と星空のコラボレーション、そして何より真っ黒な太陽が放つコロナとダイヤモンドリングの美しさを直に観るという、とても貴重な体験ができました。

 

■次は2019年のチリ・アルゼンチン! 日本では2035年!

今、私たちは皆既日食が起こる正確な場所や時間を簡単に知ることができます。インターネットでは簡単に皆既日食のライブ中継を見ることだってできます。しかし天文学が発達していなかった時代、突然起こる皆既日食に人々は驚き、神秘を感じると同時に大いに怯えたのではないでしょうか。頭だけの悪魔ラーフに飲み込まれた太陽(インド)、スコルという狼に飲み込まれた太陽(北欧)、巨大な蛇の怪物アペプにより沈められた太陽神ラーが乗る船(エジプト)など、古代の神話にも日食を連想させる話がいくつも残っています。天照大神が洞窟に隠れてしまう天岩戸神話も日食の話ではないかという説があります。

黒い太陽が現れた2分間はいつもと変わらない時間のはずですが、本当に一瞬のうちに過ぎ去りました。この神秘をぜひみなさんにも体験してもらえたらと思います。次のチャンスは2019年7月2日、チリとアルゼンチンで観測できます。そして日本では18年後の2035年9月2日に能登半島から茨城県にかけて皆既日食が起こります。

▲ミント=ブラウン・アイランド・パークをはじめ、セイラムの街では多くのボランティアが交通整理や案内などにあたってくれていました。感謝! セイラムでの日食が終了したおよそ1時間後、ナッシュビルにいる友人から「5分前に雲が切れて皆既日食を体験できた!」という連絡が

 

■初めての皆既日食撮影ガイド

私は日食を体験することに専念しましたが、きっと多くの方は日食を撮影したいはず。そこで日食撮影に必要な機材をまとめてみました。

▼カメラ(ボディ+レンズ)、三脚

写真でも映像でもこれがないと始まりませんが、ポイントは撮りたい画の数だけボディとレンズを用意すること。コロナ、プロミネンス、周囲の風景など皆既日食は短い時間の間にいろいろな現象や変化が起こるので、ひとつのカメラでいろいろな画を狙おうとすると撮り逃す可能性があります。プロや天文ファンは10台以上ボディを持っていくことも。

▼NDフィルター

第1接触〜第2接触、第3接触〜第4接触を撮影する上で必須となる太陽撮影専用の減光フィルター。

▼赤道儀

太陽は時間とともに動いていくので、正確に追いかけながら撮影をする場合は天体撮影で使う赤道儀があると便利。

▼アングルファインダー

日食の時間帯によってはカメラをかなり上に向けて撮影することに。アングルファインダーがあれば首への負担を減らすことができます。

撮影では、太陽を狙うだけなら多くの人が集まる観測スポットでも問題ありません。ただし当日の人の集まり具合によっては複数の機材を広げられない可能性もあります。どのような状況になりそうかは現地で事前に確認しておきましょう。また、皆既日食中の風景写真を狙う場合は場所選びが重要に。とくに観測している人を映り込ませたくないときはそれが可能な場所を探さなくてはなりません。人がいないからといって私有地や国などの管理地に無断で入るのは厳禁。ロケハンのためにも皆既日食本番の数日前に現地入りしたいところです。そして短い撮影チャンスで失敗しないよう、経験者が公開している露出などを調べておくと同時に撮影をシミュレーションしておくのがオススメです。

 

(取材・文/高橋 満<ブリッジマン> 画像/NASA)