【投資の真髄:トヨタ生産方式(3)】組織運用「もっといいクルマをつくろうよ!」

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 人は「概念でものを見る」ので、概念でムダと思えないとムダには見えない。亡霊が見える人と見えない人のようなものだ。つまり認識がなければ、倉庫を財産と思いムダには見えないのだ。グローバル発注と下請けのサプライヤーの値段を比べるのは、かなり難しい。同じ土俵で造っている訳ではないからだ。

【前回は】【投資の真髄:トヨタ生産方式(2)】グローバル(ロット)発注は無駄の源!

 例えば、船便からコンテナでストックするとすると、その保管場所、荷扱いの手間などすべての経費を加算しないと、グローバル発注のコストは計算できない。下請けのサプライヤーが、1時間ごとにラインに直接投入していると、そこには倉庫もないし納品管理をする者もいない。また独自の技術が生むメリットも考えられる。資金の動きだけで見ていると間違いを起こす元となるのだ。

 「中間在庫が発生したら、即ムダと思え」と考えるべきだった。しかし、これまで当然としてきた作業には、数知れないムダが潜んでいた。それを一つ一つ見つけ出し、カイゼンしていくには、作業員全員の前向きな認識を必要としている。中間在庫は「運ぶ」ことも、「置く」ことも、「置く設備」も、「管理する」ことも、何もかもがムダと認識できることが必要だった。

■「もっといいクルマをつくろうよ!」とカイゼンしていく組織運用

 トヨタのスローガン「もっといいクルマをつくろうよ!」は、社員すべてが「まじめに、誠意をもって製造にあたる」必要性を、心の芯まで理解している言葉だ。一人でも「いい加減」な仕事をしたら、三菱自動車のようになる。最悪「人殺し」になってしまうことを指している。

 作業に当たる人々すべてが「まじめ」であること、社会の人々に対して「思いやり」があることが絶対の条件だ。その気持ちで作業しても「間違い」は起こる。だから、「まじめ」と「思いやり」を社員全員で実行していかねばならない。社会一般では「モラル」と呼ぶものだ。これはマクドナルドのチキンマックナゲットの品質問題を考えれば良く分るはずだ。社長から作業員まで、誰もが真面目に仕事していなければ、起こりがちなことだ。モラルが低下することは、もっとも品質に危険なことである。

 読者の皆さんは、100km/hで疾走する車の中で、突然タイヤが外れることを想像しているだろうか? もし起きたら重大な結果になる。三菱自動車の場合、トラックであったので車は何とか無事でも、通行人に死者がでてしまった。これを防ぐには「まじめで、思いやりのある社員である」ことが絶対必要なのだ。これが組織運用を考える絶対的の基礎である。

■「まじめで、思いやりのある社員である」には?

 社員の「善良」さを引き出さねばならない。それには、「生活の安定と、働く楽しさ」を感じていなければならない。「仕事はきつくてもやりがい」を感じていなければ、いい加減になってしまうのが、人間の性だ。社員全員が「もっといいクルマをつくろうよ!」と思っていなければ、現在の日本の車ほどの品質は保てない。

 私の会社では、これを引き出す作業は、実につつましやかな努力から始まった。まず、始めたのが「仕事全体の品質」を理解することだった。それには「日頃の不満を吐き出してみる場面を設ける」ことだった。

 全社で作業についての相談する会合を持つことを指示した。そのころQCサークル活動は社員自らが自主的に無給で行うこととなっていたが、それは実質的には強制であり、労働基準法違反だった。そこで残業代を支払うこととして、作業として行うこととした。先に細かくグループ分けを考え、リーダーを養成するセミナーを幾度となく開催し、準備した。

 しかし「最初は苦情や愚痴」ばかりになることをリーダーには良く伝え、それでも耳を傾け、何を不満に思っているのかを正確に捉え、表面化させるように準備していた。そして苦情・愚痴の原因が見えて来たところで、自分たちで解決できることから、解決してしまうことをリーダーから提案してみるようにしていた。

■社長も作業グループの1メンバー

 私も事務、管理部門の一部のリーダーをつとめることとした。私のチームは取締役から担当者まで含まれており、階級別の区分けではなかった。私は若手の職員に頼んで、会合の始まる前にポケットマネーで茶菓子を用意してもらい、お茶の準備も手伝った。そして夕方残業時間が始まると、まずメンバーに「お茶」を勧めた。

 残業時間内であり、普段一緒に仕事をすることもない社長や取締役を前に、社員は緊張していた。逆に初めから「苦情や愚痴」が出るはずもなかった。そこで「いつも担当している仕事の範囲でも、関係ないことでも、それぞれ一人ずつ順番に、先生になってメンバー全員に講義してくれ」と頼んだ。大多数は話すことが見つからず、自分の仕事の範囲を説明するだけだったが、ベテランの事務員は自分の作業を説明し、工夫しているところ、やりにくいところなど、問題と感じているところを話し始めていた。

 私の順番になったとき「砲術」の話をし始めた。仕事の話になるのかと思っていた社員は「けげんな顔」をしたが、品質管理の不良率の数字は、社員は毎日聞いて、一喜一憂していた。砲術の話は、実は「品質管理の、統計学と作業の関係性の基礎的な知識」だった。それを当時、人気の戦争映画の場面を出して、面白おかしく話したことで、みんなは笑った。品質管理を「自分を縛る感覚」で捉えていた社員が、「自分が使う立場」だと気付く第一歩を歩み始めた瞬間だった。私は40年を経た今でも社員の、あの笑い声が忘れられない。

 トヨタの現在のスローガン「もっといいクルマをつくろうよ!」と同じ内容を、社員に浸透していく第一歩の場面だった。

【投資の真髄:トヨタ生産方式(4)】世界の宝、資金効率の要「工程結合」の実践 につづく