秋山英宏 全米レポート(2)「もう泣かない」。誓いを守った大坂が前年覇者を破る

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開幕前にニューヨーク市内で記者会見を行った大坂なおみは、大会の抱負を聞かれ、「泣かないこと」と答えた。

昨年、3回戦で第8シードのマディソン・キーズ(アメリカ)に挑んだ大坂は、ファイナルセット5-1として16強入りに王手をかけたが、逆転を許して敗れた。5-5に追いつかれると、大坂はもう涙をこらえられなくなった。試合後の会見で「駆けつけてくれたお母さんに、勝つところを見せたかった」と涙の理由を明かしながら、またも涙声になった。

リードをどれだけ広げても、また、どれほど力のある選手でも、試合を締めくくるのは難しい。勝利を意識しすぎると腕が縮み、ラケットが振り切れなくなる。しかも相手は開き直って挑んでくる。経験の乏しい選手がリードをふいにするのは決して珍しいことではない。

そんな悔しい思い出があったから、大坂は冗談めかして「もう泣かない」と宣言したのだろう。もちろん、泣かなければならないような試合をしない、勝てる試合はしっかり勝つ、という意味だ。

大人に見えても、ティーンエイジャー。試合中にも感情の大きなアップダウンがある。だが、ティーンエイジャーだから、恐ろしいほどのスピードで成長していく。

アンジェリック・ケルバー(ドイツ)との試合で驚かされたのは、大坂のサーブの安定感だった。59%というファーストサーブの確率は標準的だが、それが入ると、79%の高確率でポイント獲得に結びつけた。第2セットは、ファーストサーブが入ると1ポイントも失わなかった。ダブルフォールトは2セットでわずか1本。相手に一度もブレークポイントを与えなかった。

日本のナショナルチーム女子コーチで大坂を担当するデビッド・テイラーコーチが、進化の秘密を明かした。

「もっと脚を使うようにと言った。これまでは片脚しか使えていなくて、打ったあとはフラミンゴのようだった。ボディではなく、脚を使って打つように指導し、両脚を使って打てるようになった」

昨年は痛い思いをした試合の締めくくりの場面でも、成長が見られた。大坂が振り返る。

「(第2セット)4-1になった時は、去年と同じ種類の緊張を感じていた。それで私は、ここまでやってきたのと同じようにプレーしようと自分に言い聞かせて、去年みたいに緊張に負けないようにした」
やるべきことをやっていれば、結果はついてくるものなのだろう。マッチポイントでは相手のフォアハンドがネットして、あっさり勝ち星が転がり込んできた。

「ポイントが長くなるのは嫌だったから、彼女がミスをしてくれたときは本当にうれしかった」

大坂が率直な思いを口にした。

実はここでもコーチの指導が生きていた。テイラーコーチが明かす。

「去年は(リードしてから)感情的になりすぎて、『あと1ポイント。あと1ゲーム。そうすれば勝てる』と考えてしまったが、今回は『サーブをワイドに入れて。リターンは真ん中に』というように、感情的になるのではなく戦術を考えていた。その違いは大きい」

学習能力の高さは彼女の長所。コーチの教えを忠実に実践した大坂が、番狂わせを演じてみせた。

「去年の経験が生きた」と大坂。試合後には、思いがけず、母親の環さんに会えたという。対面は、周囲が仕込んだサプライズ。環さんは前日にニューヨーク入りしていたが、大坂には知らされていなかった。

ここでも昨年の経験が生かされたのだ。

(秋山英宏)

※写真は「全米オープン」女子シングルス1回戦でケルバーを破った大坂なおみ
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