国際Aマッチ出場100試合が迫っている日本代表のDF長友佑都【写真:Getty Images】

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過去と比べて異質。長友から漂うオーラ

 勝てば日本代表の6大会連続6度目のワールドカップ出場が決まる、オーストラリア代表とのアジア最終予選第9戦が31日午後7時35分、埼玉スタジアムでキックオフを迎える。帰国直前のセリエAで左太ももに張りを訴え、途中交代していた左サイドバックの長友佑都(インテル・ミラノ)も心配無用とばかりに、冒頭15分間以外は非公開で行われた29日の練習を消化した。来月には31歳になるベテランが描く難敵の攻略法と、胸の奥底に脈打たせる日本代表への熱き思いに迫った。(取材・文:藤江直人)

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 無尽蔵のスタミナを武器に、怖いもの知らずの“火の玉小僧”のごとくピッチを暴れまわっていた岡田ジャパン時代の8年前とは、漂わせているオーラが明らかに違う。

 セリエAの名門、インテル・ミラノの中心選手として積み重ねてきた実績と経験を、揺るぎない自信と重厚な風格に変えていたザックジャパン時代の4年前ともちょっと違う。

 来月12日に31歳になる。8シーズン目を迎えたインテル・ミラノで、最古参選手になって久しい。日本代表のサイドバックとしては初めてとなる、国際Aマッチ出場100試合へもカウントダウンに入った。

 ベテランと呼ばれる域に入っていることも、もちろん自覚している。そのうえで長友佑都はどこか達観していると表現してもいい、いい意味での余裕を周囲に与えている。

「過去の最終予選のほうが、僕的にはプレッシャーというものを感じていましたけどね。いろいろなことを経験できたことで、リラックスしながらいまはプレーできています」

 オーストラリアがアジアサッカー連盟(AFC)へ転籍したのが2006年1月。岡田ジャパンとザックジャパンはともにアジア最終予選で同じグループとなり、ホームおよびアウェイで行われた4試合で長友はすべて左サイドバックとして先発フル出場した。しかし、結果は3分け1敗だった。

 決勝戦で激突し、延長戦の末にアジア王者の座を勝ち取ったザックジャパン時代のアジアカップ2011では、0‐0の均衡を破るFW李忠成の左足ボレーによる決勝弾をアシストした。

 一方で国内組中心のメンバーで勝利した2013年7月の東アジアカップと、3‐0で快勝したアギーレジャパン時代の2014年11月の国際親善試合には、ともに出場していない。

 つまり、長友自身はオーストラリアにまだ90分間で勝利した経験がない。自身を含めた日本を何度も苦しめてきたストロングポイントに、しかし、新たな要素が融合されていると長友は警戒心を強める。

「オーストラリアはフィジカルが強くて高さもあると言われていますけど、いまの彼らはパスをつないでくるし、ほとんどロングボールを蹴ってこない。技術もしっかりしているし、もちろんフィジカルの強さや高さは変っていない。その意味では、なかなか難しい相手だと思っています」

臨機応変な戦いのために欠かせないベテランの経験

 2013年から指揮を執るアンジェ・ポスタコグルー監督は今年に入って、従来の4バックを3バックに変更。アジア王者として出場した6月のコンフェデレーションズカップでは、ドイツ代表に敗れるも2‐3と接戦を演じ、カメルーンおよびチリ代表とはともに1‐1で引き分けている。

 そうした情報は、もちろん日本代表の選手たちのもとへも入っている。すでに何度も机上の戦いを済ませているのだろう。長友は具体的なゲームプランを思い描いていた。

「中央はやはり堅いので、サイドが勝負になると個人的には思っている。相手のフォーメーション的にもサイドで数的優位を作って、そこでの勝負に勝てれば、試合を優位に進められるんじゃないかと」

 3バックを採用すると、左右のストッパーの外側にスペースが生じるリスクを負う。左右のウイングバックが下がって5バック気味となる、Jクラブでよく見られる対応策をオースラリアはほとんど取らない。

「なので最終ラインの裏を狙うとか、カウンターで速く攻めるのはかなり効いてくるとも思う。僕たちが前からいくだけではなくて、わざと引いて相手を前にこさせてからカウンターを狙うのもありだと思う。フィジカル勝負では勝てないので、自分たちの経験や頭を使いながら攻めないと。

 守備もそう。ロングボールを蹴ってこない部分がどう出るかはわからないけど、しっかりとマークについて、裏を取られないようにしていれば防げるんじゃないかと。サイドバックとしては、センターバックが競り合った後のカバーも意識する。セカンドボールを拾われたら、かなり難しいので」

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督に求められる、縦への速いサッカーだけではない。状況によっては相手をおびき寄せることも含めて、硬軟織り交ぜながら難敵を攻略していく。攻守両面で臨機応変に戦い方を変化させていくためにも、修羅場をくぐり抜けたベテランの存在は欠かせない。

 開幕連勝と好スタートを切ったインテル・ミラノでも、2試合続けて左サイドバックで先発した。26日のローマ戦では左太ももに張りを訴え、自らの意思で後半11分にベンチへと退いてしまった。

 日本代表スタッフに冷や汗をかかせたアクシデント。もっとも、帰国後に受けた精密検査で「問題なし」と診断された。いま現在は痛みも感じないと、笑顔で心配無用を強調する。

若手は「もっとガツガツとやってくれれば」

 実は6月シリーズで招集されたときも、メディアから心配する声があがっていた。インテル・ミラノとの契約を2019年6月まで延長しているものの、オフには幾度となく放出候補として報じられた。

 3度も監督が交代した2016‐17シーズンは、わずか16試合の出場に終わった。新たに就任したルチアーノ・スパレッティ監督の構想から外れているのでは、という危惧を長友は笑顔で受け止めた。

「何か皆さんがすごく心配してくださっているんですけど、僕がまったく自分のことを心配していないというか。本当にシンプルなことだし、何度も言ってきましたけど、クラブに必要とされないのであれば荷物をまとめて出ていく。自分が必要とされる場所で、輝くための努力をするだけなので」

 もちろん、自身を育ててくれたインテル・ミラノを愛してやまない。一方でプロフェッショナルとしての矜持を忘れることなく、求められた場所で常に100%のパフォーマンスを発揮していく。

 弱肉強食が絶対的な掟として掲げられる世界である以上は、いつかはポジションを若手に奪われる日が訪れる。自分もそうして台頭してきたし、いざ挑まれる立場になったときにも素直に譲らない。

 世代交代を成就させたい若手のギラギラした渇望と、そう簡単に明け渡してなるものかと抗うベテランの執念。二律背反する思いがぶつかりあったときに化学反応が起こり、チームは成長していく。

 同じ図式は日本代表にも当てはまる。岡田ジャパン時代は本田圭佑、岡崎慎司ら、同じ1986年生まれの北京五輪世代による強烈な突き上げが、下馬評が芳しくなかったチームの起爆剤になった。

 時は流れて、長友はいま、下の世代から突き上げられる状況を望んでいる。UAE(アラブ首長国連邦)代表に敗れるなど、アジア最終予選で苦戦を強いられていた昨秋に、こんな言葉を残したことがあった。

「ワールドカップに行かなければいけないというプレッシャーを、選手たち一人ひとりが感じているというか。チーム全体の躍動感というか、勢いといったものが落ちているのかな、という思いが正直ある。みんながサッカーを楽しんでいるのか、どうかと言ったらいいのか。

 若手にはもっとガツガツと、僕や(本田)圭佑、オカ(岡崎)が代表に入ってきたときみたいにやってくれれば。遠慮なんてしなくていいから、自分が本当に中心になるくらいの思いで、日本代表を引っ張ってやるんだ、というギラギラしたメンタルをもってほしいんです」

30歳を超えた選手が何人も、何年も出続けている状況への危機感

 自身もけがの連鎖があって、アジア最終予選でピッチに立てない状況が続いた。敵地メルボルンに乗り込んだ昨年10月のオーストラリア戦は、出発直前の練習で脳震とうを起こしてまさかの離脱を強いられた。

 満を持して臨んだ11月シリーズも、オマーン代表との国際親善試合の直前に体調を崩してしまった。ホテルに居残り、一人でテレビを見ながらチームの覇気のなさを憂い、自分自身をも奮い立たせた。

「僕たちの世代もいま一度、ギラギラしたものを心の底から出す気持ちをもつことが大事。そういうベテランを見ると、若い選手たちもついていこうと思うはずなので。ただ、30歳を超えた選手が何人も、何年も出ている点は世代交代、底上げが上手くいっていない証拠でもある。

 そういう状況は、日本サッカー界にとってもよくない。もちろん長く代表でプレーさせてもらっている選手が、その経験からくる落ち着きをもたらすことも大切だけど、僕たちを押しのけるような選手がどんどん出てこないと、世界の舞台で勝つためには厳しくなってくる」

 オマーン戦の欠場を最後に、長友はアジア最終予選と国際親善試合の計5試合にすべて先発フル出場を果たしてきた。出場試合数を歴代8位の「95」に伸ばし、挑んでくる若手や中堅にとって厚い壁であり続けた。

左SBのファーストチョイスは確実視。機は熟した

 冒頭で「達観」や「余裕」と記したのは、何も気持ちが冷めているからでも、ましてや上から目線で見ているわけでもない。心の奥底には愛してやまない日本代表の現在と未来とに寄せる、マグマのような熱き思いが脈打っている。

 今回の招集メンバーを見わたしても、左サイドバックを争うのは30歳の槙野智章(浦和レッズ)と、右でもプレーできる26歳の酒井高徳(ハンブルガーSV)。ハリルジャパンにおける図式は、長く変わらない。

 もっと、もっと多くの選手たちに挑んできてほしい。日本サッカー界全体のモチベーションを高めるためにも、来年のロシア大会の舞台に立つことは欠かせない。だからこそ、いま現在を全力で引っ張る。

 左サイドバックのファーストチョイスになることが確実視される、オーストラリアとの大一番へ。大胆かつ細心に。原点を大事にしながら、これまで何度も痛い目に遭わされてきた教訓も後輩たちへ伝えていく。

「前からアグレッシブにいく気持ちは常にもっている。ただ、気持ちが先行して前の選手と後ろの選手との間にギャップができてしまえば、試合を最も難しくするし、チームを混乱させる。バタバタする時間もあると思うけど、経験のある選手たちが声を出して、しっかりまとめていかないといけない」

 いざ、機は熟した。ワールドカップ予選で初めて難敵オーストラリアから勝利をもぎ取り、歴史を変えたうえでロシア行きの切符を手にして、ファンやサポーターと喜びを分かち合うために。

 未明の一戦でサウジアラビアがUAEに逆転負けしたため、たとえオーストラリアに負けても、敵地ジッダで9月5日に行われる最終戦で引き分け以上ならば、グループBの2位以内が確定する。

 それでも超満員必至の埼玉スタジアムで、勝って大団円を迎えたい。自らに課される役割をいま一度かみしめながら、長友は静かに大一番のキックオフを告げるホイッスルを待つ。

(取材・文:藤江直人)

text by 藤江直人