バチカン市国で枢機卿のローブを制作中の80歳になるイタリア人仕立て屋のラニエーロ・マンチネッリ(2017年6月16日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】ラニエーロ・マンチネッリ(Raniero Mancinelli)は目落ちのものを提供するわけにはいかない。フランシスコ(Francis)法王が新たに5人の枢機卿を任命する式典が迫っていた。それに間に合わせるため、大急ぎで新枢機卿ための緋色のローブを作らなくてはならなかった。

 バチカン市国(Vatican City)の壁のすぐ外側に位置し、マンチネッリが一家で経営する仕立て屋には、世界各地からカトリック(Catholic)の顧客たちが集まってくる。

 フィリピン人の修道女が特価商品の棚に陳列してある一番安い聖杯の寸法を計る一方で、若いブラジル人司祭は金の刺繍をたくさん購入している。そのそばでは、アイルランド人の司祭が、ワンサイズしかない礼拝式用の新品のローブに体を押し込んでいる。

 来月80歳になるマンチネッリは、多くの顧客たちと親しい間柄だ。「君は初めての黒人法王になるだろうね!」とアフリカ人司教に冗談を飛ばすと、「そうならないことを祈るよ!」と返される。しかしくだらない冗談を交わすのも束の間、店の奥の仕事部屋ではマンチネッリが信頼を置く、1950年代ものの「ネッチ(Necchi)」のミシンが待ち構えている。レールには、半分しか出来上がっていないカソック(cassock)と呼ばれる司祭平服や、モゼッタ(mozzetta)と呼ばれる短いケープが吊るされている。

 このミシンはまるで「フェラーリ(Ferrari)」のように動くのだとマンチネッリは語る。しかしそれでも新しいオーダーメイドのローブを仕上げるには少なくとも1週間はかかるという。

「教会の王子たち」と呼ばれる枢機卿に今回新しく選ばれたのは、エルサルバドル、ラオス、マリ、スペイン、そしてスウェーデン出身の5人。そのうち4人は任命式の服装をマンチネッリに依頼した。

■由緒ある緋色のシルクがマスト

 任命が決まると、未来の枢機卿たちのうち3人は、イタリアの首都ローマ(Rome)にある仕立て屋でさっそく寸法を測り、残る1人は、自身の寸法を持った秘書を送り込んだ。

 マンチネッリにとって、新規の顧客より長年の顧客の衣装を仕立てるほうがやりやすい仕事ではあるが、「それでも寸法を確認しなくてはならない。彼らが太ってお腹まわりに肉をつけていることがあるからね!」と認める。

 衣装の1つ、緋色のビレッタ(biretta)はさまざまなサイズで用意されている。ひさしが4つある帽子で、新枢機卿は法王の前にひざまずき、これを頭の上に戴く。カソックやシルクのベルト、モゼッタはこの重要な行事の数日前にバチカンに届けられなくてはならない。使用される軽くソフトな生地は、公式の供給元からのものと決まっており、色は指定の緋色以外であってはならないという。

 2013年に選ばれた法王が「貧しき者のための貧しき教会」を掲げて以来、儀式で枢機卿たちが着用する衣装を豪華にするのは好まれなくなった。「彼らは最低必需品しか購入しない」とマンチネッリは言う。「フランシスコ法王のもと、枢機卿たちはより簡素なものを求めている。以前はシルクのみを使用したが、今はシルクとウールを混ぜている。生地は以前より少し安価で、控えめのものだ」

■枢機卿たちのソックス

 法王がまだ本名のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ(Jorge Mario Bergoglio)で通っていたときのこと。彼は司教になったとき、マンチネッリにシンプルな金属製の十字架を求めたという。そしてフランシスコ法王が誕生してからは、ミニマリズムが流行している。マンチネッリの店のガラスケースに陳列されている、貴石を施した重厚な金の十字架はまったく売れない。より控えめな値段の木製の十字架を選ぶ司教たちもいる。

 服装に関しては、とくに1960年代後半以降、過度なぜいたくはしないようになっている。長いケープやマント、平らな帽子、バックル付きの靴はもう使われない。いまだに長いトレーンを着用している大胆な枢機卿もいるが、珍しい例と言える。ほとんどの枢機卿はモダンで飾り気のない靴を選ぶ。以前は強制されていた、揃いの緋色のソックスさえ今は任意だ。儀式用ではない黒いカソックに至っては、とくに枢機卿の身長が低い場合は、もはや33個のボタンを施してなくてもよくなった。

 マンチネッリの最も誇れる偉業は、かつて12人の新枢機卿を一度に飾り立てたことだ。そして彼はまだ引退するつもりはない。「私は北極から南極にいたる人たちの服を作っているんだ! どうしてミシンを片付けることができようか?」と、マンチネッリは冗談まじりに語った。
【翻訳編集】AFPBB News