訪日ブームで需要急増 開発・導入が進む機械翻訳

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近年の外国人の訪日ブームの影響により、訪日外国人の数が急増している。日本政府観光局(JNTO)が実施した調査によると、2016年に日本を訪れた外国人は中国が最も多く、次いで韓国、台湾、香港と続いている。この2〜3年間では、ベトナムやフィリピン、インドネシア、マレーシア、タイなどのASEAN諸国やイスラエルからの観光客も目立ってきている。

中国語(簡体字・繁体字を含む)や韓国語のほか、ベトナム語やタガログ語、タイ語、インドネシア語、ヘブライ語などの言語の翻訳需要に応えるべく、国を挙げてインバウンド政策が推進されており、その一環として機械翻訳の開発が急ピッチで進められている。

米市場調査会社が2017年から2024年までの動向について纏めた「マーケット・スタディ・レポート」によると、機械翻訳市場は2024年まで毎年17パーセントの平均成長率で市場が拡大し続け、2024年には15億ドル規模に達する見込みだという。

機械翻訳市場を牽引する企業としては、モラヴィア IT、グーグル、ライオンブリッジ・テクノロジーズ、マイクロソフト、IBM、シストラン・インターナショナルなどが名を連ねる。欧米企業が大半を占めるなか、唯一のアジア企業が韓国のシストラン・インターナショナルだ。同社は2014年、日本のNTTドコモ、音声認識・音声対話・音声翻訳に特化したフュートレックと合弁契約を締結。その後、「みらい翻訳」を設立している。

訪日外国人への対応策としては、スマートフォン、パソコンの双方に対応した2言語間の音声翻訳ツールの開発が定着してきている。例えば、ヤマハの「おもてなしガイド」(日本語、英語、中国語、韓国語、タイ語、ロシア語に対応)はその一例だ。

現在東海道新幹線や関東の一部の私鉄の駅構内、日本国内にある2つの国際空港(成田・関西)では、「おもてなしガイド」を活用した多言語音声アナウンスの実証実験が行われている。インターネットに接続された状態でなくても、国籍を問わず音声情報を得られるようにするためだ。

その他、火災や地震などの災害時に発動する避難誘導の多言語放送(日、英、中、韓に対応)は、オフィスビルやショッピングセンター、ホテルなどの施設への導入が検討されている。

機械翻訳の開発・実用化が進むのは、観光分野のみではない。ビジネスにも新たな潮流が生まれつつある。

日本国内では「ヤラクゼン」や「みらい翻訳」など、ビジネス向け機械翻訳ツールがすでに登場している。人手に比べ安価であるにもかかわらず、従来よりも良質な訳が得られるため、コスト効率の高い機械翻訳システムの導入、または導入を検討している企業や自治体は増えてきている。

政府主導のプロジェクトにも機械翻訳が投入されつつある。米国では国防高等研究計画局(DARPA)が軍事・防衛分野の機械翻訳に多額の資金を費やしている。日本でも科学技術に関する文献が増大する中、国立研究開発法人科学技術振興機構は独立行政法人情報通信研究機構と共同で開発した英日自動翻訳システムによる英語の表題や抄録の翻訳を試みている。

このように、機械翻訳はコスト効率や処理速度の面で、人間よりも優れたパフォーマンスを発揮すると期待されている節がある。とはいえ、人間翻訳から機械翻訳に完全移行が可能かと言えば、現段階では「夢のまた夢」というのがリアルな状況だ。

例えば、比較的、翻訳精度が高いとされるニューラルネットワークでさえも時折訳抜けや致命的なミスが見受けられる。心情を読み取るロボットの開発も進められているが、現時点では原文の真意を汲み取るという能力に関しては人間翻訳者のほうが優れている。

機械翻訳はあくまでも翻訳プロセスの一部を担っているに過ぎず、最終段階のチェックは経験豊富な人間翻訳者の翻訳力に委ねられている。機械翻訳の導入を検討している企業や自治体の担当者は、その点をしっかり心に留めておく必要があるかもしれない。