日本戦にめっぽう強いオーストラリア代表のケーヒル【写真:Getty Images】

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初日の練習は軽め。チームの雰囲気は良好

 31日にロシアW杯アジア最終予選グループAの大一番、日本戦を控えるオーストラリア代表は、都内で調整を開始している。徐々にメンバーが揃い、ケガの具合が心配された選手たちも問題なく戦う準備ができているようだ。オーストラリアサッカー事情に精通する記者が、日本代表にとってアジア予選最大のライバルとなるチームの様子をレポートする。(取材・文:植松久隆)

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 いよいよ、決戦の木曜日が明日に迫ってきた。

 本稿では、現在、都内某所の高級ホテルをベースに日豪戦に備える豪州代表を、昨晩までの段階での可能な限りの情報と共にレポートしたいと思う。

 日本代表同様に国外でプレーする選手が多いサッカルーズ(オーストラリア代表の愛称)は、27日から選手たちがそれぞれのクラブでの試合日程に合わせて、三々五々、日本の地に降り立った。第一陣は、27日に来日したティム・ケーヒル(メルボルン・シティ)、マーク・ミリガン、ジェームス・トロイジ(ともにメルボルン・ビクトリー)の国内組3名を含む計10名。豪州国内リーグのシーズン開幕を10月に控える所属クラブを早めに離脱して来日した。

 季節が日本と真逆のオーストラリア。しかも南部のメルボルンで暮らす彼らには多少なりの気候差によるハンディもあるだけに、早めの来日は気候順化には有効に違いない。

 翌28日午後、東京の味の素フィールド西が丘で行われた全体練習には、さらに4名が加わって総勢14名が参加。バスが渋滞につかまって予定から20分ほど遅れて練習を開始するハプニングもあったが、選手たちの表情は総じて明るい。ケガからの回復具合が注目されるトレント・セインスベリー(江蘇蘇寧)を含む8名のフィールドプレイヤーが精力的に体を動かした。

 その脇では、前日遅くか当日の朝までに到着したアワー・マビル(パソス・デ・フェレイラ)、ブラッド・スミス(ボーンマス)、トム・ロギッチ(セルティック)、マッシモ・ルオンゴ(QPR)の4名が完全別メニューで、ストレッチをしながら談笑していた。守護神マット・ライアン(ブライトン)と第3GKのダニー・ヴコビッチ(ヘンク)はGKコーチと逆サイドで入念に動きのチェックを行った。

 トレーニング自体は40分弱で終了するなど軽いもの。日本代表とは違って、いつものことながら練習後の取材対応もなく、選手はあっさりと引き揚げていった。バスに乗り込むところを観察していたが、隠し玉として切り札的な起用が考えられるスピードスターのマビルの右膝にアイシングのようなものが巻かれているのを捉えた。上述の通り、練習はしていないし、広報曰くケガの選手はいない。少し気にはなったが足取りはしっかりしていたので、さほどの大きな問題ではないだろう。

久々復帰の元浦和DF。中国2部クラブ所属も召集

 この日の練習会場にはどこで聞きつけたのか熱心な日本人(?)豪州サポーターが3人ほど待ち構えており、少し遠めから選手たちにサインをねだって声を張り上げていた。すると、ライアンとセインスベリーの2人はわざわざ歩み寄って、サインと写真に応じた。ともに今後の代表を長く牽引していくだろう2人は、決戦を間近に控えていてもファンサービスをおろそかにしない。これを余裕の表れとも取ることはできるのだろうが、日本人ファンの声援にきちんと答える2人の姿を見て、決して悪い気はしなかった。

 翌29日の朝、メディアの囲みに応じたのは元浦和レッズで久々の代表復帰となるマシュー・スピラノビッチ(杭州緑城)と、アンジ・ポスタコグルー監督の用兵次第では先発起用もあり得るロビー・クルーズ(ボーフム)。ともに前日の午後以降に到着したという両名だが、その表情のコントラストは明確だった。

 27日の夜に試合を終えて中国から到着したばかりのスピラノビッチは、立って囲み取材に対応。表情も明るく、疲れの色は見えない。一方、スピラノビッチよりも少し遅く到着したクルーズは近くにあったソファにどかっと腰を下ろし、いかにも時差ボケというような眠そうな表情での対応だった。

 日本でもプレー経験のあるスピラノビッチは、久々に復帰した代表を外から見ていた感想などを次のように述べた。

「(代表に呼ばれなかった約10ヶ月の期間)試合をサイドラインからやテレビで見るのは決して簡単なものじゃなかったね。でも、今はこうやってここに戻れて嬉しく思う。(不安されたシステムチェンジも)外から見ていても、ここ数試合どんどん良くなっているし、(コンフェデ杯の)チリ戦なんかとても良かった。チームもやれるという気持ちになっているし、どんどんポジティブな傾向が見えてきている。監督に言われれば、最終ラインのどこでもプレーできるよ」

 さらに、メンバー発表時にポスタコグルー監督が「(彼の中国2部でのプレーは)理想的ではない」と発言したことを受けて、スピラノビッチが今プレーする中国2部リーグに関連する質問が続いた。

 当の本人は、その懸念に対して「とにかくコンスタントな出場機会を得ながら、良いフィットネスを維持すること、それが一番大事。その意味で(中国2部でのプレーは)何の問題もない。コーチも信頼してくれていて、チームもとても良くしてくれているし、僕はとてもハッピーだ。正直、そんなに1部との違いは感じないし、毎週の試合で相手チームが獲得した攻撃的な世界レベルの選手と相まみえている。だから、久しぶりに国際舞台に戻ってきても不安はない」と不安を一蹴して見せた。

「戦う準備ができていないなら、家に帰ったほうがいい」(クルーズ)

 31日の試合に関しては「どちらのチームにもプレッシャーがかかるが、その中でどちらがより冷静で落ち着いて対応できるか。とても優れた2チームの対戦は当然タフなものになる」と語った。

 今回の日本代表では、浦和で槙野智章、ウェスタンシドニー・ワンダラーズ時代に高萩洋次郎とのプレー経験があるDFは現日本代表メンバーの印象を聞かれて、高いクオリティを持った選手として「香川真司、岡崎慎司」の名前を挙げた。終始リラックスした様子でメディア対応を終えたスピラノビッチは、セインスベリーの復調が完全でないと判断されたときに、3バックの一角で出場する可能性は少ないながらも残る。

 一方のクルーズは、中盤の組み合わせにもよるが、右のサイドハーフか2シャドーの一角でのプレーが予想される。

 昨季オフは移籍先がなかなか決まらず周囲をやきもきさせたが、ようやくドイツ2部のボーフムに決まった。長くブンデスリーガでプレーしてきたクルーズにとってはレベルダウンの危惧があるが、「(ドイツ2部は)世界で最高の2部リーグだと思うし、そのあたりの不安は全くない」ときっぱり。

 チームの状態に関しても「先のコンフェデ杯で非常に強い相手にプレッシャーのかかる3試合戦って、特に最後のチリ戦ではとても良い戦いで勝ってもおかしくなかった。日豪両国にとって、ものすごく重要な試合になることは間違いない。どんな相手でも変わらずきちんと臨んでいるが、特にこの試合は90分戦う準備ができていないなら、家に帰ったほうがいいくらいの気持ちで臨まなけれなならない」と自信ありげ。

「キャリアで一番重要な国際試合になるか」という記者の問いには、「いいや、代表チームにとってはすべての試合が重要になる」と即答。平常心で臨むことを強調した。試合に臨む顔ぶれの予想を聞かれると、「試合(の相手)によって、ベストの組み合わせは変わってくるし、そういう風に対応できるメンバーが揃って、誰が出てきても対応できるようになったということが大きい。そのことでメンバーを考えるコーチの頭を悩ませるというのは良いこと」と戦力の充実をアピールしてみせた。

 少し疲れが見えたクルーズだが、「日本にアウェイで初めて勝って歴史を作るという意識ではなく、とにかく自分たちが良いサッカーをして、きっちり3ポイントを持ち帰りたい。その準備はしっかりとできているし、自信はある」ときっぱり。余談になるが、この囲みの最後で豪州人記者が「今朝の北朝鮮のミサイル発射に関しては、どう思う?」と冗談めかして聞くと、「全然知らなかった…」と答えたところで、広報に「フットボールには関係ないから」と遮られたことだけは書き記しておく。

選手たちの表情には余裕も。チーム状態は上向き

 29日の夕方4時、サッカルーズは、前日と同じ味の素フィールド西が丘で全体練習を行った。この日の参加人数は21名。この練習直前に、第2GKのミッチ・ランゲラク(シュトゥットガルト)が「クラブレベルで解決しないいくつかの問題があり、彼との相談もしたうえで今回は合流しないほうがいいとの判断に至った(ポスタコグルー監督)」という理由で合流しないことが決まり、代わりにアダム・フェデリチ(ボーンマス)が水曜日(30日)朝に到着予定と発表された。これで、先発GKが守護神のライアンとなることは、95%以上確定ということになった。

 実際のピッチに現れたのは21名。誰がいないのかと目を凝らすと先発が予想されるFWトミ・ユリッチ(ルツェルン)がいない。広報に急ぎ確認をすると、「すでに来日はしているが、昨日の到着が遅く、今日ここまで来てストレッチ程度のメニューをするには及ばないという判断。ホテルに残ってプールに入っている。ケガなどはまったくない」とのこと。

 別メニューだったのは、到着から時間があまり経っていないアーロン・ムーイ(ハッダーズフィールド)、アレックス・ガースバック(ローゼンボリ)、そしてクルーズの3名。GK2名は独自メニューで、ダッシュ系のトレーニング、そのあとのボール回しのトレニーングを行ったのは16名。ケガの回復具合が気になるセインスベリーとスミスの両名は完全にフルメニューをこなしており、既に完治していると見て間違いなさそうだ。

 この日の練習は冒頭15分公開のはずだったが、一向に広報がメディアを追い出そうとはしない。彼自身も旧知の記者などと談笑しており、写真も動画撮影もまったく規制がなく、決戦間近の緊張感はまだ見られなかった。そうするうちに、1時間少々のセッションが終了して選手が引き揚げていく。結局、トレーニングは全公開となった。選手の表情にもまだまだ余裕の表情が見られるが、ここから徐々に気合いは高まっていくはずだ。

 この2日間の取材を経て、ほぼベストメンバーを揃えてきたサッカルーズの状態は上向きということだけは間違いないとの確信に至った。明日の前日練習、プレスカンファレンスなどを見てからの最終判断にはなるが、そろそろ先発予想を考え始めなければならない。

 泣いても笑ってもあと1日。昨晩のサウジの負けで、日豪両国の置かれた状況は一晩で大きく変わった。豪州は勝てば通過決定。日本は負けたとしても次が出てきた。多少のガチンコ度の低下はあるだろうが、この日豪決戦の重要性は変わらない。決戦までの残された時間、日豪戦直前のこの独特の興奮の高まりを楽しむことにしたい。

(取材・文:植松久隆)

text by 植松久隆