『今日も君は、約束の旅に出る』(瀬那和章/講談社)

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 女優になる夢を諦めかけていたアオの前に、突然現れたかつての想い人は「絶対に約束を破ることができない」体質になっていた――。そんなトリッキーな展開から始まる『今日も君は、約束の旅に出る』(瀬那和章/講談社)は、ライトノベル作家としてデビューし、現在はラノベの枠を越えて活躍している注目作家の最新作だ。

 28歳の国木アオは、役者を目指し上京して10年。前向きに頑張っていたが努力は報われず、限界を感じていた。その時、幼い頃の想い人・森久太郎(もり・くたろう)が突然自分の部屋に「出現」する。

 彼は10年以上前の、アオとの約束「一人じゃ耐えられなくなったとき、自分が駆けつける」を果たすために現れたのだという。アオはあり得ない状況に困惑するが、なんと久太郎は「約束を破ることができない」らしく、約束を果たすためには場所も時間も移動ができるという特異体質になっていた。

 久太郎と再会したことで、アオは「いつか舞台で主演を勝ち取って、一番前で久太郎に見てもらう」という幼い頃の約束を思い出す。その「約束」を果たすため、再び女優を続ける活力を見いだすアオ。

 その後、二人は恋人同士になるのだが、「平凡な」な関係ではいられない。なにせ久太郎は、誰かとの「約束」があれば、一瞬にしてタイムスリップしてしまう。そのため定職にも就けず、定住もできない。それでも久太郎は「約束」を守り続けることに情熱を燃やしている。

 久太郎はなぜ、そのような体質になってしまったのか。二人の恋愛はどうなるのか。女優として中々日の目を見られないアオが、久太郎と交わした約束は果たされるのか。様々な「気になる展開」を持たせつつ、物語は思わぬ展開に突き進んでいく。

 本作、序盤はラブコメ要素も強い。「童貞」で「約束のために一生をかける」久太郎に振り回されつつ、お互い距離を縮めていく二人はなんとも甘酸っぱくてキュンとするところも……。

 だが中盤から、物語は様相を変えていく。ネタバレになってしまうので絶対に書かないけれど、久太郎にとって(そしてアオに感情移入をしていた読者にとっても)衝撃的な展開が待ち受ける。ここでこうなっちゃったら、残りの三分の一(本の厚みのこと)はどうなんの!? と、私は思わず本を一回置いて、深呼吸した(動揺しすぎ)。

 しかし終盤にかけて、物語は「どんでん返し」と息をつかせぬハラハラ展開が怒涛のように押し寄せる。最後の最後まで、結末がどうなるのか本当に分からなかった。

 数ある小説の中には、残念ながら「序盤だけ面白い」とか、「終盤は感動したけど中だるみ」といったものも、なくはない。しかし本作は「ずっと面白い」のだ。常に驚きや笑い、読者を惹きつける「謎」が詰め込まれ、それらが帰結に向かって、一つの線となり収束して感動のラストとなる……本当に面白い小説ってこういうことかと、納得の一冊だった。

約束って、実は、守らなくてもいい約束の方が大事なんじゃないかって。
守らなくていい約束ほど守らないといけないんじゃないかって。

 これは久太郎のセリフだ。

 そして彼はこうも語る。「約束は希望だ」と。

 本書を読んで、その意味を本当に理解したとき、この世にあふれている「約束」を……今までの人生で、あなたが様々な人と交わしてきた「約束」を、かけがえのない大切なものに感じるだろう。

文=雨野裾