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●人材面の課題はAIで分析、解決できる

「働き方改革」を成功させる秘訣は何か。日本マイクロソフトに11年間在籍し、Office 365担当の業務執行役員としてさまざまな企業の働き方改革をサポートしてきた越川 慎司氏は「最近は働き方改革を目的化しがちだが、そうであってはならない。目的と手段を間違えてはならない」と話す。

越川氏は従来型ソフトウェアのOffice製品から、クラウドベースのOffice 365へと移行する過渡期に、「企業がなぜクラウドサービスを導入するのか」を考え、その大きな理由となる働き方改革の推進に寄与してきた。その経験から、「成長して儲ける」「社員が幸せになる」という"当たり前"を達成しつつ、「手段としての"働き方"をどう変えるかにフォーカスした時、成果が出てくる」(越川氏)という。

○人事部のみの主導では失敗する働き方改革

越川氏自身、親の介護や体調不良による入院など、ワークライフバランスが崩れた時期もあった。昨年12月にマイクロソフトを退社、独立して立ち上げた会社「クロスリバー」では、社員の意識改革や業務プロセスの改善をサポートするが、「自身の体験から、ダメだった部分、反省をもとに多くの人に伝えたかった」と話す。

多くの人がイメージする働き方改革は、大手広告代理店の過労死問題に起因する長時間労働の是正といった量的改善だろう。しかし越川氏は「"残業減らし"だけでは企業の儲けは減る。意識改革と業務効率化なくして生産性向上には繋がらない」と指摘する。

「働き方改革は、天から降ってくるものではない。自分たちでどう変えていくのかを主体的に考えなければならない。成功させるポイントは『腹落ち感』。経営者、そして社員も本当に(改革を)やるべきなのかを十分納得しないと主体的に動き出さないし、制度やITツールを導入しても利用率は低い。企業としては利益を出し、社員一人ひとりが幸せになるという目標を全社員に理解させることが第一歩だ」(越川氏)

ただ、正しい働き方改革という答えが一つに集約されるわけではない。しかし、成功率を上げる方法はある。

「弊社が持つ486社分のデータでは、人事部のみの主導ではおよそ60%が失敗している。それは人事制度改革に終止してしまうため。経営企画室のような"経営改革"として捉え全部門が主体的に取り組むことで、成功率は上がる」(越川氏)

KPIの設定も一定ではなく、企業によって異なる。ROEの向上であったり、働きがいを感じる社員の増加、社員定着率の改善、あるいは復職率の向上といったものもあるという。

「ROEの向上はわかりやすいが、人材面の問題はこれまで定量化が難しかった。でも、AIを活用することで『社員の働きがいの指標化』が現実のものとなりつつある。働きがいを可視化すれば社員の幸せを実現しやすくなる。もちろん、少し前から福利厚生を充実させようという日本企業は多かった。でもそれは『働きやすさ』を向上させるだけで"社員さまさま"の施策。社員が自身の成長を楽しみ、成果を残すことに充実感を得るような『働きがい』を持たせることが、企業と社員にとって大切だ」(越川氏)

●働きがいの指標化で"真意を読む"

越川氏はクロスリバーで、機械学習を用いたデータ処理、アンケートの自然言語処理、ヒアリングに基づく感情分析などから社員の働きがいを可視化および指標化している。「コンサルティングという言葉が好きじゃない(笑)。私は"アグリゲーター"として、企業の成長や社員の働きがいの向上など、指標を向上させることを約束して、最後まで責任を持ってやっています」(越川氏)

働きがいの指標化は、隠れた感情も浮き彫りにする。

「欧米人は感情をストレートに表現しますが、日本人は空気を読みながら多層的なコミュニケーションをとることが多く、真意が読みにくい。そこにAIが突き刺さる。Microsoft、Google、AWS各社が提供する"AIの良いところ取り"をして、アンケート調査からインサイトを得ることができる。また対面ヒアリングでは録音・録画データをテキスト化し、また顔の表情や声色をAIで分析して、感情の指標化が可能になる。」(越川氏)

越川氏は感情分析で面白いポイントとして「"働き方"や改革"といった言葉を出すと、眉間にしわを寄せる社員が多い会社、いい顔をする社員が多い会社がわかれる」と話す。もちろん、良い成果につながりやすいのは後者だ。前者は意識改革を入念に行う必要があり、特に経営者の意識改革に力を入れなければならないケースもあるという。「事業生産性の向上を半年で達成することは難しい。だが、意識改革は徹底的にやるし、最後の方には目の色が変わり、"生き生き"してくる」(越川氏)

○働く時間をダイエット

社員の意識が変わることには理由がある。一般的な社員であれば日々の業務に追われ、「個人が自ら改革するきっかけがあまり作れない」(越川氏)。しかし、会社として働き方改革を意識する環境ができつつある今、「このチャンスをうまく活かして自分がさらに成長できるようにチャレンジできる土壌が整ってきた」(越川氏)。

そこで越川氏が進めるのが基礎中の基礎、無駄をなくして、必要なところに再投資することだ。業務改善によって労働効率を高め、労働時間を削減していく。"働き方改革を目的にしてしまう企業では、目先の施策に注力して根本的な業務改善が行われず、むしろサービス残業が増えるケースが出ている。

「現行業務にかける労働時間をまずは10%、そして20%と、徐々に減少させる。進む、振り返る、進む、を繰り返すことで、無駄をなくし着実に効率を高める。かつては労働時間の把握は漠然としていて"棚卸し"が難しかった。しかし今は、ITツールを使って仕事している時間とプライベートの時間、あるいはもっと細かく"コントロールできる時間"と"コントロールできない時間"といった切り分けが容易にできる」(越川氏)

●"気付く"だけで労働時間を2割削減

コントロールできない時間はどうにもならないが、コントロールできる時間、例えば「その場にいるだけの会議」といったものを潰していくことで、自身の仕事に余裕が生まれる。資料作成でも、提出先に事前の詳しいヒアリングを行って期待値を確認できれば、不要なことをしないで済み、作業時間を削減できる。もちろん、ITツールやAIを活用して気付きを得ることができる。

「一つの会社で見た時、例えば数千人在籍している会社がこのセルフコントロールを行えば、労働時間を大幅に削減できる。実際に、1カ月あたりの労働時間を2割削減できた企業が、私のクライアントで6割以上いる。"気付く"ということだけで6割がそれだけの改善に繋がる」(越川氏)

○「Why」と「How」の関係性

また、働く時間を減らすという目標は2つの副次効果を生む。「時間を減らす」というわかりやすい目標立ては「ダイエットのように"減らす"という目的があるから、改善したことに喜びを感じる」(越川氏)。さらに、そこで生まれた余剰時間によって、社員が「自由」と「選択肢」を得ることができる。副業して収入を増やすこともできる。

「アンケートのAI分析では、全員が『自由』という言葉をポジティブに捉える。働く時間が2割縮小すれば、その時間を新規ビジネスに再投資したり、家族と過ごす時間、スキルアップの自由時間に割り当てられる。自分でその改善効果を作り出せば、そのスキルは一生役立つものだし、将来の働き方の"選択肢"に繋げられる」(越川氏)

企業は社員を縛ろうとするが、自由を社員が自ら作り出せる環境であれば、その自由を求めて人材が潰えることはない。満足度ありきの施策ではないから、会社の業績向上にも繋がるというのが越川メソッドとも言えるだろう。越川氏は最後に、経営層が働き方改革への認識を改めて考え直す必要性があると説いた。

「働き方改革を検討することは大切。だが、『なぜ働き方を改革するのか』は一度見直してみた方が良い。もちろん、個人単位でも『なぜ働くのか』といったことを考えるべき。『Why』がわかった人は、『どうやって改革するのか』という『How』が出てくる。Whyが理解できていれば、最初に話した"腹落ち"の手前まで来ているから具体的な行動に落とし込めるはずだ」(越川氏)