『LIFE SHIFT』(著:リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット/翻訳:池村千秋/東洋経済新報社)

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●人生100年時代はもう来ている

 すでに18万部を超えたと宣伝されているベストセラーが『LIFE SHIFT』(著:リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット/翻訳:池村千秋/東洋経済新報社)です。「100年人生時代」というちょっと驚くようなコピーを書店で目にしたという人もいるでしょう。

 興味がある人は一読して損がない一冊だと思いますが、今回はその「さわり」を紹介しつつ、あなたのお金のルールがどう変わるか、ファイナンシャルプランナー目線から紹介してみたいと思います。

 まず、あなたが覚悟しなければいけないのは「人生は100年を考える」ということです。

 今現在の日本人の半数はすでに87歳(男性84歳、女性90歳)まで生きる時代になっています。寿命の伸びは今後も続くと見込まれ、2007年生まれの日本人の半数は107歳まで生きられると予測されています。

 半分が100歳まで長生きする時代ということは、その半分の人は110歳もありうるということです。すでに30〜40代は、自分の人生は90歳以上があるのだと考えておくべきですし、今の20代は、100歳も確実にありうる、と考えて人生を考えておくべきだと思います。

 同書は未来預言書のような趣きですが、その内容を他人事と考えないほうがいいでしょう。もはやそれは「自分ごと」なのです。

●ライフプラン3.0の時代がやってくる

 人生100年時代の生活設計は、今現在の当たり前を根底から覆します。千葉商科大学教授・日本FP協会専務理事の伊藤宏一先生はこうした変化を「ライフプラン3.0」という名前で提唱しています。

「ライフプラン1.0」というのは団塊世代。つまり第二次世界大戦後に生まれ、日本の高度経済成長時代を生きてきた世代の生き方です。簡単にいえば、ひとつの会社でずっと働いていれば会社は潰れず給料はずっと増え続け、生活は豊かになり続けました。家を買ってもインフレによりローンは軽くなり、土地の値段は値上がりしたので苦労はありません。むしろ早く買った人ほど得をしました。

 結婚をしないほうがおかしいと思われるほど結婚が当たり前の世の中で、かつ「夫が会社員、妻が専業主婦」が当たり前の時代で、それでもやっていけました。国の年金に退職金を加えれば、そう困らないほどの収入を老後ももらうことができます。人生はおおむね70〜80年です。なんというか、楽な人生に思えます(本人たちは必死に駆け抜けてきたわけですが)。

「ライフプラン2.0」というのは、バブル世代から団塊ジュニア世代、今アラフォーからアラフィフに移りつつある世代の生き方です。

 転職は比較的増えましたが、まだひとつの会社に勤め続ける人もたくさんいます。家を買う人がほとんどですが、買ったあと家の値段が下がってしまった人もたくさんいます。

 結婚するかどうかは自由になってきました。4人に1人以上が未婚のまま定年退職の年に達します。結婚した場合、共働きが当たり前のスタイルになっていますが、基本的に共働きしないと子育ては大変です。

 国の年金はじりじり下がり続け、破綻はしなくても余裕がある金額ではありません。退職金も景気が悪い時期にモデル額が減らされ、今でも金額は戻っていません。人生は90〜100歳を視野に置くべき世代です。

「ライフプラン2.0」は変化の過渡期にある生き方です。問題がいくつもあらわれ、解決策をまだ見いだせていない時代ともいえます。

 これに対し、「ライフプラン3.0」の中心となるのは、これから社会人になる世代と、すでに社会人となっているアラサーよりも若い世代です。そして、前世代のモデルをまねしてはいけない世代になります。

 では、これから結婚を考えたり、転職や住宅購入を考える世代は、何を考えていくべきなのでしょうか。

●お金のトリセツは、親や先輩のライフスタイルをまねられないと思え

『LIFE SHIFT』や「ライフプラン3.0」の示唆を数百文字でまとめるのは不可能ですが、ポイントをあえて挙げれば、「親や先輩の生き方、お金の使い方はまねなくてもいい」ということになります。たとえば、以下のような変化がこれからやってくるのが、100年人生時代です。

・転職は当たり前になる。40歳でも50歳でも転職をする年齢はもう関係ないし、自分の働く業種や仕事の価値が下がったときは、違う仕事に移ることもためらってはいけない。働く年齢は今よりも上昇し、75歳でもおかしくはない。

・結婚したら共働きして、子育ても「共育て」することが当たり前と考える。マネープランの観点からも共働きはもはや必須だし、失職のリスクを考えても共働きが助けとなる。

・人間関係は重要になる。友人関係、地域コミュニティ、趣味のつながりなどを持つことは100歳まで生きるうえで欠かせない。独身でも既婚者でも人間関係は重要だが、独身者はより強く意識する必要がある。

・家の買い方は難しくなる。そもそも30代で買った家に100歳まで住めるか。今後家は余るので値下がりするだろうが、どこまで値下がりするか、まだわからない。しかし一生賃貸も悩ましい。老後の期間が何十年か不明であるのに、家賃は定年前に確保する必要があるからだ。

・消費と所有については価値が下がる。HuluやNetflixでドラマを見る人やAppleミュージックやAmazonミュージックで聴き放題にする人はディスクを買わない時代だが、同じように書籍も車も「モノ」の所有は縮小していく。必要なときだけレンタルするようなシェアリングエコノミーにシフトする。

・もっと自覚的に老後に備える。公的年金と退職金は重要だが、それだけでは頼りにならない。定年が仮に70歳としても、老後が30年以上あると考えればお金はいくらあっても足りないと思うぐらいがよい。

 以上から少なくともいえることは、上の世代の当たり前のお金の使い方(転職しない、専業主婦、安易に住宅ローンを組む、モノを買う……)は、これからの時代に崩壊するといってもいいでしょう。

 あなたの「お金のトリセツ」は親の時代の教科書ではない、改訂版を読まなければならないわけです。

●100年時代の「長すぎる老後」にどう備えるか

 100年人生時代は、老後の心配も増えます。今なら65歳引退が多いですが、35年も老後があることになるからです。

 まず、「年金受け取り開始が何歳まで遅くなるか」の心配はあまり必要がありません。「受給開始年齢=定年年齢」にする法整備さえできれば、生活にはほとんど問題がないからです。年金制度は給付を下げる選択肢があるので、破綻の心配はほとんどありません。ただし、給付額が減ります。といっても、35年も年金をもらえば、今までの世代の倍くらいの長期にわたって年金をもらうことになるので、一概に損ともいえません。

 問題は、公的年金だけでは老後の生活の「余裕」はないということです。10年の老後なら、倹約して「余生だねえ」と田舎でのんびりしていればよかったのですが、35年の老後は長すぎます。飲み食いだけは困らないといっても、それだけで35年は暮らせないはずです。

 100年時代の老後については、下記の選択肢を組み合わせる必要があります。

(1)現役時代を長くする
しっかり稼いで暮らせる年齢が遅いほど老後は短くなる。短い老後なら予算も少なくてすむ。楽しめる仕事を見つけ、稼げるスキルを持つ必要がある。

(2)老後に備えて貯める
現役時代にしっかり貯めて、老後の取り崩し資金を増やしておく。老後に使える資金をより多くするためには、資産運用のスキルを身につける必要もある。

(3)堅実に老後を暮らす
現役時代と同じ消費生活をするのではなく、使うお金のメリハリをつけ老後の出費は堅実に行う。支出額が減れば少ないお金で豊かに暮らせるチャンスが高まる。

 この3つの方法を組み合わせていく必要があるでしょう。特に、(2)の老後に備えてお金を貯め、かつ資産運用で大きく増やす方法を実行していくことがポイントです。

●100年人生時代は「幸せ」を掴んだ者の勝ち

 100年人生時代についての処方箋はまだ確立していませんが、少なくとも言えることは2つあります。

 1つめは、「今までと同じじゃダメだ」ということです。お金については親にアドバイスを求めがちですが、それ以外の意見も聞くようにしてください。むしろ親の意見は遠ざけるべきかもしれません。

 2つめは、「幸せを見つけた者の勝ち」ということです。お金がたくさんあれば幸せなのではなく、稼いだお金を有効に使って、人生を通じた幸福度を高められるかがこれからのカギです。

 長すぎる人生、無気力で無感動な100年は耐えられません。むしろ些細なことにも楽しみを見いだしたり、ときどきご褒美のように自分にサプライズを与えたり、新鮮な驚きを得るためいろんなところに飛び込んでみたり、人生には工夫が必要です。

 25歳のときには思いもしなかった楽しさを40歳で見つけたり、70歳から新しい友人関係や趣味を楽しめる人は、「人生100年時代」に対応できることでしょう。

 そして、その楽しい人生を支えるためのお金のこともしっかり考えていってください。
(文=山崎俊輔/フィナンシャル・ウィズダム代表)