美化された過去と不確定な未来の“差分”を利用し、そこに嘘や願望を染み込ませていくのがポピュリズムの常套手段であると語るモーリー氏

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『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが欧米で近年勢いづく移民排斥派の実態について語る!

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“Acceptance(受諾)”ではなく“Denial(拒否)”―そんなトランプ政権下のアメリカで悲劇が起きました。7月下旬、米テキサス州のスーパーマーケットの駐車場に停められた大型トレーラーの中に100人以上の不法移民が詰め込まれているのが発見され、熱中症とみられる症状で数十人が病院に搬送。うち10人が亡くなったのです。おそらく移民ブローカーから人身売買まがいの扱いを受けていたのでしょう。

グローバル化により人々の往来は激しさを増す一方で、南北格差(先進国と途上国の経済格差)が解消される気配はなく、政情不安に襲われる国も多い。命がけでも豊かな国に行こうとする人々は後を絶ちません。それでも先進国側は率先して格差を解消しようとするどころか、貧しい国の労働力や資源に依存しつつ、その反動として押し寄せる移民・難民は受け入れたくないという態度を一様に取り始めています。

これは麻薬問題でも同じことがいわれますが、“現実”はもうそこに厳然と存在するのです。本来はそれを受け入れ、共存していくしか道はない。それなのに、現実の急速な変化に対応できないあまり、集団逃避的に問題の存在を認めず、ただ拒絶しようとする――これが欧米で近年勢いづく移民排斥派の実態です。

彼らは総じて栄光の過去を語ります。あの頃のわが国は素晴らしかった、あの理想に立ち返ろう……。しかし忘れてはいけないのは、人間にとって「過去」というものは必ず記憶のなかで整理整頓され、秩序立って見えるという事実。その整然たる記憶にそそのかされがちですが、実際にはどの時代にもさまざまな不安要素やリスクがあり、それでも人々はなんとかやってきたのです。美化された過去と、まだ見ぬ不確定な未来の“差分”を利用して、そこに嘘や願望を染み込ませていく―これがポピュリズムの常套手段であるということは、誰もが知っておくべきでしょう

これは決して対岸の火事ではなく、まったく同じことが日本にも当てはまります。それどころか日本の場合、多くの大手メディアは現実逃避的な高齢者に寄り添うばかり。本当は清濁併せのみながらやっていくしかないのに、「憲法9条さえあれば平和は続く」「原発がなくてもやっていける」「経済成長がなくてももう十分だ」……と、「今のままでいい型」の議論が増えていく。この流れのなかで、「日本は移民を受け入れる必要がない」と堂々と語る人、それを信じる人も少なくありません。日本の製造業の多くの部分がすでに外国人労働に依存しているという“現実”には目もくれずに

みずほ総合研究所は先日、日本はすでに移民国家と言っていい状況だとするレポートを発表し、「移民政策や外国人労働者の受け入れについて議論を進めていくべき」と結論づけています。おおむねそのとおりだと思いますが、ひと言つけ加えるなら、もともといる日本人にとって“都合のいい移民”―労働力低下を補填(ほてん)する目的だけの移民の議論をしてもあまり意味はない。そうではなく、閉鎖的な社会を変え、多様性のあるマルチリンガルな国にするというビジョンを持つべきでしょう。未来を切り開くのは“Denial”ではなく“Acceptance”なのです。

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)

1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム』(月〜金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中。ほかにレギュラーは『ニュースザップ』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(block.fm)など