変なホテル受付(写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

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 今、もっともホテル業界で注目を浴びているのは「変なホテル」だろう。

「変なホテル」とは2015年夏、長崎県佐世保市のハウステンボスにオープンしたホテルで、“変わり続けることを約束する”というコンセプトにした、ロボットが活躍する次世代型のスマートホテルだ。

 1992年に開業したハウステンボスは、オランダの街並みを再現し、園内に水や電力、ゴミのリサイクルシステムなどを備え、自然の生態系を守る取り組みを続けているテーマパークだ。経営不振で2003年には初期投資の負債2289億円を解消できず、会社更生法の適用を申請して破綻に追い込まれた。

 野村プリンシパル・ファイナンスによる支援時代を経て10年、エイチ・アイ・エス(H.I.S.)が経営再建に乗り出した。H.I.S.会長の澤田秀雄氏の肝いりで始めたのが、環境に配慮しつつリーズナブルで快適、そして楽しい仕掛けがあり、「世界一生産性の高いホテル」を目指す「変なホテル」だ。

 ハウステンボスに隣接して建設された1号棟では、ロボットが受付業務を行い、ロボットアームで荷物を預かるなど、ロボット活用による業務効率化を推進している。16年11月には、「初めてロボットがスタッフとして働いたホテル」としてギネス世界記録に認定された。

 そして今年3月15日、千葉県浦安市富士見にオープンしたのが、2号施設となる「変なホテル舞浜東京ベイ」だ。2号施設は、東京ディズニーリゾート(TDR)を訪れたユーザーにホテルでも楽しんでもらうため、フロントに水槽で泳ぐ魚ロボットを投入するなどエンターテインメント性を追求したという。

 今夏、この2つの「変なホテル」を利用する機会があったので、その潜入レポートを夏休みの日記風に報告したい。

●7月×日 「変なホテル ハウステンボス」

 JR九州大村線のハウステンボス駅からハウステンボス入場口まで徒歩10分。駅からは歩道しかないので、思ったより歩かされるというのが第一印象だ。さらに、入場口付近のタクシー乗り場の案内板によると、変なホテルはそこから10分以上かかるので、タクシーに乗ったほうがいいとある(乗車料金は500円)。ところが、タクシーに乗ると数分で「変なホテル」につく。なんだかいきなりボラれた気分だ。

 期待は受付対応の恐竜、ところが、受付の恐竜は機械式で動くばかりで、特に役に立つわけではない。客が目の前にあるタッチパネルでサイン認証することで、ルームカードキーを発行してもらえるシステムになっている。インターネットでの申し込み時にクレジットカードで精算も済んでいる。つまり、受付の恐竜は飾りにすぎないのだ。

 部屋はロビーのある建物から離れたいくつかの棟に分かれており、部屋に行くまでに屋外を行ったりきたりする必要がある。雨が降ってきたので、急いで部屋に向かわなくてはならない。さらに驚くべきは、部屋のある棟がプレハブなのだ。内装はラグジュアリーホテル風になっていて快適だが、問題は朝食だ。朝食はハウステンボスに隣接したレストランまで屋外を歩かなくてはいけない。雨となれば、朝食をとるために傘を差して行かなければならないというのは億劫だ。しかも朝食は無農薬がウリとなっている。もちろん悪くはないが、宇宙関連のフードやロボット食が出てくるようなイメージだったので、やや拍子抜けだ。

 また、部屋でアイロンや加湿器を使用するためにはロビー棟まで借りに行かなくてはいけないのだ。「変なホテル」とは「世界一生産性の高いホテル」を目指しており、従業員は最小限。宿泊客が自ら動き回らないといけないのだ。

 困ったのは深夜だ。部屋には、すべての客室に設置された人工知能(AI)搭載のコミュニケーションロボットがあり、「ユーザーの声を認識し、空調や照明の調整、テレビのチャンネル切り替えなどをサポートしてくれるほか、簡単な会話も楽しむことができる」とあるが、深夜にインターネットを閲覧して、しばらく身体を動かさないでいると照明を勝手に落とされて真っ暗になってしまう。なんとも、経費節減を重視したAIだ。

 翌朝のチェックアウトは、ルームカードキーを受付で返却するだけで終了。最近、ビジネスホテルで増えてきた、ルームカードキーをただ機械に差し込むだけのタイプだ。フロントでタクシーを呼んでくれるかと思いきや、自分で呼ばなければならない。宿泊客は日本人家族連れとアジア人カップルが多い印象だった。

●8月×日 「変なホテル舞浜 東京ベイ」

 朝からTDRで遊び回ったため、暑くなった午後はいったんリゾートを出て「変なホテル舞浜東京ベイ」へチェックインし、シャワーを浴びて少し仮眠することにした。ホームページではTDRから「徒歩圏内」とあるが、歩くのはかなり厳しい。20〜30分かかるうえに、ひたすら浦安の住宅街を歩かされる。「夢の国」の魔法が一気に覚める立地だ。とはいえ、目の前に牛丼チェーンの松屋やドラッグストアがあり、ビジネスホテルを利用するビジネスパーソンにとっては最高の立地といえるかもしれない。

 チェックイン開始は午後3時だが、少し早めに着いた。通常のホテルでは、早めに到着しても清掃が終わった部屋から順次チェックインが行われる。案内を待つ間も、広めのラウンジでインターネットを見ながら、ゆったりソファーで待つことができる。ところが、「変なホテル 舞浜東京ベイ」のチェックインは機械式のため、3時までは受付の電源が入らず、ラウンジで待つことになる。しかも、多くの客が早めに到着しており、ラウンジは家族連れが多い上に、ラウンジには同ホテル名物の大きな恐竜が鎮座しているため、ソファーがほとんどない。つまり、ひたすら3時まで動かない機械の恐竜の前で順番待ちで立たされるのだ。

 3時になるとスタッフが受付の電源を入れ、恐竜たちが動き出し、受付が進む。部屋に入ると、内装は「変なホテル ハウステンボス」とほぼ同じだが、やや狭い。東京のビジネスホテルでありがちな、部屋にはベッドだけという、「完全顧客無視」「利益最優先」のつくり。

 朝食は、よくありがちなビジネスホテルの朝食と変わらない内容だった。アイロンや加湿器を使用するためには、ロビーまで借りに行く必要がある。チェックアウトも、ハウステンボスと同様、ルームカードキーをただ機械に差し込むだけで、タクシーは自分で呼ぶ必要がある。客のニーズや統計パターンでタクシーを自動で配車してくれるようなサービスはまったくない。

 結論。「変なホテル」とは「世界一生産性の高いホテル」を目指しているだけで、実際はいかに従業員をカットするかを追求したホテルで、サービスは二の次となっている。子供が喜ぶ夏のイベントにすぎない。

「変なホテル」は、愛知県蒲郡市のラグーナテンボスに3号棟を今夏、オープン。今後は海外でも出店を加速させ、5年以内に100棟以上を展開する計画だというが、恐竜という著作権フリーのキャラクターを前面に押し出し、コストカットを最大限に追求した、顧客目線ゼロのホテルビジネスがどこまで受け入れられるか、注目したい。
(文=椎名民生)