「Thinkstock」より

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 最近、不動産投資がはやっている。誘い文句は「土地がなくても、頭金が少なくても、アパート経営はできます」というものだ。

 年金制度が危ぶまれるなか、相続対策や不労所得への憧れから、副業として不動産投資を行う会社員も多いという。投資用マンションを購入したり、消費者金融などノンバンク系の金融機関から借金をして、アパートを建設、経営したりといった方法だ。

 今や、大都市圏ではアパートの建設・販売を行う会社が雨後の筍のごとく乱立している。いずれも、セールストークは前述のような甘言だ。

 今、不動産事業はかつてない宴の時を迎えている。日本銀行のマイナス金利政策に加えて、メガバンクや地方銀行は貸出先がなく、行き場を失ったマネーは不動産市場に流れ込んでいる。しかし、いくら不動産事業が好景気とはいえ、安易なアパート経営は危険ではないのか。

「立地の良い土地を保有していて自己資金中心の資金計画であれば、アパートを建設して安定収入を得ることも可能です。しかし、そうでなければ安易にやるべきではありません」と警鐘を鳴らすのは、青山財産ネットワークス執行役員で財産コンサルティング事業本部副本部長の高田吉孝氏だ。

●賃貸住宅の需要は大幅減少が確実

「賃貸住宅の需要予測を考えるためには、単純な人口推移だけでなく、新規の住宅需要層といわれている20〜40代の人口がどう推移していくかを見る必要がある」と高田氏は言う。

 国立社会保障・人口問題研究所のデータで20〜40代の首都圏(1都3県合計)の人口推計を確認したところ、2015年は1477万人、25年には1247万人、40年には1021万人になっていた。約7割である。20年後には、ただでさえ空き家が増えているので住宅が大量に余り、賃貸住宅の需要は現在と比較して3割減少してもおかしくはない。

 アパートの空室率は15年から高止まり状態だ。タスが発行している賃貸住宅市場レポートによると、1都3県アパート系(木造、軽量鉄骨)の空室率は、神奈川県が約37%、千葉県が約34%、東京23区が約34%、東京市部は約33%、埼玉県が約32%で、いずれも15年1月から急速に伸びている。

 これは、相続税改正の影響で地主たちが節税対策に乗り出したためといわれているが、アパートは供給が需要をはるかに超えている現状がある。

 そんななかで、借金をしてまでアパート経営に乗り出すのは得策とはいえない。しかも、多くのアパート建設・販売会社に共通しているのは、「35年間もの間、家賃は下がらない」と試算していることだ。35年間、オーナーが負担するのは管理手数料と建物管理費のみだという。1年目に負担となる不動産取得税だけでなく、固定資産税やリフォーム・修繕費の支出が明記されていないことも問題だ。

 あるアパート建設・販売会社のホームページでは、「空室率はほぼゼロ」とうたっているが、前述の人口動態を考えれば、今後は空室率が高まっていくのが必然だ。

 問題は、さらにある。筆者は30年間建設業界で働いた経験があるが、アパートにせよ、マンションにせよ、劣化しない建設構造物は存在しない。それは、土木でも建築でも同じだ。

 あるアパート建設・販売会社は、国の基準である「劣化対策等級2」を取得しているため、「長期間にわたって大規模改修は不要」と宣伝している。しかし、それは梁や柱などの構造にかかわる部分が対象だ。

 木造建築は想像以上に劣化が早い。10年を超えれば、内装、外装、塗装、防水などの工事が必要になる。その時期は建築物によって異なるが、いずれにしても「大規模改修の必要がない」というセールストークは悪質といっていい。仮にそのような宣伝文句を目にしたら、その時点で疑ってかかるべきだ。

●赤字続きで利益なしの“負動産”になる可能性も

 しかしながら、アパート建設・販売会社のパンフレットやDVDを取り寄せてみると、実によくできている。ノンバンク系の金融機関から資金の大半を借り入れて1億円を投資、ローン返済や管理手数料などの支払いをすれば、あとは何もしなくても月5万円ほど入ってくる……そんな不労所得は確かに魅力的だ。建築や不動産の知識がなければ、業者のセールストークを鵜呑みにする人も多いだろう。

 たとえ1億円の資金を用意できなくても、公務員や一部上場企業の課長、中堅企業の部長クラスであれば、ノンバンク系は年利2%ほどで資金を貸し出すことが多い。だからこそ、アパート建設・販売会社のセミナーに副業や老後のために足を運ぶ会社員が少なくないのだ。

 さらに、アパート建設・販売会社が選択する土地は、確かに悪くない場所を選んでいる。「住みたい街ランキング」などで上位にランクインするエリアを開発することが多いのだ。たとえば、上京する学生や会社員のなかには「安くても狭くてもいいから、このエリアに住みたい」という考えを持つ人も多く、そうした需要に応える施策といえる。

 しかし、現実的な家賃の下落、空室率の増加、毎年貯めておくべき長期修繕費用の積み立てを考えれば、場合によっては最初から赤字で一度も利益を出さない“負動産”になる可能性もある。そして、家賃の下落によりローンを払えなくなり、最終的には破産することも十分にあり得るのだ。

 それらの事情に鑑みると、アパート建設・販売会社のシナリオは楽観的すぎる。一方で、金融投資であれば慎重になるにもかかわらず、不動産投資になると積極的に借金を背負う人も少なくないという現実がある。

 不動産について、今は土地代も建築費用も高くなっているというのが筆者の実感だ。本来は安いときに不動産を取得して、のちにビジネスを行うのがベストだが、今は高い。となれば、失敗するケースが増えてもおかしくはない。

 手に負えなくなると、「土地と建物を売って借金返済にあてよう」と考えるが、1億円で購入した土地・建物が1億円で売れるはずがない。結局、その後は借金返済に追われる人生になるか、破産するはめになるかもしれない。

「極論をいえば、40年には首都圏でも20〜40代の人口が約3割減少するので、家賃も約3割以上下がってもおかしくはありません。自己資金が半分以上で建築していれば、3割家賃が下がっても赤字になることはないでしょう。

 しかし、今の市況下で全額借り入れでのアパート建築や不動産投資を行った場合、2割家賃が下がったら赤字になるでしょう。不動産投資は立地が何よりも重要ですが、さらに将来的な人口動態を踏まえて家賃が下落する前提で資金計画を立てる必要があります。そして、ほかにどのようなリスクが潜んでいるか、よく見極めたほうがいいでしょう。自分の財産は自分で守る時代です」(高田氏)

 財産管理のプロの見立てや結論は、このようなものだ。世の中、甘い話はそうそう転がっていないということだろう。
(文=長井雄一朗/ライター)